1.ギラン・バレー症候群とは?
ギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome, GBS)は、手足の筋力が急激に低下する自己免疫性の神経疾患です。稀な病気ではありますが、年間10万人あたり1〜2人程度の割合で発症します(Yuki & Hartung, 2012)。主に末梢神経が免疫の誤作動で障害され、手足のしびれや筋力低下が急速に進行することが特徴です。
一般的には感染症(風邪や下痢など)にかかった後に発症することが多く、入院を要する神経疾患としては比較的頻度が高い部類です。
2.ギラン・バレー症候群の症状
ギラン・バレー症候群の主な症状は以下の通りです。
症状 | 説明 |
---|---|
手足のしびれ | 多くの場合、足先や指先から始まり、次第に全身に広がる |
筋力低下 | 初期は下肢の脱力から始まり、数日〜数週間で進行 |
歩行困難 | 転倒しやすくなる、階段が登れない |
顔面麻痺 | 表情が作れない、飲み込みにくい |
呼吸筋麻痺 | 重症例では人工呼吸器が必要になることも |
自律神経症状 | 血圧変動、心拍数の乱れ、便秘や排尿障害など |
進行が早く、数日〜1週間以内にピークに達することが多いです。そのため、初期症状を見逃さないことが大切です。
3.ギラン・バレー症候群の原因
ギラン・バレー症候群の明確な原因は分かっていませんが、多くは感染症の後に発症します。
主な関連因子
- カンピロバクター腸炎:下痢を伴う食中毒の一種。GBSの発症リスクと強く関連(Nachamkin et al., 1998)
- インフルエンザや風邪:上気道感染後に免疫反応が神経を誤認することで発症
- 新型コロナウイルス:COVID-19後にギラン・バレー症候群を発症する報告が多数(Toscano et al., 2020)
- ワクチン接種:ごく稀にインフルエンザやCOVID-19ワクチンの後に発症例あり(全体としては接種の利益が大きく、リスクは極めて低い)
これらの要因が引き金となり、自己免疫反応が活性化され、末梢神経の髄鞘(神経を包む絶縁体)や軸索が傷害されることで症状が出ます。
6.ギラン・バレー症候群の検査と診断
診断は臨床症状と神経学的検査に基づいて行われます。
主な検査項目
検査名 | 内容・目的 |
---|---|
腰椎穿刺 | 髄液中のタンパク質上昇(アルブミン細胞解離)を確認 |
神経伝導検査 | 末梢神経の伝導速度の低下を確認 |
血液検査 | 炎症反応や感染症の既往を評価 |
MRI | 中枢神経障害との鑑別に使用 |
初期には診断が難しい場合もありますが、早期に神経内科の専門医を受診することが重要です。
7.ギラン・バレー症候群の治療
ギラン・バレー症候群の治療は早期の介入が予後を大きく左右します。
急性期の治療
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免疫グロブリン療法(IVIg)
- 自己抗体の働きを抑える
- 入院初期に5日間連続で点滴するのが一般的
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血漿交換療法(PE)
- 血中の自己抗体を除去
- 重症例ではIVIgと併用する場合もあり
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対症療法
- 呼吸管理(人工呼吸器の使用)
- リハビリテーション(筋力回復のため)
回復期の対応
- 理学療法・作業療法
- 日常生活動作の回復支援
- 心理的サポート
一般に数週間から数ヶ月で回復する例が多いですが、約15〜20%に何らかの後遺症が残ることもあります。
7.こんな症状の時はクリニックを受診しましょう
以下の症状がある場合は、速やかに神経内科または救急受診をおすすめします。
- 急に足が上がらなくなった
- 両手足がしびれて力が入らない
- 顔面が動かしにくくなった
- 呼吸が苦しい、息がしにくい
- トイレに行きたいのに排尿できない
ギラン・バレー症候群は時間との戦いです。進行が早いため、初期症状で受診することが大切です。
8.参考文献
- Yuki N, Hartung HP. “Guillain-Barré syndrome.” N Engl J Med. 2012;366(24):2294–2304.
- Nachamkin I, et al. “Campylobacter jejuni infection and the Guillain–Barré syndrome.” Clin Microbiol Rev. 1998.
- Toscano G, et al. “Guillain–Barré Syndrome Associated with SARS-CoV-2.” N Engl J Med. 2020.
- 日本神経学会. ギラン・バレー症候群診療ガイドライン2021.
- 厚生労働省 感染症発生動向調査.