1.にきびとは?
にきび(医学的には「尋常性ざ瘡(じんじょうせいざそう)」)は、毛穴の皮脂腺が詰まり、炎症を起こすことで発生する慢性皮膚疾患です。思春期に多く見られますが、大人になってから発症する「大人にきび」もあります。
日本皮膚科学会によれば、にきびは皮脂の分泌過多、毛穴の閉塞、アクネ菌(Cutibacterium acnes)の増殖、炎症反応という4つの要素が関係しています(日本皮膚科学会 2023)。
にきびは病気です
「青春のシンボル」とされがちですが、実際にはれっきとした皮膚疾患であり、適切な治療が必要です。放置すると色素沈着やクレーターのような瘢痕(はんこん)を残すこともあります。
2.にきびの症状
にきびの症状は進行段階に応じて変化します。
種類 | 症状の特徴 |
---|---|
面皰(コメド) | 毛穴の詰まり(白ニキビ・黒ニキビ) |
丘疹 | 赤く盛り上がった炎症性のにきび |
膿疱 | 膿をもった黄色いにきび |
結節・嚢腫 | しこりのように深く腫れるにきびで、瘢痕の原因に |
重症化すると「結節性ざ瘡」や「囊腫性ざ瘡」と診断され、専門的な治療が必要になります。
3.にきびの原因となりやすい人
ホルモンバランスの影響
・思春期(男性ホルモンの増加)
・生理前後や妊娠中(女性ホルモンの変動)
皮脂の分泌が多い人
・オイリー肌体質
・脂っこい食生活
毛穴の詰まりやすい習慣
・メイクの落とし残し
・髪の毛が肌に触れる
・洗顔不足または過剰な洗顔
ストレスや睡眠不足
自律神経の乱れや免疫機能の低下がにきびを悪化させます(Thiboutot D et al., 2009)。
その他
・遺伝的要因
・喫煙、糖質過多、便秘
6.にきびの検査と診断
にきびの診断は、基本的に**視診(見た目による評価)**で行われます。
にきびの重症度分類(日本皮膚科学会)
- 軽症:面皰が主
- 中等症:炎症性丘疹や膿疱が混在
- 重症:結節や嚢腫が目立つ
必要に応じて行われる検査
- アクネ菌の培養検査
- 内分泌異常(女性で多嚢胞性卵巣症候群など)の血液検査
- 他の皮膚疾患(酒さ・毛包炎など)との鑑別
7.にきびの治療と薬
外用薬(塗り薬)
薬の種類 | 商品名例 | 主な作用 |
---|---|---|
アダパレン(レチノイド) | ディフェリン | 毛穴の詰まりを改善 |
過酸化ベンゾイル | ベピオ、デュアック | 抗菌・角質剥離作用 |
抗菌薬(外用) | ダラシンT、ゼビアックス | アクネ菌の増殖抑制 |
イオウ製剤 | イオウカンフルローション | 角質剥離・抗菌作用(古典的) |
内服薬(飲み薬)
薬の種類 | 用途・特徴 |
---|---|
抗菌薬(テトラサイクリン系など) | 中等症〜重症に使用。アクネ菌の抑制 |
ビタミン剤(B2・B6) | 皮脂代謝を助ける補助療法 |
低用量ピル(女性) | ホルモンバランスを整える |
漢方薬 | 桂枝茯苓丸、十味敗毒湯など、体質改善を目指す |
※現在、日本ではイソトレチノイン(ビタミンA誘導体)は保険未承認で、重症例に限り自費処方されます。
【ニキビ治療薬の使い分け一覧表】
分類 | 薬剤名(一般名) | 商品名の例 | 主な作用 | 対象となるにきび | 注意点 |
---|---|---|---|---|---|
外用薬 | アダパレン | ディフェリンゲル | 毛穴の詰まりを改善(角質正常化) | 面皰(白ニキビ・黒ニキビ) | 初期に刺激感・赤みが出やすい |
外用薬 | 過酸化ベンゾイル(BPO) | ベピオゲル、デュアック配合剤 | 抗菌+角質剥離 | 炎症性ニキビ(赤ニキビ) | 漂白作用あり、衣服に注意 |
外用薬 | 抗菌薬(クリンダマイシン等) | ダラシンTゲル、ゼビアックス | アクネ菌の抑制 | 炎症性ニキビ(赤・膿) | 耐性菌出現リスクあり |
外用薬 | イオウ製剤 | イオウカンフルローション | 抗菌・角質剥離 | 軽度のにきび全般 | 刺激臭あり、乾燥に注意 |
内服薬 | 抗菌薬(ミノサイクリン等) | ビブラマイシン、ミノマイシン | アクネ菌の抑制+抗炎症 | 中等症〜重症の炎症性ニキビ | 長期使用は耐性・副作用注意 |
内服薬 | ビタミンB2・B6 | ビタミン剤各種 | 皮脂代謝の調整・皮膚代謝促進 | 補助的治療(軽度) | 単独では効果不十分なことも |
内服薬 | 低用量ピル(女性のみ) | マーベロン等 | ホルモンバランスの調整(男性ホルモン抑制) | 女性のホルモン関連にきび | 血栓リスクなど副作用に注意 |
内服薬 | イソトレチノイン(自費処方) | アキュテイン等(海外) | 皮脂腺縮小・強力な抗にきび効果 | 重症のにきび(嚢腫性) | 催奇形性あり、妊娠NG |
その他 | 漢方薬(体質に応じて処方) | 十味敗毒湯、桂枝茯苓丸など | 炎症・皮膚の循環改善 | 慢性にきび、体質改善目的 | 効果に個人差がある |
使い分けのポイント
- 白ニキビ中心の場合:アダパレンやBPOで「詰まり」を解消
- 赤ニキビ中心の場合:抗菌薬(外用+必要に応じて内服)+BPO
- しこり・膿を伴う重症例:内服抗菌薬+外用併用 or イソトレチノイン(専門医)
- 女性ホルモンの影響が強い場合:低用量ピルが有効(婦人科・皮膚科で処方)
- 補助療法として:ビタミンB群や漢方薬を併用
8.日常生活で注意すること(生活習慣・スキンケア)
スキンケアのポイント
- 洗顔は1日2回、やさしく泡で洗う
- ノンコメドジェニック(毛穴を詰まらせにくい)化粧品を使う
- 保湿は忘れずに行う
- メイクはきちんと落とす
生活習慣の改善
- 脂っこい食事、糖質過多を避ける(チョコレートや乳製品が悪化因子になることも)
- 野菜・魚中心の抗炎症食を心がける
- 十分な睡眠とストレスコントロール
- 喫煙・アルコールは控える
注意したい思い込み
- 日焼けでにきびが治る → NG(紫外線は色素沈着や悪化要因になります)
- とにかく洗えば治る → 逆効果(乾燥で皮脂分泌が増える)
- 自分で潰す → 炎症・瘢痕リスク大
9.参考文献
- 日本皮膚科学会. 「尋常性ざ瘡治療ガイドライン 2017」
- Thiboutot D, et al. “Acne: pathogenesis and treatment.” Dermatology. 2009.
- Zaenglein AL, et al. “Guidelines of care for the management of acne vulgaris.” J Am Acad Dermatol. 2016.
- Dreno B, et al. “Understanding innate immunity and inflammation in acne: implications for management.” J Eur Acad Dermatol Venereol. 2018.
- 日本化粧品工業連合会. ノンコメドジェニック製品の表示に関するガイドライン.