1.でべそとは?
「でべそ」とは、へその部分が外側に突き出た状態を指し、医学的には臍(さい)ヘルニア(umbilical hernia)と呼ばれます。とくに新生児や乳児に多く見られる現象で、赤ちゃんのお腹に圧をかけたとき、へその部分がぷっくりと膨らんでいるのが特徴です。
でべそ自体は命に関わる病気ではなく、自然に治ることも多いため過度な心配は不要ですが、適切な診察と経過観察が必要です。まれに成人でも発症することがあり、この場合は別の病気が隠れていることもあります。
2.でべその原因
でべその主な原因は、腹壁の筋肉(腹直筋)の隙間が閉じきらないことにあります。
新生児・乳児の原因
胎児のとき、臍帯(へその緒)を通して母体とつながっていた穴(臍輪)が、出生後に自然に閉じていきます。しかし、生後しばらくの間この穴が閉じないと、腹圧がかかった際に腸や腹膜脂肪が脱出して「でべそ」となります。
- 早産児
- 低出生体重児
- 便秘や泣き声が強い子
- 腹圧が高い状況(咳・嘔吐など)
などがリスク因子として知られています。
成人の原因
成人での「でべそ」は後天性の臍ヘルニアであり、以下の要因が関連します。
- 妊娠・出産
- 肥満
- 腹水の貯留(肝硬変など)
- 過度な腹圧負荷(重労働など)
- 加齢による筋力低下
これらによって、腹壁が弱くなりヘルニアが形成されます。
3.でべその診断
① 視診・触診
小児の場合、へそが膨らんでいることから「でべそ」と気づかれることが多く、医師による視診と触診が診断の基本です。泣いたり、力んだりしたときに膨らむ特徴があります。
② 超音波検査(エコー)
- 腹腔内容物(腸など)がどれくらい脱出しているか
- 臍輪の大きさ
- 皮膚の厚みや炎症の有無
などを調べます。非侵襲的で安全な検査法です。
③ CTやMRI(成人で重症の場合)
成人の臍ヘルニアや再発のある場合、より詳細な画像検査が必要になることがあります。特に腫瘤や他の病気との鑑別が必要な場合に有用です。
4.でべその治療
小児の治療:自然治癒が多い
多くの場合、1〜2歳までに自然治癒します。臍輪が自然に閉じると、腸や脂肪が脱出しなくなり、でべそも引っ込みます。
保守的な対応(経過観察)
- 定期的な小児科フォロー
- 泣きすぎや便秘のコントロール
テープ固定療法
臍部分をガーゼなどで押さえてテープで固定する方法もありますが、感染や皮膚炎のリスクがあるため、現在ではあまり推奨されていません[2]。
成人や自然治癒しない場合の治療:手術が基本
- 臍輪の欠損が大きい
- 5歳を過ぎても治らない
- 脱出が大きく、整復困難
- 腹水や腫瘤を伴う場合
これらに該当する場合は、ヘルニア修復手術が適応されます。
手術方法
- 開腹手術または腹腔鏡手術
- 人工メッシュを使用することも
- 日帰り手術も可能な施設あり
成人では再発防止のためにメッシュ補強が選択されることもあります。
5.でべそを放っておくとどうなる?
小児でのリスク
基本的に小児では大きな問題にならないことが多いですが、以下のようなリスクもあります。
- 嵌頓(かんとん)ヘルニア:腸が締め付けられて戻らない
- 脱出が目立ち、整容上の問題になる
- 感染や炎症が起こることがある
とくに嵌頓は緊急手術が必要になるため、赤み・嘔吐・強い泣き・触ると痛がるといったサインがあれば、すぐに受診が必要です。
成人でのリスク
成人の臍ヘルニアでは、以下の点に注意が必要です。
- ヘルニア内容物の壊死や腸閉塞のリスク
- 腹水を伴う場合は肝硬変など重篤な病気が隠れている可能性
- 再発や悪化の可能性が高く、手術が必要
美容目的での手術も可能ですが、見た目以上に重症疾患のサインである可能性もあるため、必ず専門医の診察を受けましょう。
6.まとめ
ポイント | 内容 |
---|---|
でべそとは | 臍から腸や脂肪が脱出する「臍ヘルニア」 |
原因 | 小児では臍輪の閉鎖不全、成人では腹圧増大や筋力低下 |
診断 | 視診・触診・エコー、成人ではCTが有用なことも |
小児の治療 | 多くは自然治癒、5歳以降や大きなヘルニアは手術検討 |
成人の治療 | 原則手術。腹壁補強や腹腔鏡手術が選択されることも |
放置リスク | 嵌頓、感染、整容上の問題、重篤疾患の可能性も |
参考文献
- 日本小児外科学会. 臍ヘルニア診療ガイドライン(2020).
- Komaroff AL. Harvard Medical School Health Letter. “Umbilical Hernias in Children”. 2019.
- 中山徹ほか. 臍ヘルニアの自然経過と治療成績. 日本小児外科学会雑誌. 2016;52(3):140-145.
- 宮崎佳也. 成人の臍ヘルニア手術における腹腔鏡下メッシュ修復の有用性. 日本外科雑誌. 2021;82(5):250-255.
- 日本消化器外科学会. 腹壁ヘルニア診療ガイドライン(改訂第2版). 2022.