【医師監修】過敏性腸症候群(IBS)とは?原因・症状・治療法まで徹底解説|繰り返す腹痛と下痢・便秘の対処法

おとなの病気

1.過敏性腸症候群(IBS)とは?

過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)は、腹痛や便通異常(下痢・便秘・両者交互)を繰り返す慢性疾患です。特徴的なのは、大腸や小腸に潰瘍・炎症・腫瘍などの明確な異常がないことです。

IBSは、世界的にも頻度が高く、日本では人口の約10〜15%がIBSと診断された経験があるとされます(日本消化器病学会, 2020)。一見軽い症状に思えるかもしれませんが、仕事や学業への影響、外出の制限、不安障害やうつ病の併発など、生活の質(QOL)を大きく損なう病気です。

● 「ストレスでお腹が痛くなる」は要注意

一時的な腹痛ならよくあることですが、以下のような症状が続く場合はIBSの可能性があります:

  • 排便で腹痛が和らぐ
  • トイレに行ってもすっきりしない
  • 下痢と便秘を繰り返す
  • 腹部膨満感がある

2.過敏性腸症候群の主な症状

IBSの主な症状は以下の通りです:

  • 腹痛・腹部不快感(特に排便前後に変化)
  • 便通異常(下痢、便秘、両者の繰り返し)
  • お腹の張り、ガス(鼓腸)
  • 排便後も残便感がある
  • 急な便意(便意切迫)

● タイプ別の分類

IBSのタイプ 主な症状
下痢型(IBS-D) 急な便意、軟便や水様便、外出困難感
便秘型(IBS-C) 硬い便、排便困難、腹部の張り
混合型(IBS-M) 下痢と便秘を繰り返す
分類不能型(IBS-U) 明確に分類できないがIBSの症状あり

症状は起床後・食後・外出前などに悪化しやすく、睡眠中には消失することが多いという特徴があります。


3.過敏性腸症候群の原因と関連因子

IBSの原因は単一ではなく、複合的な要因が関与しています。以下が主要因です:

● 主な要因

  1. ストレスと自律神経の乱れ
    →「脳腸相関(Brain-Gut Axis)」の異常が原因。ストレスが腸の動きを過剰に刺激します(Mayer EA et al., 2011)。

  2. 腸内細菌バランスの乱れ(ディスバイオーシス)
    →IBS患者は健常者に比べて腸内細菌の多様性が低下しているという報告があります(Ringel Y et al., 2012)。

  3. 腸の知覚過敏
    →通常の刺激に対して過剰に反応し、腹痛や不快感が生じます。

  4. 感染後IBS(PI-IBS)
    →細菌性腸炎の後に、腸の機能異常が残り、IBSへ移行するケース(Thabane M et al., 2007)。

  5. 食事要因
    →高脂肪食、カフェイン、香辛料、FODMAP(発酵性糖質)などが悪化因子として知られています。


4.過敏性腸症候群を疑うポイント|こんな症状が続く方は要注意

IBSを疑う際は、以下のようなチェックポイントがあります:

✅ 腹痛が3か月以上続き、週1回以上ある
✅ 排便の回数・形状が明らかに変化している
✅ 排便によって腹痛が一時的に緩和される
✅ 夜間には症状が出にくい
✅ 血便・発熱・体重減少などの「警告サイン」がない


5.過敏性腸症候群の診断とローマⅣ基準

IBSは、他の疾患を除外したうえでの診断(除外診断)が基本です。診断の際に重視されるのが「ローマⅣ基準」です。

● ローマⅣ基準(Rome IV Criteria)

  1. 過去3か月間に週1回以上の腹痛がある

  2. その腹痛が以下の2つ以上に関連する:

  • 排便により痛みが改善または悪化する
  • 排便頻度の変化がある
  • 便形状の変化がある
  1. 症状は6か月以上前から続いている

● 主な検査内容

IBSは、腸に異常がないかを除外的に診断する必要があります。

  • 問診と診察
  • 血液検査・便潜血検査
  • 腹部エコー・CT
  • 大腸内視鏡検査(特に40歳以上や血便・体重減少がある場合)

⚠️ 「大腸がん」「炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)」との鑑別が重要です。


6.過敏性腸症候群の治療法|生活習慣・食事・薬物療法

● 生活習慣の見直しが基本

IBSの治療は、生活習慣の改善が第一選択肢です。

  • ストレス管理:マインドフルネス、運動、睡眠習慣の確立
  • 規則正しい食生活:1日3食、刺激物・暴飲暴食を避ける
  • FODMAP食の制限:発酵性糖質(乳製品、豆類、果糖など)を制限する食事療法が効果的(Halmos et al., Gastroenterology, 2014)

● 薬物療法:タイプ別に使い分け

タイプ 使用薬例
下痢型(IBS-D) ロペラミド、ラモセトロン、リファキシミン
便秘型(IBS-C) ルビプロストン、リナクロチド、マグネシウム剤
腹部不快感・ガス トリメブチン、六君子湯、セレキノン
精神的因子が強い場合 抗不安薬、SSRI、SNRI(※専門医管理下)

● 心理療法(認知行動療法など)

  • 認知行動療法(CBT):ストレス対処スキルを高め、症状を軽減
  • 催眠療法:腸の緊張緩和に一定の効果あり(Palsson OS et al., 2002)
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● 食事療法(低FODMAP食)

FODMAP(発酵性糖質)制限はIBSの有効な食事療法として注目されています。

高FODMAP食品 低FODMAP食品
玉ねぎ、にんにく、牛乳、豆類、リンゴ、はちみつ トマト、にんじん、ナス、米、バナナ、みかん、キウイ

● 日常生活でできるセルフケア

  • 食事・排便記録をつけて悪化因子を可視化
  • 信頼できるかかりつけ医を持つ
  • 腸のマッサージや腹式呼吸で腹部の緊張を和らげる
  • SNS・ネット情報に流されず、専門医の助言を優先

かかりつけ医と連携した定期フォローもQOL向上に寄与します


7. IBSと似た疾患との鑑別

疾患名 鑑別のポイント
炎症性腸疾患(IBD) 血便・発熱・体重減少あり。内視鏡検査が必須。
大腸がん 40歳以上で便通異常が急激に悪化した場合に疑う。
セリアック病 グルテンによる自己免疫性疾患。小腸が関与。
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8.まとめ:IBSと上手に付き合うために

過敏性腸症候群は、見た目にはわからない「見えにくい病気」です。しかし、正しい理解とアプローチでコントロールは十分可能です。

  • 一人で悩まず医師に相談すること
  • ストレス・生活習慣の見直し
  • 自分に合った食事療法や薬物療法の活用

これらを通じて、IBSと共に“自分らしい生活”を送ることができるようになります。

「もしかしてIBSかも」と感じたら、早めにかかりつけ医へ相談しましょう。


参考文献

  1. 日本消化器病学会ガイドライン「過敏性腸症候群診療ガイドライン2020」
  2. Ford AC, et al. “Efficacy of antidepressants and psychological therapies in IBS.” Am J Gastroenterol. 2009.
  3. Halmos EP, et al. “A diet low in FODMAPs reduces symptoms of IBS.” Gastroenterology. 2014.
  4. Mayer EA, et al. “Brain-gut microbiota interactions in IBS.” Gastroenterology. 2011.
  5. Ringel Y, et al. “Microbiota in functional bowel disorders.” Gut Microbes. 2012.
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