1. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome, SAS)とは、睡眠中に呼吸が断続的に止まる、あるいは浅くなる病気です。自覚のないまま、毎晩数十〜数百回もの無呼吸状態を繰り返すこともあり、生活の質(QOL)や健康に重大な影響を及ぼします。
日本人成人の約3〜9%に閉塞性睡眠時無呼吸(OSAS)が見られ、特に40代以降の男性に多く、国民病の一つとまで言われるほどです(厚生労働省, 2021)。
2. 主な症状
夜間の症状
- いびきが大きい・不規則
- 呼吸が止まる(家族に指摘される)
- 夜間の頻尿
- 息苦しくて目が覚める
- 熟眠感のなさ
日中の症状
- 強い眠気
- 集中力・記憶力の低下
- 頭痛(特に朝)
- 抑うつ気分
- 性機能の低下
とくに「昼間の強い眠気」は事故や仕事の能率低下の原因となることもあり、社会的影響も無視できません。
3. 原因とリスクファクター
睡眠時無呼吸症候群には主に2種類の病型があります。
① 閉塞性睡眠時無呼吸(OSAS)
上気道(のど)が物理的に閉塞するタイプで、90%以上がこれに該当します。
- 肥満(首周りの脂肪蓄積)
- 扁桃肥大
- 小顎・後退顎(下あごが小さい)
- 鼻閉(鼻中隔弯曲、アレルギー性鼻炎)
② 中枢性睡眠時無呼吸(CSAS)
呼吸中枢からの指令が止まることが原因で、心不全や脳卒中、薬剤の影響によって起こることがあります。
4. なりやすい人の特徴
以下の特徴を持つ方は、特に注意が必要です。
特徴 | リスク内容 |
---|---|
肥満(BMI 25以上) | のど周辺の脂肪沈着により気道が狭くなる |
中年男性 | 筋力低下や構造変化による気道狭窄 |
顎が小さい・後退している | 上気道の物理的な閉塞リスク増 |
飲酒・睡眠薬常用 | 筋緊張低下により気道が塞がれやすくなる |
鼻づまりが慢性化している | 呼吸が口呼吸に切り替わり気道閉塞リスク増 |
また、家族歴がある場合もリスクが高いとされています。
5. 放置するとどうなる?
心血管疾患との関連
SASは高血圧・心筋梗塞・脳卒中・心房細動など、心血管系のリスクを大きく高めます。日本睡眠学会によると、SAS患者の約50%以上が高血圧を合併しています(日本睡眠学会, 2015)。
糖尿病・代謝異常
インスリン抵抗性を高めるため、糖尿病の発症や血糖コントロール悪化に関与します。
交通事故・労働災害
日中の過度な眠気により、交通事故リスクは健常者の約2〜7倍に。実際、SASの診断がきっかけで業務上の免許が制限される例もあります。
6. 診断方法
① 簡易検査(自宅で可能)
- 呼吸の流れ
- 酸素飽和度
- いびきの有無
保険適用で実施可能。スクリーニングに適しています。
② 精密検査(終夜睡眠ポリグラフ検査:PSG)
医療機関に1泊し、以下を詳細にモニタリングします:
- 脳波
- 眼球運動
- 筋電図
- 呼吸状態
- 心電図
最近では自宅で検査できる機器もあります。
AHI(無呼吸低呼吸指数)で重症度を分類
AHI(1時間あたり) | 重症度 |
---|---|
5~15回 | 軽症 |
15~30回 | 中等症 |
30回以上 | 重症 |
7. 効果的な治療法
① CPAP療法(経鼻的持続陽圧呼吸療法)
最も推奨される治療法で、重症〜中等症に対して高い有効性があります。鼻マスクから圧力を加えることで気道を物理的に確保し、無呼吸を防ぎます。
- 眠気・血圧改善
- 心血管リスク低下
- 継続使用でQOLが大幅向上
② 生活習慣の改善
- 減量(5~10%の体重減少で効果)
- 禁酒・禁煙
- 睡眠薬の中止
- 横向き寝を意識
③ マウスピース(OA:口腔内装置)
軽度〜中等症向け。下顎を前に固定することで上気道の閉塞を防止。
④ 外科的治療
- 扁桃摘出術
- 鼻中隔矯正術
- 上下顎前方移動術(顎顔面外科)
小児では扁桃肥大・アデノイド肥大の切除で改善する例も多数報告されています。
8. まとめ
睡眠時無呼吸症候群は、「ただのいびき」と見過ごされがちな一方で、命に関わる病気と直結する重大な疾患です。日常的な眠気や疲労感の背後に、この病気が隠れている可能性は決して低くありません。
早期の受診・診断・治療が、あなたの生活の質と健康寿命を守る鍵になります。
参考文献
- 日本睡眠学会 編『睡眠障害の対応と治療ガイドライン 第3版』ライフサイエンス出版, 2019
- 厚生労働省「睡眠時無呼吸症候群に関する調査研究」https://www.mhlw.go.jp/
- American Academy of Sleep Medicine. Clinical Guidelines for the Evaluation, Management and Long-term Care of Obstructive Sleep Apnea in Adults.
- 日本耳鼻咽喉科学会「睡眠呼吸障害に対する診療の手引き」