1.食物アレルギーとは?
食物アレルギーとは、特定の食べ物を摂取した際に、体の免疫システムが過剰に反応し、さまざまな症状を引き起こす疾患です。アレルギー反応は軽いかゆみから命に関わる重篤なショック症状(アナフィラキシー)までさまざまです。
日本では乳幼児期に多く見られますが、成人になってから発症するケースも増加しています。アレルギー反応は、食べ物を摂取した直後から数時間以内に起こることが一般的です。
2.食物アレルギーの症状
食物アレルギーの症状は全身に現れる可能性があり、主に以下のように分類されます。
症状の分類 | 主な症状 |
---|---|
皮膚症状 | じんましん、かゆみ、赤み、湿疹、顔や唇の腫れ |
呼吸器症状 | 喘鳴(ゼーゼー)、咳、呼吸困難、のどの違和感 |
消化器症状 | 腹痛、嘔吐、下痢、吐き気 |
循環器症状 | 血圧低下、意識障害、アナフィラキシーショック |
特に注意すべきは「アナフィラキシー」です。これは短時間で全身に重篤な症状が現れる状態で、速やかな治療が必要です。
3.食物アレルギーの原因・機序
食物アレルギーは免疫システムの誤作動によって起こります。
【原因となる主な食品(特定原材料)】
日本では「特定原材料」として以下の8品目が表示義務とされています(2024年時点):
- 卵
- 乳
- 小麦
- えび
- かに
- そば
- 落花生(ピーナッツ)
- くるみ(2023年から追加)
これに加え、アレルギー表示が推奨されている20品目(アーモンド、バナナ、大豆、いかなど)もあります。
【免疫反応のメカニズム】
- 感作(初回摂取):初めての摂取で抗体(IgE抗体)が作られ、肥満細胞に付着。
- 再摂取時の反応:再び同じ食品を摂ると、IgE抗体が反応してヒスタミンなどの化学物質が放出される。
- アレルギー症状が出現。
6.食物アレルギーの検査と診断
正確な診断には医師の問診と検査の組み合わせが重要です。
主な検査方法
検査法 | 特徴 |
---|---|
血液検査(特異的IgE) | 特定のアレルゲンに対する抗体量を測定。陽性でも症状が出るとは限らない。 |
皮膚プリックテスト | アレルゲンを皮膚に付けて反応を見る。比較的迅速だが、即時型アレルギーのみ判定可。 |
食物除去試験 | 問題のある食品を一定期間避け、症状の変化を観察する。 |
食物経口負荷試験(OFC) | 医療機関でアレルゲンを少量ずつ摂取して反応を見る、最も確実な検査。救急体制が必要。 |
7.食物アレルギーの治療
現時点での食物アレルギーの治療は「原因食品の除去と必要時の対症療法」が基本です。
① 食事からの原因食品の除去
医師の診断をもとに、必要最小限の食品を除去します。過剰な除去は栄養不足やQOLの低下につながるため注意が必要です。
② アナフィラキシー対策:エピペンの処方
重篤な症状の既往がある方には**自己注射薬「エピペン」**が処方されます。緊急時のアナフィラキシー対応として必須です。
③ 減感作療法(経口免疫療法:OIT)
近年では医療機関で管理のもと少量の原因食品を継続的に摂取することで耐性を得る「経口免疫療法」も行われています。ただし、副作用やリスクもあり慎重な対応が必要です。
8.検査で陽性だと食べられない?
これはよくある誤解のひとつです。
血液検査でIgE抗体が陽性でも、実際には症状が出ないケースも少なくありません。
逆に、陰性であっても症状が出る「非IgE型アレルギー」も存在します。
そのため、診断は検査結果だけでなく「問診・既往歴・負荷試験などを総合的に評価」して行われます。不要な除去を避けるためにも、自己判断ではなく専門医による診断が重要です。
8.食物アレルギーのよくある誤解
誤解 | 正しい情報 |
---|---|
アレルギーは一生治らない | 年齢とともに治ることもある(特に卵・乳・小麦など) |
検査で陽性=食べてはいけない | 検査結果だけでは判断できない。医師の診断が必要 |
少しなら食べても大丈夫 | 重篤なアレルギーでは微量でもアナフィラキシーを起こすことがある |
自己流で除去すればOK | 栄養バランスを崩すリスクあり。医師・管理栄養士の指導が大切 |
アレルギーは皮膚にしか出ない | 呼吸器や消化器、全身に症状が及ぶことがある |
■ 小児と成人の食物アレルギー原因食品の違い【一覧表】
年齢層 | よく見られる原因食品 | 特徴 |
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小児(特に乳幼児) | 卵、牛乳、小麦、大豆、ピーナッツ(落花生) | 離乳食に含まれる食品が中心。成長とともに耐性を獲得することも多い。 |
学童期~思春期 | ピーナッツ、ナッツ類、甲殻類(えび・かに)、果物類 | 新たな食品を摂取するようになりアレルギーが出現するケースあり。 |
成人 | 甲殻類、魚類、小麦、果物(バラ科:リンゴ・モモなど)、ナッツ類、そば、セロリ、スパイス類 | 小児期に問題がなかった食品でも、成人後に突然発症することがある。交差反応も多い。 |
■ 小児に多いアレルゲンの特徴
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卵・牛乳・小麦:日本の小児食物アレルギーの三大原因食品です。
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乳児期の離乳食で初めて摂取されることが多く、アレルギー反応が起こりやすい。
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成長とともに耐性がついて自然に治ることも多い(約70〜90%)。
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ピーナッツ・大豆:欧米に比べて日本ではやや頻度は低いが、アレルギーがあると重篤化する傾向がある。
■ 成人に多いアレルゲンの特徴
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甲殻類(えび・かに)・魚類(サバ・サケなど):即時型アレルギーやアナフィラキシーの原因として多い。
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成人ではこれらの摂取機会が増え、発症しやすくなる。
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果物(リンゴ、モモ、キウイなど):花粉との**交差反応による「口腔アレルギー症候群(OAS)」**が原因。
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特にシラカバやスギ花粉に感作されている人が、果物摂取時に口の中がかゆくなるなどの症状を訴える。
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そば・ナッツ類・スパイス類:重篤なアナフィラキシーを引き起こす可能性があり、成人の発症が多い。
■ なぜ年齢でアレルゲンが変わるのか?
- 免疫系の成熟:乳幼児は消化管や免疫バリアが未熟で、異物(アレルゲン)を受け入れやすい。
- 食習慣の違い:年齢によって食べる食品が変わることで、新しいアレルゲンに曝露される。
- 経口免疫寛容の獲得:一部の食品に対しては、成長に伴って免疫が過剰反応しなくなる(自然治癒)。
- 職業や環境の影響:大人では、調理業・医療業・外食頻度の増加などがアレルゲンへの曝露を増やす。
9.参考文献
- 日本アレルギー学会. 『食物アレルギー診療ガイドライン2021』
- 厚生労働省. アレルギー疾患対策 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000069681.html
- 日本小児アレルギー学会. https://www.jspaci.jp/
- 小児アレルギーエデュケーター養成委員会. 食物アレルギーの基礎知識(2023年版)
- Sicherer SH, Sampson HA. Food allergy: Epidemiology, pathogenesis, diagnosis, and treatment. J Allergy Clin Immunol. 2014.