1.CGRP関連抗体製剤とは?|片頭痛治療の新時代が到来
「最近、注射で片頭痛が良くなる薬があるらしい」――そんな声を耳にしたことはありませんか?
CGRP関連抗体製剤(CGRPモノクローナル抗体)は、従来の内服薬とは異なる作用機序で片頭痛を予防する、新しい注射薬です。2021年に日本で保険適用されて以降、多くの患者さんがその効果を実感しています(日本頭痛学会, 2021)。
▼CGRPとは?
CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)は、片頭痛の発作に深く関係する神経伝達物質で、脳の血管を拡張させ、炎症や痛みを引き起こす原因になります。
CGRP関連抗体製剤は、このCGRPの働きをブロックすることで片頭痛の発作を未然に防ぐ薬です。
2.CGRP関連抗体製剤の作用機序|CGRPを止めて頭痛を止める
片頭痛は、脳の血管が急激に拡張し、炎症を起こすことで痛みが発生します。その際に重要な役割を果たすのが「CGRP」です。
CGRP関連抗体製剤は、CGRP自体やその受容体に対してピンポイントで働きかけます。
製剤名 | 標的 | 投与経路 |
---|---|---|
エムガルティ® | CGRP | 皮下注射 |
アジョビ® | CGRP | 皮下注射 |
アイモビーク® | CGRP受容体 | 皮下注射 |
ヴァイエプティ® | CGRP | 静脈注射(点滴) |
文献的根拠:
Dodickらの研究(JAMA, 2018)では、フレマネズマブを3か月に1回投与した群で、片頭痛の頻度が有意に減少したことが示されています。また、エレヌマブは予防薬としての有効性が複数の国際試験で証明されています(Tepper, Headache, 2018)。
3.CGRP関連抗体製剤はどんな人に使える?|慢性片頭痛に特に有効
この薬は、「すべての片頭痛患者」に使えるわけではありません。以下の条件を満たす方に適応があるとされています。
▼使用対象の例
- 月に4回以上の片頭痛発作がある
- 既存の予防薬(抗てんかん薬、β遮断薬など)で効果が不十分または副作用で継続困難
- 慢性片頭痛(月15日以上の頭痛+8日以上の片頭痛)に悩んでいる
- 日常生活・仕事に著しい支障をきたしている
医師による診断が必須
これらの薬は専門的な判断が求められ、頭痛専門医や脳神経内科医による診察が必要です。
4.CGRP関連抗体製剤の副作用|比較的少ないが注意も必要
CGRP関連抗体製剤は、従来の予防薬と比較して副作用が少ないとされています。これは、ターゲットを絞った生物学的製剤(抗体医薬)であるためです。
▼主な副作用
- 注射部位の痛みや腫れ
- 便秘
- 倦怠感
- 発疹やかゆみ(アレルギー反応)
重篤な副作用はまれですが、長期使用による影響についてはまだデータが蓄積中です。特に心血管疾患のある方は注意が必要であり、医師とよく相談してから使用することが大切です(日本神経学会, 2022)。
5.どこでCGRP関連抗体製剤は受けられる?|取り扱い施設をチェック
この薬は、市販されているわけではなく、医療機関での処方が必要です。自己判断で入手することはできません。
▼受けられる場所
- 頭痛外来のある総合病院
- 脳神経内科がある医療機関
- 一部のクリニック(対応状況は要確認)
▼自己注射が可能な製剤も
- エムガルティ®・アイモビーク®・アジョビ®は、自己注射が可能。
- 初回は医師が行い、その後は在宅自己注射が可能なケースもあります。
6.CGRP関連抗体製剤の使い方と費用|継続的な使用がカギ
▼投与間隔
- 月に1回注射(一部3か月に1回の製剤あり)
- 点滴製剤は3か月に1回、医療機関で投与
▼治療効果
- 投与開始から1〜2か月で効果が見え始める
- 「頭痛ダイアリー」で日数・強度・生活への影響を記録することで、効果を把握しやすくなります
▼費用(参考:2025年時点)
保険適用下で3割負担の場合、1回あたりの自己負担額は10,000円前後~20,000円程度。自己注射指導料や再診料が加算されるため、初回はやや高くなります。
7.まとめ|片頭痛の「つらさ」に、新しい選択肢を
CGRP関連抗体製剤は、これまでの治療では十分な効果が得られなかった片頭痛患者にとって、非常に有望な新しい予防治療です。
- 注射薬として予防的に使用
- 副作用が少なく効果持続も長い
- すべての人に使えるわけではないが、慢性片頭痛や治療抵抗性の患者には大きな希望
これまで「仕方ない」とあきらめていた片頭痛に、新しい一歩を踏み出すチャンスです。症状に悩んでいる方は、頭痛外来や脳神経内科の医師にぜひご相談ください。
8.参考文献・出典
- 日本頭痛学会. 慢性頭痛の診療ガイドライン2021.
- 日本神経学会. CGRP関連抗体製剤の適正使用に関する提言(2022年版).
- Dodick DW, et al. JAMA. 2018;319(19):1999–2008.
- Tepper SJ. CGRP and migraine: the role of monoclonal antibodies. Headache. 2018.
- 製薬会社公式情報:エムガルティ、アイモビーク、アジョビ、ヴァイエプティ製品サイト(2025年4月アクセス).