1.ムカデに刺されるとどうなるか?
ムカデに刺されたとき、多くの人が「強い痛み」に驚かされます。ムカデの毒は神経毒やタンパク分解酵素などを含んでおり、刺されると瞬時に以下のような症状が現れます。
主な症状:
- 激しい刺痛(電気が走るような痛み)
- 発赤、腫れ
- 熱感
- かゆみ
- まれに水疱や血疱
- 重症例では発熱、リンパ節の腫れ、アナフィラキシー様症状
ムカデの毒はハチ毒に似ており、過去に刺された経験がある人ではアレルギー反応が出やすくなることもあります(IgE抗体による即時型アレルギー)[1]。
2.ムカデの種類
日本に生息するムカデの中で、特に注意すべきは以下の種類です。
種類 | 特徴 | 分布 | 危険性 |
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トビズムカデ | 全長10~15cm。赤褐色で頭部と尾部が赤い。 | 本州・四国・九州 | 非常に攻撃的。毒性も強い。 |
アオズムカデ | 緑がかった体色。やや小型。 | 全国(主に西日本) | 毒性は弱めだが油断は禁物。 |
その他小型ムカデ | 体長数cmの種類多数 | 全国 | 刺傷例は少ないが注意を。 |
とくにトビズムカデは家屋への侵入も多く、刺傷事故のほとんどがこの種類によるものと考えられています。
6.ムカデに刺された時の対応(あたためたほうがいい?)
応急処置の基本:
ムカデに刺されたとき、適切な初期対応が重症化を防ぐ鍵になります。
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まずは毒を絞り出す
刺された直後であれば、流水で洗いながら毒を出すようにします。強く揉み出すのは逆効果です。 -
あたためるのが有効?
ムカデ毒の成分の多くはタンパク質で構成されており、熱で変性します。そのため、43〜45℃程度のお湯で5〜10分ほど温めることが推奨されます[2]。これは「温熱療法」として知られ、痛みや腫れの軽減に役立ちます。
一方、冷やすと一時的に痛みが和らぐこともありますが、血流が悪くなり毒素の代謝が遅れる可能性があります。冷却はアナフィラキシーや広範囲の腫脹がある場合を除いて基本的には避けた方が良いとされています。
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抗ヒスタミン薬やステロイドの外用
市販薬でも抗炎症作用のある軟膏やかゆみ止めを使用できますが、症状が強い場合は医療機関を受診するのが安心です。
7.ムカデに刺された時の治療
軽症であれば、自宅での対処で十分です。ただし、次のようなケースでは医療機関での治療が必要です。
医療機関で行う治療の例:
- 抗ヒスタミン薬の内服または点滴
- ステロイド薬の使用
- 感染予防のための抗生物質処方(傷が深い場合など)
- アナフィラキシー時のアドレナリン筋注(エピペン)
また、刺された部位が膿んでくる、赤線が上方へ向かって伸びてくる(リンパ管炎)、などの兆候があればすぐに受診が必要です。
7.どんな時に受診すべきか?
以下のような症状が出た場合は、速やかに病院を受診しましょう。
- 痛みが24時間以上続く
- 腫れが関節をまたいで拡大する
- 発熱や全身倦怠感
- 呼吸困難、喉の違和感
- 蕁麻疹、めまい、吐き気(アナフィラキシーの兆候)
特に高齢者や小児、アレルギー体質の人は注意が必要です。
7.ムカデに刺されないために
予防のポイント:
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家の中に入れない工夫
- 排水口・換気扇・窓枠などの隙間を塞ぐ
- 夜は網戸を閉め、光を外に漏らさない
- 家の周囲にムカデ除け薬を散布
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寝室の対策
- ベッドの脚にムカデ除けリングを巻く
- 床に布団を敷いて寝る場合は蚊帳や虫除けネットを使用
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アウトドア時の注意
- キャンプや登山では靴や寝袋の中を確認
- 直接地面に座らない、長ズボン・靴下を着用
ムカデは夜行性で湿気を好むため、梅雨〜夏場の夜間に特に注意が必要です。
9.参考文献
- 吉田真一 他. ムカデ咬傷におけるアレルギー反応. 日本皮膚アレルギー学会誌 2015; 10(1): 21-26.
- Balit CR, et al. Prospective study of centipede bites in Australia. J Toxicol Clin Toxicol. 2004;42(1):41-48.
- 小林剛 他. 日本国内におけるムカデ刺傷例の調査. 臨床皮膚科 2020; 74(9): 709-714.
- 厚生労働省. 食中毒・動物咬傷に関するガイドライン. https://www.mhlw.go.jp/
- 国立感染症研究所. 動物由来感染症に関する情報. https://www.niid.go.jp/