最期まで自分らしく生きるために:ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とは?

薬・その他

1.ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とは?

ACP(Advance Care Planning:アドバンス・ケア・プランニング)とは、「将来の医療やケアについて、本人が望む方針を、前もって家族や医療者と話し合っておくプロセス」のことを指します。日本語では「人生会議」とも呼ばれ、厚生労働省も積極的にその重要性を啓発しています。

この考え方は、認知症や重篤な病気、事故などで自分の意思を伝えられなくなったときでも、自分の価値観に沿った医療やケアを受けるための備えです。

ACPでは、次のような点を明確にしていきます。

  • どのような治療や延命措置を望むか
  • どこで最期を迎えたいか(病院、自宅、施設など)
  • 苦痛の緩和や心のケアの優先度
  • 家族や医療者への意思伝達の方法

2.ACP(アドバンス・ケア・プランニング)はなぜ必要か?

現代医療では、延命治療が高度に進歩し、生命を長らえることが可能になった一方で、「本人が望まない延命」が行われるケースも少なくありません。

たとえば、意識を失った後に心肺蘇生や人工呼吸器を使用される場合、それが本当に本人の意思だったかどうかが分からず、家族が苦悩する状況がしばしば見られます。

厚生労働省の調査(2020年)によると、国民の約70%が「最期は自宅で穏やかに過ごしたい」と考えているにもかかわらず、実際に自宅で亡くなる人は約15%に留まっています。このギャップの一因が、「意思表示がなされていないこと」だと考えられます。

ACPは、本人・家族・医療者の三者間の認識を一致させ、後悔の少ない人生の終末期を迎えるための土台となるのです。

3.ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とAD(アドバンスディレクティブ)の違いは?

似た言葉として「AD(Advance Directive:事前指示書)」がありますが、ACPとADは目的や実行段階が異なります。

項目 ACP(アドバンス・ケア・プランニング) AD(アドバンス・ディレクティブ)
意味 意思決定のための話し合いのプロセス 本人の意思を文書等にして残すこと
内容 継続的な対話、価値観の共有 延命治療の希望・拒否などを明記
形式 非公式なメモや口頭も含む 書面化が前提
タイミング 繰り返し見直すもの 一度作成したら変更しにくいことも

つまり、ACPは対話を重視する「プロセス」、ADはその結果を明文化した「成果物」とも言えます。ACPの中で、ADを作成するかどうかを決めることもあります。

4.ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とDNARの関連性

ACPと混同されやすい用語として「DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)」があります。これは「心肺停止時に蘇生処置を行わない」という明確な医療行為の指示です。

ACPは広く「人生の最終段階における医療・ケアの希望」を話し合う枠組みであり、その中で「DNARの意思」も確認するという関係になります。

つまり、DNARはACPの一部であり、ACPの話し合いの中で「延命措置についてどう考えるか?」という問いに対する答えの一つがDNARです。

重要なのは、DNARの判断は一度決めたら終わりではなく、本人の状態や考えの変化に応じて柔軟に見直されるべきであるという点です(日本救急医学会ガイドライン 2015)。

5.ACP(アドバンス・ケア・プランニング)をうまく進めるには?

ACPを円滑に進めるためには、いくつかのポイントがあります。

● ① 早めに始める

ACPは「終末期が近づいてから」のものと思われがちですが、むしろ元気なうちに始めておく方が効果的です。特に高齢者や慢性疾患を抱えている方は、早期に話し合いを始めておくとよいでしょう。

● ② 家族を交える

ACPでは、本人と医療者だけでなく、家族も交えて話すことが望ましいです。そうすることで、いざという時に家族が「本人の思い」を代弁しやすくなります。

● ③ 繰り返し話し合う

一度決めた内容でも、状況や気持ちは変わるものです。定期的にACPの内容を見直し、必要があれば更新する姿勢が重要です。

● ④ 書面化やメモを残す

口頭だけでなく、簡単なメモでもよいので本人の意思を記録しておくと、医療者や家族が判断しやすくなります。

6.ACPはいつから始めるべき?

結論:“元気なうちから”が理想的

ACPは「病気になってから」「終末期に入ってから」始めるものと思われがちですが、実は 健康なうちから始めることが理想とされています。ACPは単なる「最期の話し合い」ではなく、自分の価値観や生き方を振り返る「人生全体の対話」だからです。

● タイミング別の目安

タイミング 説明
健康なうち 自分の価値観や希望をじっくり考えられる時期。家族と話す余裕もある。
慢性疾患の診断時 治療の選択肢や今後の見通しを考えやすい。価値観の整理にも適している。
入院や手術前 意識障害などが起こる前に、治療の方針や延命処置への希望を確認。
高齢者施設への入居前 施設スタッフとの方針共有のために重要。本人の尊厳を守る基盤になる。
認知機能の低下が始まった時 判断力が保たれているうちに話し合いをしておくことが不可欠。

● 早く始めるメリット

  • 家族が混乱せず、いざという時に迷わない
  • 医療者と信頼関係を築きやすい
  • 本人の価値観や希望を丁寧に整理できる
  • 意思の変化にも柔軟に対応できる

● 厚生労働省も「早めのACP」を推奨

厚生労働省の「人生の最終段階における医療に関するガイドライン」(改訂2023)では、ACPは「健康な時期から、繰り返し行われるべきプロセス」と明記されています。

7.ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とかかりつけ医

ACPの実践には、「かかりつけ医」の存在が極めて重要です。かかりつけ医は、日常的な健康管理を行いながら、患者の価値観や人生観を理解しているからです。

例えば、家庭医や総合診療医は、患者の医療ニーズと生活背景の両方に目を向けた継続的な関係を築いており、ACPの話し合いに適した立場にあります。

実際に、在宅医療や慢性疾患管理を行う診療所の多くが、患者さんとのACPの導入に積極的に取り組んでいます(厚生労働省:人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書 2023)。

また、医師だけでなく看護師やケアマネジャー、地域包括支援センターの職員など多職種連携のもとでACPを支える体制づくりも進んでいます。

8.まとめ

ACP(アドバンス・ケア・プランニング)は、「自分らしい最期」を迎えるための大切な準備です。本人が意思を表明し、家族や医療者と共有することで、いざという時に「後悔しない選択」が可能になります。

特別な資格や制度がなくても、誰もができる取り組みです。元気な今こそ、自分の「生き方」と「最期」について話してみませんか?

参考文献

  1. 厚生労働省. 人生会議(ACP)について. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000185789.html
  2. 日本救急医学会. DNARに関するガイドライン(2015)
  3. 日本医師会. アドバンス・ケア・プランニングに関する提言(2020)
  4. Lynn J, Harrold J. “Handbook for Mortals.” Oxford University Press.
  5. 日本在宅医療連合学会. ACP実践のためのガイドライン(2022)
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