1.鵞足炎とは?
鵞足炎(がそくえん)とは、膝の内側にある「鵞足」と呼ばれる部分に炎症が起き、痛みを伴う状態を指します。「鵞足」とは、太ももの内側にある3つの筋肉(縫工筋、薄筋、半腱様筋)の腱が、脛骨(すねの骨)の内側に扇状に広がりながら付着する部分で、見た目がガチョウの足に似ていることからこの名がついています。
スポーツ選手やランナーに多くみられる障害で、特に膝の使い過ぎや筋肉の柔軟性の低下が関係しています。放置すると慢性的な痛みに発展することもあるため、早めの対応が大切です。
外側が痛くなる場合は、腸脛靭帯炎の可能性があります。

2.鵞足炎の症状
鵞足炎の主な症状は以下の通りです:
- 膝の内側(脛骨の上内側)の痛みや違和感
- 階段の上り下り、しゃがむ動作での痛み
- ランニングやウォーキング中、あるいは後に痛みが出現
- 押すと痛い「圧痛点」がある
- 熱感や腫れを伴うこともある(まれ)
特に「階段を降りるときに膝の内側が痛む」という訴えは、鵞足炎の代表的なサインです。初期であれば安静にしていれば痛みがひくこともありますが、運動を継続しながら放置すると悪化する傾向があります。
3.鵞足炎の原因
鵞足炎の原因は主に「膝の使い過ぎ(オーバーユース)」と「筋肉のアンバランス」によるものです。以下のような要因が関与します:
-
ランニングやジャンプの繰り返し動作
→ 太ももの内側の筋肉に過度な負担がかかることで鵞足部に炎症が起きます。 -
ストレッチ不足や筋肉の硬さ
→ 特にハムストリングスや内転筋、縫工筋などの柔軟性低下が影響します。 -
膝のアライメント異常(X脚、回内足など)
→ 不良な姿勢や歩行パターンが筋腱の摩擦を増大させます。 -
体重増加や肥満
→ 膝への荷重が増えるため、鵞足部にかかる圧力も増大します。 -
加齢や筋力低下
→ 特に中高年の女性に多いとされます。
4.鵞足炎の検査と診断
鵞足炎の診断は、主に問診と身体診察によって行われます。画像検査を必要とすることはまれですが、他の疾患(半月板損傷や変形性膝関節症など)との鑑別が必要な場合には以下の検査が行われることがあります。
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問診と視診
→ 痛みの部位、発症時期、きっかけとなる動作などを確認。 -
触診
→ 鵞足部の圧痛点(膝の内側)を確認。 -
Oberテスト
→ 腸脛靭帯との関連がある場合に行いますが、鵞足炎との併発の評価にも用いられます。 -
画像検査(必要に応じて)
→ X線:関節の変形の有無確認
→ 超音波検査:炎症の有無や腫れを評価
→ MRI:他の構造的損傷の除外
5.鵞足炎の治療
治療は基本的に保存療法が中心です。症状に応じて段階的に対応します。
● 安静とアイシング
- 炎症がある初期には運動を控え、氷で冷却することが効果的です。
- 炎症の進行を抑え、痛みを軽減します。
● ストレッチとリハビリ
- ハムストリングス・内転筋・縫工筋のストレッチ
- 鵞足部のマッサージやフォームローラーの活用
- 膝周囲筋の筋力強化(特に内側広筋)
● 消炎鎮痛薬(NSAIDs)
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外用薬(湿布、ゲル)や内服薬を用いて痛みと炎症を抑えます。
● テーピングやサポーター
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膝への負荷軽減と安定性の向上を図るために有効です。
● 理学療法(物理療法)
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超音波治療や低周波治療、温熱療法などが用いられることもあります。
● 慢性例や重度の場合
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症状が改善しない場合、整形外科医によるステロイド注射や、極めて稀に手術を検討することもあります。
6.鵞足炎の予防法
鵞足炎は再発しやすい疾患です。日頃からのケアで予防することが重要です。
- 運動前後のストレッチの徹底
- 無理のないトレーニング計画
- 適切なシューズ選び(クッション性や安定性)
- 運動フォームの改善(膝が内側に入る動作を避ける)
- 体重管理による膝への負荷軽減
7.どのような人が鵞足炎になりやすいか?
以下のような特徴を持つ人が鵞足炎になりやすいとされています:
- 長距離ランナーやジャンプを繰り返すスポーツ選手
- 中高年の女性
- 運動習慣はあるがストレッチ不足の人
- X脚、回内足など膝アライメントに問題がある人
- 急に運動量を増やした人
特に「運動を再開したばかりの人」や「体重の重い人」は、膝周囲への負担が大きくなり、鵞足部に炎症を起こしやすいため注意が必要です。
参考文献
- 日本整形外科学会. 鵞足炎とは.
- 山本毅 他. スポーツによる膝障害の診断と治療. 整形外科 2017; 68(5): 422-430.
- 中村俊康. 鵞足炎の診断と理学療法. 理学療法学 2018; 45(6): 559–564.
- American Academy of Orthopaedic Surgeons. Pes Anserine Bursitis. https://orthoinfo.aaos.org/
- National Library of Medicine. Pes Anserinus Syndrome. StatPearls, 2023.