1.尿膜管異存とは?
尿膜管異存(にょうまくかんいぞん)とは、胎児期に一時的に存在していた「尿膜管(urachus)」という管が、出生後も残ってしまう先天的な異常です。
尿膜管は、本来、胎児の膀胱とへそ(臍)をつなぐ細い管で、尿を胎盤に排出する役割を担っています。出生とともに不要となり、通常は閉じて「正中臍索(せいちゅうさいさく)」という線維組織になりますが、これが一部または全部残った状態を「尿膜管異存」と呼びます。
尿膜管異存には以下のタイプがあります:
タイプ | 説明 |
---|---|
尿膜管瘻(ろう) | 尿膜管が完全に開通し、へそから尿が漏れる |
尿膜管嚢胞 | 管の中間部が閉じずに袋状になる |
尿膜管洞 | へその側のみが開いている |
膀胱側開存 | 膀胱から尿膜管への通路が開いている |
症状は?
- へそからの分泌物(膿や尿)
- へその赤みや腫れ、繰り返す感染
- 下腹部のしこり(嚢胞)
- 膀胱炎のような排尿痛や血尿
小児に多いとされますが、大人でも感染や症状の発現によって発見されることがあります。
2.尿膜管異存の原因
尿膜管異存は先天的な構造異常であり、胎児の発育過程で本来閉じるはずの尿膜管が閉じずに残ってしまうことが原因です。
胎児は妊娠5~7週ごろに尿膜管を形成し、膀胱と臍を接続する経路として機能します。しかし、妊娠12週ごろには役割を終えて自然と閉鎖していくはずのこの構造が、何らかの原因で閉じきらないことがあります。
はっきりとした遺伝的要因や環境因子は明らかにされていませんが、胎児の発達異常の一種と理解されています。
3.尿膜管異存の診断
問診と身体診察
まず、へその分泌物や炎症の繰り返しといった症状に基づいて疑われます。特に、小児で臍からの分泌が止まらない場合は要注意です。
画像診断
- 超音波検査(エコー):小児では最初に選ばれる非侵襲的な検査。嚢胞の存在を確認できます。
- CT検査:成人では特に有用。嚢胞や瘻孔の正確な位置、感染の広がりを評価可能です。
- MRI検査:複雑な形状の評価や周囲組織との関係性を見るために使われることもあります。
- 膀胱造影検査:膀胱と尿膜管の交通の有無を確認する際に行われます。
鑑別診断
以下の疾患との鑑別が重要です。
疾患 | 特徴 |
---|---|
臍炎 | 臍の感染による腫れや分泌。尿膜管異存が隠れていることも |
臍腸管遺残 | 小腸と臍を結ぶ管(卵黄腸管)の異常 |
臍ヘルニア | 臍が突出する。腸管が含まれることもあり緊急性がある |
4.尿膜管異存の治療
基本は「手術」での摘出
尿膜管異存は自然治癒しないため、根治的な治療は手術による摘出です。嚢胞や瘻孔が感染する前であれば比較的短時間の処置で済みますが、感染がある場合には抗菌薬の投与やドレナージ(排膿)が必要となることもあります。
手術の流れ
- 画像検査で病変を特定
- 状態に応じて全身麻酔下に摘出術
- 感染がある場合は事前に治療してから摘出
最近では、腹腔鏡手術によって低侵襲に摘出できるケースも増えています。特に嚢胞のみが残っている場合は、腹腔鏡下での摘出が術後の回復も早く、整容的にも優れています。
手術の合併症リスク
- 膀胱損傷
- 術後感染
- 尿漏れ
- 瘢痕形成
十分な術前評価と経験豊富な医師による治療が重要です。
5.尿膜管異存の有名人
尿膜管異存は非常にまれな疾患であり、公表している著名人は多くありませんが、日本のお笑い芸人である「博多華丸」さんが尿膜管異存で手術を受けたと2018年にテレビ番組内で語っています。
彼は「おへそから膿が出る」という症状で病院を受診し、尿膜管遺残(尿膜管嚢胞)と診断されたと話しており、“笑い事では済まない臍トラブル”として話題となりました。
こうした事例がメディアで取り上げられることで、あまり知られていない疾患でも、早期診断や適切な治療のきっかけとなる可能性があります。
6.参考文献
- Yiee JH, Garcia N, Baker LA. A practical guide to pediatric urachal anomalies. Pediatr Radiol. 2010;40(5):766–775.
- Parada Villavicencio C, Adam SZ, Nikolaidis P, Yaghmai V, Miller FH. Imaging of the urachus: anomalies, complications, and mimics. Radiographics. 2016;36(7):2049–2063.
- 日本泌尿器科学会. 尿膜管遺残症に関するガイドライン解説. 2020年版.
- 博多華丸、「へそから膿」で病院に行ったら尿膜管の病気と診断された体験談. [フジテレビ系番組「ホンマでっか!?TV」, 2018年12月5日放送].