小児の運動誘発性喘息とは?原因・症状・治療法をわかりやすく解説

こどもの病気

1.運動誘発性喘息とは?

「運動誘発性喘息(うんどうゆうはつせいぜんそく、EIA)」とは、運動後または運動中に咳、喘鳴(ぜんめい)、呼吸困難などの喘息症状が現れる状態を指します。小児に多くみられ、特に体育や外遊びの後に息苦しさを訴える場合には注意が必要です。

EIAは、気管支喘息を持つ子どもに限らず、喘息の診断がない子どもにも発生することがあり、運動が直接の誘因になる点が特徴です。適切な対応を取ることで、スポーツや運動を諦める必要はありません。


2.運動誘発性喘息の症状

EIAの症状は運動後5〜10分以内に現れ、30〜60分ほどで自然に軽快することが多いですが、重症の場合は持続したり悪化することもあります

主な症状:

  • 運動中または直後の咳
  • 呼吸がゼーゼー、ヒューヒューする(喘鳴)
  • 息切れや呼吸困難
  • 胸の違和感、痛み
  • 疲労感、集中力の低下

特に咳だけが出る「咳喘息」として現れることもあり、「風邪をひいたわけでもないのに、運動の後だけ咳が出る」という子どもはEIAの可能性があります。


3.運動誘発性喘息の原因

EIAは運動によって急速に冷たく乾いた空気を吸うことが主な誘因と考えられています。これにより気道が冷却・乾燥し、炎症や収縮が起こって症状が発現します。

主な誘因:

  • 持久走やサッカーなどの長時間の激しい運動
  • 寒冷乾燥した屋外での活動
  • 花粉や大気汚染などの環境要因
  • 風邪などの感染後

また、基礎に気管支喘息を持っている子どもは、EIAを起こしやすいことが知られています。


6.運動誘発性喘息の検査と診断

EIAは問診だけでは診断が難しいこともあるため、必要に応じて以下のような検査を行います。

主な検査:

検査名 内容
呼吸機能検査(スパイロメトリー) 呼気の流量や容量を測定し、気道の狭窄の有無を確認します。
運動負荷試験 トレッドミルや階段昇降を行った後に呼吸機能を再測定し、運動による気道反応を評価します。
呼気NO(FeNO)測定 気道の炎症状態を評価できる非侵襲的な検査です。
アレルギー検査 基礎にアレルギー疾患がある場合を評価します。

診断のポイント:

  • 運動後の呼吸症状の有無
  • 運動によって呼吸機能が低下するか
  • 気管支拡張薬によって改善するかどうか

小児では症状の表現があいまいなこともあるため、保護者や学校の観察も重要な診断材料になります。


7.運動誘発性喘息の治療

運動誘発性喘息の治療は、「運動をやめる」のではなく、適切な管理を行って運動を続けることが基本です。

治療のポイント:

① 予防薬(運動前の吸入)

  • 短時間作用型β2刺激薬(SABA):サルブタモールなどを運動の15〜30分前に吸入すると、気道の収縮を予防できます。

  • 効果は3〜4時間程度持続。
  • 通常は第一選択薬

② 長期管理薬(基礎疾患がある場合)

  • 吸入ステロイド薬(ICS):気道炎症を抑える。
  • ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRAs):内服でのコントロールが可能。

③ 日常的な対策

  • ウォームアップ・クールダウンを十分に行う。
  • 寒冷や乾燥が強い時期はマスク着用などで吸気を温める。
  • 呼吸法のトレーニングや身体のコンディショニング。

■ 治療開始のタイミング

1. 運動時に呼吸器症状が出現した場合

  • 「体育の後に咳が出る」「運動後に息苦しさがある」などの症状が明確に繰り返される場合、まず医療機関を受診し、診断を受けることが重要です。
  • 診断後、運動前吸入(予防薬)の開始を検討します。

2. 運動による生活への影響がある場合

  • 「運動を避けるようになった」「体育の授業に参加できない」「遊びを控えるようになった」など、運動回避やQOLの低下が見られる場合は、積極的に治療を開始します。

3. 夜間や早朝にも症状がある場合

  • 運動だけでなく、安静時や睡眠時にも咳や喘鳴がある場合、基礎に気管支喘息がある可能性が高く、長期管理薬(吸入ステロイドなど)の導入を検討します。

4. 一度でも強い発作を経験した場合

  • 呼吸困難や喘鳴が激しく、救急受診や治療が必要だった経験がある場合には、再発予防のため早期治療が勧められます。


■ 治療の基本方針と予防的吸入の導入

状態 対応
軽度の運動後の咳・喘鳴 運動前のβ2刺激薬の吸入(予防)
日常生活に支障をきたす場合 長期管理薬(ICSやLTRAs)追加
気管支喘息を合併 通年での喘息治療を優先

■ 専門医の判断が必要なケース

以下のような場合は、小児科またはアレルギー専門医に相談し、個別に治療方針を検討します。

  • 複数の吸入薬を使用しても症状が改善しない
  • アスリート志向でパフォーマンスを維持したい
  • アレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎を合併している

8.こんな症状の時はクリニックを受診しましょう

次のような症状が見られる場合、医療機関の受診をおすすめします。

  • 運動のたびに咳が出る、息切れする
  • 夜間や早朝にも咳が出る(喘息が背景にある可能性)
  • 呼吸困難や喘鳴が強くなっている
  • 市販の咳止めなどで改善しない
  • 学校生活や運動に支障をきたしている

医師の診断のもとで適切な治療を受けることで、運動をあきらめることなく、安心して活動ができるようになります


9.参考文献

  1. 日本アレルギー学会喘息ガイドライン専門部会. 喘息予防・管理ガイドライン2023. 協和企画.
  2. American Thoracic Society. Exercise-induced Bronchoconstriction: Diagnosis and Management. Am J Respir Crit Care Med. 2013.
  3. National Asthma Education and Prevention Program. Expert Panel Report 3 (EPR-3): Guidelines for the Diagnosis and Management of Asthma. NIH Publication No. 08-5846.
  4. Global Initiative for Asthma (GINA). Global Strategy for Asthma Management and Prevention, 2024 Update.
  5. Fujii Y, et al. “Prevalence and characteristics of exercise-induced asthma in Japanese children.” Pediatr Int. 2011;53(4):527–532.
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