1.アルツハイマー型認知症とは?
アルツハイマー型認知症は、認知症の中で最も多く見られるタイプで、全体の約60〜70%を占めるとされています(世界保健機関:WHO, 2023)。脳の神経細胞が徐々に壊れていくことで、記憶力や判断力などが低下し、日常生活に支障が出てくる病気です。
進行性の疾患であり、症状はゆっくりと始まり、徐々に重くなっていきます。早期発見・早期介入が症状の進行を遅らせる鍵となります。
2.アルツハイマー型認知症の症状
症状は以下のような段階を経て進行します。
● 初期症状
- 最近の出来事を忘れる(短期記憶障害)
- 同じ話を繰り返す
- 物の置き場所がわからなくなる
- 時間や場所の感覚が薄れる
● 中期症状
- 人や物の認識が難しくなる
- 着替えや入浴などの生活動作が困難に
- 妄想や徘徊などの行動障害
- 言葉が出にくくなる(失語)
● 末期症状
- 寝たきり
- 摂食障害や排泄障害
- 意思疎通が困難になる
症状の出方や進行スピードには個人差があります。
3.アルツハイマー型認知症の原因
アルツハイマー型認知症の主な原因は、アミロイドβという異常なたんぱく質の蓄積と、それに伴うタウたんぱく質の異常です。これらが神経細胞にダメージを与え、脳が萎縮していきます。
また、以下の要因も関連しています。
要因 | 内容 |
---|---|
加齢 | 発症リスクは加齢とともに増加 |
遺伝 | APOE遺伝子(特にε4型)が関与 |
生活習慣病 | 高血圧、糖尿病、高脂血症との関連 |
喫煙・運動不足 | 血管障害を引き起こし脳機能に影響 |
教育歴 | 学歴が低いほど発症リスクが高い傾向 |
4.どのような人がアルツハイマー型認知症になりやすいか?
以下のような人は、発症リスクが高いとされています。
- 65歳以上の高齢者(特に80歳以上)
- 家族に認知症の既往がある人
- 運動不足や孤立した生活をしている人
- 高血圧や糖尿病を長く患っている人
- 慢性的なストレスやうつ病を抱えている人
多くの因子が複合的に作用しており、予防可能な因子の管理が非常に重要です。
5.アルツハイマー型認知症はどのように診断するのか?
診断は、主に以下のプロセスで行われます。
● 問診・認知機能検査
- 長谷川式認知症スケール(HDS-R)
- MMSE(Mini-Mental State Examination)
● 画像検査
- MRIやCT:脳の萎縮の有無を確認
- SPECTやPET:脳の血流や代謝の変化を評価
● 血液検査・その他
-
ビタミン欠乏や甲状腺異常など、他の原因による認知症の除外が目的
6.アルツハイマー型認知症は血液検査で診断できる?
これまで、アルツハイマー型認知症の確定診断は主に画像検査や脳脊髄液検査が必要でしたが、近年では血液検査による診断技術が急速に進化しています。
● 血液バイオマーカーの開発
例えば、アミロイドβ42/40比やp-tau181などの血中濃度を測定することで、アルツハイマー型認知症との関連を高精度で検出できるとする研究が進められています(Janelidze et al., 2020)。
日本国内でも、島津製作所や武田薬品工業などが血液診断キットの臨床導入に向けて開発中であり、早期診断・治療介入が現実のものとなりつつあります。
ただし、現時点(2025年)では、保険適用はされておらず、研究段階である点に注意が必要です。
7.アルツハイマー型認知症の治療法(生活習慣・薬物療法)
● 薬物療法
- ドネペジル(アリセプト):アセチルコリンエステラーゼ阻害薬。記憶力の低下を遅らせる。
- メマンチン:NMDA受容体拮抗薬。中等度〜高度の認知症に使用。
- その他、新薬としてレカネマブ(抗アミロイドβ抗体)が厚生労働省により承認され、**疾患修飾療法(DMT)**への期待が高まっています。
● 生活習慣改善
- 定期的な運動(ウォーキング、体操)
- バランスの取れた食事(地中海式食事など)
- 脳トレーニング(読書、会話、囲碁など)
- 良好な睡眠環境の確保
- 社会的なつながりの維持
認知症は完全に治る病気ではありませんが、進行を遅らせる・生活の質を保つことは可能です。
8.認知症サポート医とは?
「認知症サポート医」とは、厚生労働省が設置を推進している、地域の認知症医療の中心的役割を担う医師のことです。
● 役割
- 初期診断や薬物調整
- 家族への情報提供・支援
- 多職種との連携によるケア体制の構築
- 認知症カフェや地域包括支援センターとの連携
● なぜ重要?
認知症のケアは、医療だけでなく福祉・地域支援と連携した総合的なアプローチが求められるため、サポート医の存在は極めて重要です。
9.まとめ
アルツハイマー型認知症は加齢とともにリスクが高まり、誰もが関わりうる病気です。しかし、早期発見・早期介入・生活習慣の見直しによって、進行を遅らせることが可能です。今後、血液検査による早期診断の実現も期待されており、医療の進歩とともに希望も広がっています。
家族や地域とともに、支え合いながら認知症と向き合っていく社会づくりが今、求められています。
参考文献
- World Health Organization. “Dementia.” (2023). https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/dementia
- Janelidze, S., et al. (2020). “Blood phosphorylated tau 181 as a biomarker for Alzheimer’s disease: a diagnostic performance study.” The Lancet Neurology, 19(5), 422-433.
- 厚生労働省 認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)
- 日本認知症学会. “アルツハイマー型認知症の診療ガイドライン.”
- 島津製作所. 「アルツハイマー型認知症における血液検査の研究開発状況」(2023).