1.熱性けいれんとは?
熱性けいれん(ねっせいけいれん)とは、主に生後6か月から5歳頃の乳幼児が、発熱に伴ってけいれんを起こす状態を指します。突然、手足を突っ張らせたり、全身をガクガク震わせたりするため、保護者は大きな不安を感じることが多いですが、多くは一過性で後遺症もなく治まるケースがほとんどです。
日本小児神経学会の報告では、日本の子どもの約10%が熱性けいれんを経験するとされており、小児期にもっともよく見られるけいれん発作です。
熱性けいれんには、単純型と複雑型があります。
- 単純型: もっとも一般的で全体の約80〜85%を占める
- 複雑型: 約15〜20%にみられ、経過観察やフォローが重要
単純性熱性けいれんとは?
単純性熱性けいれんは、以下の条件をすべて満たすものを指します:
- 発熱に伴って起こる全身性のけいれん(左右対称)
- 発作時間が15分未満
- 24時間以内に1回だけの発作
- 神経学的な後遺症や異常がない
予後が非常に良好で、多くの場合、特別な治療を必要としません。
複雑性熱性けいれんとは?
複雑性熱性けいれんは、以下のいずれか1つでも当てはまる場合を指します:
- けいれん時間が15分以上続く
- 1日2回以上の発作(再発)
- けいれんが体の一部だけに起こる(部分けいれん)
- 発作後の意識障害が長引く、神経学的異常を伴う
脳波検査やMRIなど精密検査の対象となることがあり、てんかんへの移行リスクも高くなるとされています。
単純性熱性けいれんと複雑性熱性けいれんの比較表
比較項目 | 単純性熱性けいれん | 複雑性熱性けいれん |
---|---|---|
発作の持続時間 | 15分未満 | 15分以上 |
発作の回数 | 24時間以内に1回 | 24時間以内に2回以上 |
けいれんの種類 | 全身性(左右対称) | 部分性(片側のみ)も含まれる |
意識の回復 | 発作後すぐに回復 | 意識の回復に時間がかかることがある |
発達の異常 | なし | 神経学的異常を伴う場合がある |
精密検査の必要性 | 通常は不要 | 必要な場合あり(脳波、画像診断など) |
てんかんへの移行リスク | ほとんどない | やや高い |
再発の頻度 | 約30〜40% | 約50%以上(高頻度) |
2.熱性けいれんの症状
熱性けいれんの主な症状は以下のとおりです:
- 突然の全身けいれん(手足を突っ張る、ガクガクする)
- 意識がなくなる(呼びかけに反応しない)
- 目が上を向いたり一点を見つめる
- 呼吸が浅くなる
- 発作は通常1~5分以内でおさまる
ただし、以下のような症状がある場合は「複雑型熱性けいれん」の可能性があり、注意が必要です:
- 15分以上続く発作
- 1日のうちに複数回けいれんを起こす
- 片側だけのけいれん(左右差がある)
3.熱性けいれんの原因
熱性けいれんは、脳の未熟さと発熱の刺激が組み合わさって起こると考えられています。以下が主な原因です:
- ウイルス感染(インフルエンザ、アデノウイルス、RSウイルスなど)
- 細菌感染(中耳炎、扁桃炎など)
- 予防接種後の発熱
発熱の高さだけが原因ではなく、「熱が急激に上がったとき」にけいれんが起こりやすいといわれています。
4.熱性けいれんの対処法
発作が起きたときに慌てないことが大切です。以下の対処法を覚えておきましょう。
けいれん中の対応:
- 落ち着いて時間を測る(スマホのタイマー機能等)
- 体を横向きに寝かせる(嘔吐や舌を噛むのを防ぐ)
- 衣服を緩める
- 無理に押さえつけたり、口に指や物を入れない
- 意識が戻るかを観察する
救急車を呼ぶべきタイミング:
- けいれんが5分以上続く
- 発作が左右どちらかだけに起こる
- 1日に何度もけいれんが起こる
- 意識がいつまでも戻らない
- 首が硬い、ぐったりしている、顔色が悪い など
5.熱性けいれんの治療法
一般的な熱性けいれんは治療を必要とせず経過観察されます。けいれんが一度だけで短時間で治まれば、基本的にはその後の生活に大きな影響はありません。
しかし、再発予防や重症化を防ぐために以下のような治療や対策が行われることがあります。
主な治療・予防策:
- 解熱剤(熱が高いときに使用)
- ダイアップ坐薬(再発予防目的)
- 入院観察(複雑型や意識障害が残る場合)
6.ダイアップの使い方
ダイアップとは?
ジアゼパム(商品名:ダイアップ)は、熱性けいれんの再発を予防するために使用される坐薬タイプの抗けいれん薬です。熱が出始めたときに使用することで、けいれん発作を抑える効果があります。
使い方のポイント:
- 熱が38℃以上になった時点で1回挿入
- 再び熱が上がる兆候がある場合、8時間後にもう1回挿入
- 1日2回まで、3日間使用可能
- 使用後は、副作用(眠気・ふらつき)に注意する
注意点:
- 長期間の常用は推奨されません
- 医師の指示に従い、必要な場合のみ使用する
- 使用後の観察が大切です
7.熱性けいれんの予後について
熱性けいれんの多くは一過性で予後良好です。特に単純型(発作が短く、一度だけで全身性)の場合、脳への後遺症や発達への影響はほとんどありません。
ただし、以下のようなケースでは経過観察が必要です:
- 発達の遅れが見られる
- けいれんが頻繁に再発する
- けいれんが長時間続く
8.熱性けいれんとてんかんの関連
熱性けいれんを経験した子どものうち、約2〜5%が将来的にてんかんを発症すると言われています。特に以下のような要因がある場合、リスクがやや高くなります:
- けいれんが15分以上続いた
- 1日2回以上のけいれんがあった
- 家族にてんかんの人がいる
- 発達遅延がある
しかし、多くの子どもは熱性けいれんのみで終わり、てんかんには進行しません。過度に心配する必要はありませんが、気になる点があれば早めに小児科や小児神経科に相談しましょう。
9.参考文献
- 日本小児神経学会|熱性けいれんに関するガイドライン
https://www.child-neuro.jp - 厚生労働省 けいれん発作に対する対処法
https://www.mhlw.go.jp - 日本てんかん学会|てんかん診療ガイドライン2020
https://www.jes.or.jp - 日本小児科学会|小児科医からのアドバイスシリーズ
【まとめ】
熱性けいれんは子どもにとっても親にとっても驚く出来事ですが、落ち着いた対処と正しい知識があれば安心です。特に初めて経験する場合は、専門医への相談も重要です。