1.こどもが頭を打ったときはまずどうしたらいい?
こどもは活発で、日常の中で転んだり、何かにぶつかったりして頭を打つことがよくあります。頭部外傷は多くの場合軽症ですが、脳へのダメージがあるかどうかを見極めることが重要です。
まずは、以下の点を冷静に観察しましょう。
✅ 観察ポイント
- 呼びかけに反応するか(意識はあるか)
- 出血や腫れの有無
- 嘔吐があるか(回数も確認)
- 顔色や呼吸の様子
- けいれんや手足の異常な動きがないか
泣いて反応がある場合は意識があるサインともいえます。ただし、その後の経過観察が非常に重要です。
2.すぐに病院を受診したほうがいい?
次のような症状があれば、すぐに医療機関を受診することをおすすめします。
🏥 受診が必要な症状
- 意識がはっきりしない、ぼんやりしている
- 2回以上の嘔吐
- 痙攣やけいれん
- 頭部の変形や骨折の疑い
- 耳や鼻からの出血・液体(髄液漏れ)
- 手足の動きに左右差がある
- 呼吸が不規則
- 高所(1メートル以上)からの落下
3.危険な症状とは?
以下の症状がある場合は、脳震盪や頭蓋内出血の可能性があるため緊急対応が必要です。
危険な症状 | 疑われる疾患例 |
---|---|
意識もうろう | 脳震盪、脳浮腫 |
繰り返す嘔吐 | 頭蓋内圧亢進、出血 |
異常行動・けいれん | 脳損傷、神経異常 |
視線が合わない | 脳神経麻痺 |
手足の左右差 | 脳出血、神経症状 |
4.いつまで様子を見たらいい?
打撲直後の症状が軽くても、24~48時間は注意深く観察してください。夜間は、2~3時間ごとに起こして呼びかけへの反応を見ることも大切です。
⏰ 経過観察のポイント
- 24時間以内:意識・嘔吐・けいれん・歩行異常などを注意
- 48時間以内:集中力低下・元気がない・ふらつきなども要観察
5.CT検査は必要?(CT検査のデメリット)
頭部CTは、脳出血や骨折の有無を確認するのに有効ですが、被ばくのリスクもあるため、むやみに撮るべきではありません。
📉 小児CT検査のデメリット
- 放射線被ばくによる将来的ながんリスク
- 小児は放射線に対する感受性が高い
- 鎮静(眠らせる処置)が必要なこともある
そのため、多くの医療機関ではCATCHルールやPECARNルールというエビデンスに基づいた基準を用いて、CT検査の適応を判断しています。
6.CATCHルールとPECARNルールの比較
以下に、2つの有名な小児頭部外傷用CT適応ルールの比較を示します。
📊 小児頭部外傷におけるCT適応ルールの比較表(CATCH vs. PECARN)
比較項目 | CATCHルール | PECARNルール |
---|---|---|
開発国 | カナダ | アメリカ |
対象年齢 | 0〜16歳未満 | <2歳、2〜18歳(年齢別評価) |
GCSスコア | 13〜15 | 14〜15(軽度外傷) |
対象となる外傷 | 頭部打撲・意識消失を含む軽度外傷 | 頭部打撲後の意識あり症例 |
評価項目数 | High-Risk:5項目 Medium-Risk:2項目 |
年齢別に各6項目 |
高リスク項目例 | 2回以上の嘔吐、意識消失、GCS低下、骨折疑い | 意識レベル変化、頭蓋骨陥没、機嫌の悪さなど |
CT回避率 | 中程度 | 高い(30〜50%のCT削減効果) |
推奨される使い方 | CTを「撮るべきか」の判断基準 | CTを「避けられるか」の判断基準 |
エビデンスの質 | 前向き研究(Osmond, 2010) | 多施設共同大規模研究(Kuppermann, 2009) |
日本での普及 | 北米中心 | 日本でも徐々に普及中 |
7.どこに受診したらいい?
状況に応じて、適切な医療機関に相談・受診することが大切です。
🏥 受診先の目安
状況 | 受診先 |
---|---|
意識障害・嘔吐・けいれん | 救急外来(小児科または脳神経外科) |
出血がある・処置が必要 | 救急または小児外科 |
判断に迷う場合 | 小児科クリニックまたは#8000に電話相談 |
頻回に頭を打つ | 小児神経専門外来 |
8.まとめ:頭部外傷時の基本は「観察」と「判断」
こどもが頭を打ったとき、慌てずに観察し、危険な症状を見極め、必要に応じて受診することが最も大切です。CT検査は有用な一方でリスクも伴うため、CATCHやPECARNといった医学的基準を元に、必要なときに適切に行うことが推奨されます。
参考文献
- Osmond MH et al. CATCH: a clinical decision rule… CMAJ. 2010.
- Kuppermann N et al. Identification of children at very low risk… Lancet. 2009.
- 日本小児科学会. 小児外傷対応ガイドライン
- 日本救急医学会. 小児頭部外傷におけるCTの適応
- 放射線医学総合研究所. 小児被ばくに関する指針
- 厚労省. 小児救急電話相談事業「#8000」