1.炎症性腸疾患とは?増えている?
炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory Bowel Disease)は、主に腸に慢性的な炎症が起こる原因不明の病気で、「潰瘍性大腸炎(UC)」と「クローン病(CD)」の2つに大別されます。
日本ではかつて稀な疾患でしたが、近年では食生活の欧米化や環境因子の変化により、患者数は年々増加。厚生労働省の調査によると、潰瘍性大腸炎の患者数は2021年時点で約22万人、クローン病は約7万人を超えています。
▷ 潰瘍性大腸炎(UC)
大腸の粘膜に炎症や潰瘍が生じる病気で、直腸から始まり、徐々に上行性に広がるのが特徴です。
▷ クローン病(CD)
消化管のどの部位にも炎症が起こりうる病気で、小腸・大腸に好発します。非連続的な病変(スキップ病変)が特徴です。
2.炎症性腸疾患の症状
炎症性腸疾患は、活動期と寛解期を繰り返します。活動期には以下のような症状が現れます。
- 腹痛:特に下腹部に痛みを感じることが多い
- 下痢:水様性〜血便まで多様
- 血便:潰瘍性大腸炎ではよく見られます
- 発熱・倦怠感:全身症状として出現
- 体重減少:栄養吸収障害や食欲低下による
⚠️ クローン病特有の症状
- 肛門周囲の病変(痔瘻や膿瘍)
- 繰り返す腸閉塞
- 栄養障害による発育障害(小児の場合)
3.炎症性腸疾患の原因、どんな人に多い?
明確な原因はまだ解明されていませんが、以下の要因が関与していると考えられています。
▷ 遺伝的要因
家族歴がある人に多く発症する傾向があり、特定の遺伝子変異(例:NOD2遺伝子)が関連することもあります。
▷ 環境因子
- 加工食品・高脂肪食などの食生活の変化
- 喫煙(特にクローン病では悪化因子)
- 抗生物質や腸内細菌叢の変化
▷ 免疫異常
本来、外敵を排除する免疫システムが自己の腸管を攻撃してしまうことが関与していると考えられています。
4.炎症性腸疾患を疑うポイント
以下のような症状が長引く場合、炎症性腸疾患の可能性を考慮しましょう。
- 2週間以上続く慢性的な下痢
- 血便を繰り返す
- 腹痛と発熱を伴う
- 食欲不振や急激な体重減少
- 若年〜中年層(10〜30代)での初発が多い
これらの症状が見られたら、早めに消化器内科を受診し、検査を受けることが重要です。
5.炎症性腸疾患の検査・診断
▷ 血液検査
- CRP(炎症反応)や貧血の有無を確認
- 栄養状態や感染の兆候も評価
▷ 便検査
- 便潜血検査
- 便中カルプロテクチン:腸管炎症のマーカーとして有用
▷ 内視鏡検査(大腸カメラ)
潰瘍やびらんの状態、広がりを観察し、病理組織の生検も行います。
▷ 画像検査
- 腹部CT/MRI:クローン病では腸管の狭窄や瘻孔の確認
- 小腸内視鏡カプセルやバルーン内視鏡で小腸病変を評価
🧪 鑑別診断に注意
感染性腸炎、大腸がん、過敏性腸症候群(IBS)との鑑別も重要です。
6.炎症性腸疾患の治療法(生活習慣・薬物療法)
🧘 生活習慣の見直し
- 食事療法:脂質・食物繊維を控え、低刺激な食事に
- ストレス管理:心理的ストレスが再燃の引き金になることも
- 禁煙:特にクローン病では重要
💊 薬物療法(病型に応じて使い分け)
▷ 5-ASA製剤(メサラジン)
潰瘍性大腸炎の基本薬。炎症を抑える働きがあります。
▷ 副腎皮質ステロイド
症状が強いときに使用されるが、長期使用には副作用のリスクあり。
▷ 免疫調節薬(アザチオプリン、6-MP)
ステロイドの離脱を目的に使われることが多い。
▷ 生物学的製剤(抗TNF-α抗体など)
中等〜重症例に用いられ、抗体薬による標的治療が進んでいます。
▷ JAK阻害薬・S1P受容体調節薬など
新しい内服薬の開発が進み、選択肢は広がっています。
🏥 外科的治療
- クローン病で腸閉塞や瘻孔を伴う場合
- 潰瘍性大腸炎でがん化リスクが高い場合に大腸全摘を検討
7. まとめ
炎症性腸疾患は、若年層でも発症する慢性疾患で、生活の質に大きな影響を与えることがあります。しかし、早期診断・適切な治療・定期的なフォローアップによって、長期的なコントロールも可能です。
「なんとなくお腹の調子が悪い」「便に血が混じる」など、気になる症状がある場合は、我慢せず医療機関へ相談しましょう。
参考文献
- 厚生労働省 難病情報センター. 潰瘍性大腸炎/クローン病.
https://www.nanbyou.or.jp/entry/62 - 日本消化器病学会ガイドライン委員会. 「潰瘍性大腸炎診療ガイドライン2020」
- 日本消化器病学会ガイドライン委員会. 「クローン病診療ガイドライン2021」
- Baumgart DC, Sandborn WJ. “Inflammatory bowel disease: clinical aspects and established and evolving therapies.” Lancet. 2007;369(9573):1641-57.
- Rubin DT et al. “ACG Clinical Guideline: Ulcerative Colitis in Adults.” Am J Gastroenterol. 2019