1.子宮頸がんとは?
子宮頸がん(しきゅうけいがん)は、子宮の入り口(子宮頸部)に発生するがんで、20代後半から40代に多くみられる女性特有の病気です。子宮頸がんの大きな特徴は、そのほとんどが「ヒトパピローマウイルス(HPV)」というウイルス感染によって引き起こされる点にあります。
HPVは性交渉によって感染するウイルスであり、日本人女性の約80%が一生に一度は感染するとされています。ただし、感染しても多くの場合は自然に消失しますが、一部の人ではウイルスが持続感染し、数年から十数年の期間をかけてがんへと進行してしまうのです。
2.子宮頸がんと年間死亡者数
子宮頸がんは、比較的若い女性でも命を奪う深刻な疾患です。日本では毎年約10,000人が子宮頸がんと診断され、約2,800人が命を落としています(厚生労働省:2022年人口動態統計)。これは1日に7〜8人の女性が子宮頸がんで亡くなっている計算になります。
特に問題なのは、ワクチンと検診という「予防のチャンス」があるにも関わらず、死亡者数が依然として高止まりしている点です。
3.子宮頸がんワクチンの実施状況(日本と海外の比較)
日本の状況
日本では2009年からHPVワクチン(サーバリックス、ガーダシル)が使用され始め、2013年には公費による定期接種が開始されました。しかし、副反応への過度な懸念報道をきっかけに、同年に厚生労働省が積極的な接種勧奨を一時中止。この影響で接種率は一時1%未満にまで低下しました。
その後、科学的な検証により安全性が再確認され、2022年に接種勧奨が再開されました。さらに2023年からは9価ワクチン「シルガード9」も定期接種の対象となり、キャッチアップ接種(1997~2006年度生まれの女性への無料接種)も開始されています。
海外の状況
一方、オーストラリアやイギリス、スウェーデンなどではHPVワクチンの接種率が80〜90%と高く、すでに「子宮頸がんの撲滅」が現実的な目標とされています。
特にオーストラリアは世界で初めて子宮頸がんの撲滅を視野に入れており、2035年までに新規患者数を人口10万人あたり4人未満に抑えるというWHOの基準を達成すると期待されています。
6.子宮頸がんワクチンの効果
HPVワクチンの主な目的は、がんの原因となる高リスク型HPV(特に16型と18型など)への感染を防ぐことです。近年では以下のような効果が報告されています。
- 感染予防効果:HPV16型・18型に対する感染予防率は90%以上
- 前がん病変(CIN2+)の予防効果:接種者では70~90%のリスク低下
- がんそのものの抑制効果:接種率が高い国では、20代女性の子宮頸がん発症率が半減しているという報告あり(The Lancet, 2021)
また、最新の9価ワクチン(シルガード9)は、HPVの90%以上の発がん型をカバーしており、従来型(2価・4価)よりも広範な予防効果が期待できます。
7.子宮頸がんワクチンの対象者・スケジュール
対象年齢(定期接種)
- 小学6年生から高校1年生相当の女子(満12歳~16歳未満)
- 2022年からは無料で9価ワクチン(シルガード9)も選択可能
キャッチアップ接種(2022年〜2025年)
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1997~2006年度生まれの女性は、公費で無料接種が可能
スケジュール
- 2価ワクチン/4価ワクチン:0・1・6か月の3回接種
- 9価ワクチン(15歳未満):0・6か月の2回接種
- 9価ワクチン(15歳以上):0・2・6か月の3回接種
副反応としては、注射部位の痛みや腫れ、頭痛、発熱などが報告されますが、重篤な副作用は非常に稀であり、接種の利点がはるかに大きいとされています。
8.子宮頸がんワクチンは打つべきか?
子宮頸がんワクチンは、数少ない「がんを予防できるワクチン」です。特に性交経験前の若年層においては、HPVの感染前に接種することで最も高い予防効果を発揮します。
厚生労働省、日本産科婦人科学会、日本小児科学会、さらには世界保健機関(WHO)も接種を強く推奨しています。
接種を検討する際のポイント
チェックポイント | 解説 |
---|---|
年齢・性別は? | 対象年齢であれば無料接種可能(女性限定) |
性交経験前か? | 未経験なら高い予防効果が期待される |
ワクチンの種類 | 現在は9価ワクチンが主流で予防範囲が広い |
副反応のリスク | 重篤なリスクは非常に低い(安全性は検証済み) |
「接種するべきか?」という疑問に対して、現時点での科学的知見は明確です。「受けられるなら、できるだけ早期に受けるべき」です。
9.参考文献
- 厚生労働省. 子宮頸がんワクチンに関する情報ページ.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000183313.html - World Health Organization. Global strategy to accelerate the elimination of cervical cancer as a public health problem. 2020.
- Drolet M, et al. Population-level impact and herd effects following the introduction of human papillomavirus vaccination programmes: updated systematic review and meta-analysis. Lancet. 2019;394(10197):497–509.
- Hall MT, et al. The projected timeframe until cervical cancer elimination in Australia: a modelling study. Lancet Public Health. 2019;4(1):e19–e27.
- 日本産科婦人科学会. 子宮頸がん予防ワクチンに関する提言(最新版).
- 日本小児科学会. HPVワクチンに関するQ&A. https://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=421