1.爪水虫(白癬)とは?
爪水虫(つめみずむし)は、医学的には「爪白癬(つめはくせん)」と呼ばれる病気で、白癬菌というカビ(真菌)の一種が爪に感染して起こります。日本では高齢者を中心に多くみられ、足の爪に発症することがほとんどですが、手の爪にも感染する場合があります。
白癬は皮膚や髪の毛、爪などケラチンを含む部位に感染する真菌症で、水虫(足白癬)やいんきんたむし(股部白癬)などの仲間です。
厚生労働省の調査では、60歳以上の3人に1人が爪白癬を有しているとされ、日本における潜在的な感染者数は1,000万人以上とも推定されています。
爪白癬は一見、見た目の問題だけに見えますが、爪が変形することで歩行が困難になったり、転倒リスクを高めたりするため、適切な治療と予防が重要です。
2.爪水虫(白癬)の症状
爪白癬の症状は徐々に進行し、自覚症状が乏しいこともあります。以下のような変化に気づいたら、早めに皮膚科を受診することが大切です。
主な症状:
- 爪が白く濁る、または黄色・茶色く変色する
- 爪が厚くなる
- もろく割れやすくなる
- 爪がボロボロと崩れる
- 爪が変形・湾曲する
- 進行すると痛みや違和感を伴うことも
とくに親指や小指の足爪に好発し、1本だけにとどまらず、複数の爪に広がることもあります。
3.爪水虫(白癬)はどんな人になりやすい?
爪白癬は年齢とともにリスクが高まります。以下のような方はとくに注意が必要です。
なりやすい人の特徴:
リスク要因 | 説明 |
---|---|
高齢者 | 爪の成長が遅く、免疫も低下しており感染しやすい |
足白癬(いわゆる水虫)を持っている人 | 白癬菌が皮膚から爪に感染しやすい |
糖尿病や免疫低下のある人 | 感染に対する抵抗力が低下している |
長時間靴を履く人 | 蒸れやすい環境は白癬菌が繁殖しやすい |
スポーツジムやプール利用者 | 他人の白癬菌がうつる機会が多い |
家族に水虫持ちがいる人 | 間接的な接触によって感染の可能性がある |
とくに足白癬を放置していると約3割が爪白癬を併発するともいわれており、水虫は軽視できません。
4.爪水虫(白癬)の診断
爪白癬は見た目だけでは診断できません。似た症状を呈する病気もあるため、正確な診断のためには顕微鏡検査や培養検査が必要です。
主な診断法:
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KOH法(10%水酸化カリウム溶液検査)
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患部の爪を削って顕微鏡で白癬菌の存在を確認。
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培養検査
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真菌を培養して特定の白癬菌かどうかを調べる。
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PCR検査(一部医療機関)
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遺伝子レベルで菌を特定する高精度検査。
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特に最近ではPCR法が注目されており、診断精度の向上が図られています。
鑑別診断が必要な疾患:
- 外傷性の爪変形
- 乾癬性爪病変
- 爪甲剥離症
- 内臓疾患に伴う爪変化
5.爪水虫(白癬)の治療
爪白癬の治療には長期間(6か月以上)が必要です。以下のような治療法が一般的です。
① 外用薬(塗り薬)
代表的なのはエフィナコナゾール(ルコナック®)やルリコナゾール(クレナフィン®)といった新しい外用薬。これらは爪の中に浸透しやすい設計になっており、1日1回塗布します。
- 対象:軽度~中等度の症例、1~2本程度の感染
- 治療期間:6~12か月
② 内服薬(飲み薬)
より重症な場合や外用で効果が乏しい場合に用います。代表的な薬剤は以下の通りです。
薬剤名 | 特徴 |
---|---|
テルビナフィン(ラミシール®) | 最も広く使われており、効果も高い |
イトラコナゾール(イトリゾール®) | パルス療法(1週間投与+3週間休薬)も可能 |
- 対象:複数の爪への感染や重度の白癬
- 注意点:肝機能障害や他剤との相互作用に注意が必要
③ 外科的治療・レーザー治療
難治性の場合、爪の除去やレーザー治療が行われることもありますが、保険適用外が多く、効果も限定的です。
6.爪水虫(白癬)にならないために【予防が大切!】
白癬菌は高温多湿な環境を好むため、日常生活の工夫が重要です。
予防のポイント:
- 毎日足を清潔に保つ(とくに指の間)
- 靴や靴下は通気性の良いものを選ぶ
- 足拭きマットやスリッパを共有しない
- プールや温泉のあとには足をよく洗い乾かす
- 水虫がある場合は早期治療して拡大を防ぐ
- 家族に感染者がいる場合は個別の爪切りやタオルを使用
また、爪を短く整えることで白癬菌の温床を防ぐ効果もあります。
7.まとめ:放置せず、正しい治療と予防を
爪水虫(爪白癬)は見た目の問題だけでなく、歩行障害や二次感染のリスクもある疾患です。早期診断・早期治療が鍵であり、治療期間が長いことを理解し、継続することが治癒の近道です。
また、家族内での感染予防や日常生活の工夫も忘れずに行いましょう。
参考文献
- 日本皮膚科学会. 「白癬・カンジダ・癜風診療ガイドライン2023」.
- Hay RJ et al. “Epidemiology of onychomycosis: prevalence, risk factors and economic impact.” Br J Dermatol. 2001.
- 厚生労働省. 感染症・真菌症に関する調査資料.
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA). 外用抗真菌薬ルコナック・クレナフィン審査報告書.
- Gupta AK et al. “Onychomycosis: strategies to improve efficacy and reduce recurrence.” J Eur Acad Dermatol Venereol. 2016.