1.IgA血管炎とは?
IgA血管炎(旧称:アナフィラクトイド紫斑病、またはヘノッホ・シェーンライン紫斑病)は、小型血管に炎症を起こす血管炎の一種で、主にIgA(免疫グロブリンA)という抗体が関与しています。特に小児(3〜10歳)に多く見られる病気で、紫斑、関節痛、腹痛、血尿などが主な症状です。
この病気は自己免疫の異常反応によって起こると考えられており、多くの場合は数週間から数ヶ月で自然に改善しますが、腎障害(IgA腎症)を合併する場合は長期的な経過観察が必要になります。
主な特徴
特徴 | 内容 |
---|---|
好発年齢 | 3〜10歳(子どもに多い) |
主な症状 | 紫斑、腹痛、関節痛、血尿 |
原因 | IgAによる免疫反応(風邪後に多い) |
予後 | 多くは良好だが、腎障害に注意 |
別名 | ヘノッホ・シェーンライン紫斑病(HSP) |
2.IgA血管炎の症状
IgA血管炎では以下のような症状がみられます。**四徴候(紫斑・関節症状・消化器症状・腎障害)**として知られています。
1. 紫斑(皮膚症状)
最も典型的な症状です。特に下肢や臀部に左右対称に出現し、押しても色が消えないのが特徴です。
2. 関節痛・関節炎
膝や足首などの下肢の関節が痛くなることがあります。腫れを伴うこともありますが、関節破壊は起こりません。
3. 腹痛・消化器症状
腹部の痛み、嘔吐、下痢、血便などの消化器症状が出ることがあります。腸管出血や腸重積に注意が必要です。
4. 血尿・腎障害
尿に血が混じる(血尿)ことがあります。蛋白尿が続いたり、腎機能障害が進行するケースもあります。慢性腎炎(IgA腎症)に移行することも。
3.IgA血管炎の原因
IgA血管炎の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、以下のような因子が関与しているとされています。
- 感染症(特に風邪):発症の1〜3週間前に**上気道感染(風邪や扁桃炎)**を起こしていることが多い
- ワクチン接種:まれに接種後に発症することがある
- 薬剤や食物アレルギー:特定の薬や食物が誘因になることも
- 遺伝的素因:一部の遺伝的な体質が関連すると考えられています
このように、IgAが過剰に産生され、免疫複合体として血管壁に沈着することで、血管が傷つき炎症を引き起こすとされます。
6.IgA血管炎の検査と診断
IgA血管炎は、臨床症状と検査所見の組み合わせで診断されます。皮膚症状が特徴的なため、皮膚の状態が診断の鍵となります。
診断のポイント
- 皮膚の紫斑(非圧痕性の紫斑)
- 関節痛や腹痛の併発
- 年齢(3〜10歳が多い)
- 最近の風邪症状の有無
実施される主な検査
検査 | 内容 |
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血液検査 | IgAの上昇、CRPや白血球で炎症の有無を確認 |
尿検査 | 血尿・蛋白尿の確認 |
超音波検査(エコー) | 腸重積や腎障害の有無をチェック |
皮膚生検 | 皮膚症状が不明瞭な場合に補助診断として行うことがある |
7.IgA血管炎の治療
IgA血管炎は、軽症の場合は自然に治ることが多く、特別な治療を必要としないケースもあります。しかし、症状が強い場合や腎障害が疑われる場合には、適切な治療が必要です。
一般的な治療方針
症状 | 治療 |
---|---|
軽症(皮膚症状のみ) | 安静・経過観察・対症療法(鎮痛薬) |
関節痛・腹痛が強い | ステロイド(プレドニゾロン) |
血尿・腎障害 | 腎機能に応じてステロイド+免疫抑制剤、ACE阻害薬など |
腸重積などの合併症 | 入院+外科的処置が必要な場合も |
※ステロイド治療は主に腹痛や関節痛の軽減に有効ですが、腎障害への効果は議論があります。
治療の経過と予後
多くの患者さんは数週間〜数ヶ月で改善しますが、腎障害が持続するケースでは、長期的な腎機能のモニタリングが必要です。
8.こんな症状の時はクリニックを受診しましょう
以下のような症状が見られる場合は、早めに小児科や内科を受診しましょう。
- 両足に赤紫色の斑点(紫斑)が出た
- 関節が腫れて歩きにくくなった
- 腹痛や嘔吐、血便がある
- 尿が赤い、血尿が出た
- 風邪の後に全身に発疹が出た
特に、尿に異常がある場合は腎臓の検査が必要です。腎障害の早期発見が、その後の健康に大きく影響する可能性があります。
9.IgA血管炎では何科を受診すべき?
✅ 子どもの場合:
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小児科(最優先)
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IgA血管炎は特に3〜10歳の子どもに多いため、小児科が最も適しています。
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小児科医は紫斑や腹痛、関節痛、血尿などの症状を総合的に評価し、必要な検査(尿検査や血液検査など)を行います。
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✅ 大人の場合:
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内科または腎臓内科・膠原病内科
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大人にもIgA血管炎は発症します。紫斑や血尿が続く場合は、まずは総合内科やかかりつけ医を受診しましょう。
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腎機能異常(血尿・蛋白尿)が見られる場合は、腎臓内科が専門的対応に適しています。
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関節痛や皮膚症状が主体で、膠原病が疑われる場合は**膠原病内科(リウマチ科)**の紹介があることもあります。
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10.参考文献・文献的考察
- Kawasaki Y. “Henoch-Schönlein purpura nephritis in children.” Pediatr Int. 2014;56(5):755–759.
- Ozen S, et al. “EULAR/PRINTO/PRES criteria for Henoch-Schönlein purpura.” Ann Rheum Dis. 2010;69(5):798–806.
- 日本小児腎臓病学会. 小児IgA血管炎診療ガイドライン2023.
- 吉村健清 他. “IgA血管炎の診断と治療の現状.” 小児科診療. 2022;85(8):1013–1019.