はじめに|長引く咳の原因は・・・
「風邪かな?」と思っていた咳が、なかなか治らない…。夜になると激しく咳き込み、息が苦しくなる…。そんな経験はありませんか?それ、百日咳(ひゃくにちぜき)かもしれません。
百日咳は、大人でも子どもでもかかる可能性がある細菌性の感染症で、早期発見と対応がとても重要です。この記事では、百日咳の原因・症状・経過・治療・予防法まで、わかりやすく解説します。
百日咳とは?風邪とは違う長引く咳の正体
百日咳とは、ボルデテラ・パータスシス(Bordetella pertussis)という細菌によって起こる呼吸器感染症です。その名の通り、咳が長く続く(場合によっては100日以上)のが特徴です。
特に子どもに多く見られますが、大人でも免疫が弱っていると再感染することがあります。実際、近年ではワクチン効果の減弱により成人患者が増えている傾向も報告されています。
百日咳の流行状況と感染経路
百日咳はかつて、ワクチンが普及する前には非常に多くの子どもたちがかかる感染症でした。しかし、定期予防接種の普及により、全体としての発生数は減少しました。
ただし、ここ数年では以下のような状況が報告されています。
- 周期的な小流行が起こる
- 10歳以上の小中学生、大人の患者が増加
- 乳児に感染すると重症化しやすい
感染経路は飛沫感染です。咳やくしゃみを介して、人から人へとうつります。
特に注意すべきは赤ちゃんへの感染です。赤ちゃん自身はまだ予防接種が十分に完了していないため、周囲の大人や兄姉からうつることが多いのです。
百日咳の症状とは?特徴的な咳とその経過
百日咳の症状は、風邪のような咳から始まり、次第に激しい咳へと変化していくのが特徴です。咳の段階は大きく3つに分かれます。
- カタル期(感染後1〜2週間)
- 軽い咳、鼻水、微熱など
- 普通の風邪とほとんど見分けがつかない
この時期が最も感染力が強いにもかかわらず、症状が軽いため見逃されやすいです。
- 痙咳(けいがい)期(2〜6週間)
- 突然始まる激しい咳き込み
- 咳が止まらず、顔が赤くなったり、息が苦しくなったりする
- 子どもでは「ヒュー」という吸気の音が出る(笛のような音)
- 咳の後に吐いてしまうこともある
この咳発作は、夜間に多く起こりやすく、睡眠を妨げる原因にもなります。
- 回復期(数週間〜数か月)
- 咳の回数は徐々に減っていく
- しかしちょっとした刺激で咳がぶり返すことも多い
- 長い人では数か月にわたって咳が続く
百日咳を疑うべき症状・タイミング
以下のようなときは、百日咳を疑い、医療機関を受診しましょう。
- 咳が2週間以上続いている
- 夜間や運動後に咳き込みが強くなる
- 咳のたびに息が苦しい、顔が赤くなる、嘔吐する
- 周囲に同じような咳をしている人がいる
- 自分が風邪を引いたあとに赤ちゃんが咳をしはじめた
特に、小さなお子さんや赤ちゃんがいる家庭では、大人の「たかが咳」が重大なリスクになることを覚えておきましょう。
百日咳と抗菌薬耐性菌の問題
近年、日本国内やアジア諸国を中心に、百日咳菌の「マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシンなど)」に対する耐性が問題になっています。
従来は、マクロライド系が百日咳の治療薬として第一選択とされてきました。しかし、薬が効きにくい「耐性百日咳菌」が検出されるケースが報告されており、治療が長引いたり、症状が改善しないケースも増加しています。
百日咳の検査と診断方法
百日咳の診断には、以下のような方法が用いられます:
- 鼻咽頭ぬぐい液のPCR検査
- 抗体検査(ペア血清)
ただし、診断確定には時間がかかることが多いため、臨床症状や流行状況を参考にして早期治療が始まることもあります。
百日咳の治療法|早期の対応がカギ
百日咳の治療には、以下の方法があります。
抗菌薬治療
- 代表的な薬:クラリスロマイシン、アジスロマイシン、エリスロマイシン
- 発症初期(カタル期)に使うと症状を軽くする効果がある
- 痙咳期以降は菌は減っても咳は続くため、抗菌薬で咳そのものを止めることは難しい
対症療法
- 咳止めや去痰薬などはあくまで補助的
- 重症の場合は入院し、酸素投与や点滴が必要
乳児や持病のある方、高齢者では重症化リスクが高いため、早期の受診と診断がとても大切です。
百日咳を予防するには?生活でできる対策
百日咳は予防が最も大切な感染症のひとつです。以下のような対策を心がけましょう。
ワクチン接種の確認を
- 子どもの**定期予防接種(DPTワクチン)**は必ず受けましょう
- ワクチンの効果は年数が経つと弱まるため、大人にも追加接種が推奨される場合があります
- 赤ちゃんがいる家庭では、周囲の大人もワクチンで守る「コクーン戦略」**が効果的です
咳が長引く場合は早めに受診
- 自分は軽い風邪と思っていても、他人にとっては重大な感染源になることも
- 特に赤ちゃんや高齢者、基礎疾患のある方と接する機会がある場合は注意が必要です
基本的な感染対策も重要
- 咳エチケット(マスク・手で口を覆う)
- 手洗い・うがい
- 体調不良時は無理せず休む
まとめ|長引く咳は百日咳かも?早めの対策で重症化を防ごう
百日咳は、咳が長引くのが特徴の細菌性の感染症です。とくに赤ちゃんや高齢者にうつると重症化のリスクがあるため、**「自分が軽い風邪だと思っていても油断しないこと」**が大切です。
ワクチンで予防できる病気だからこそ、接種スケジュールの確認や再接種の検討、体調変化への早期対応が家族全体を守るカギになります。
参考文献
- 厚生労働省 感染症情報「百日咳」
- 国立感染症研究所 感染症発生動向調査
- 日本小児科学会「百日咳Q&A」
- 日本感染症学会 感染症治療ガイドライン