【医師が解説】パニック発作・パニック障害とは?突然の動悸や息苦しさの正体と正しい対処法

おとなの病気

はじめに|その「息苦しさ」や「動悸」、もしかしてパニック発作かもしれません

「突然、心臓がドキドキして息ができなくなった」「死んでしまうのではないかと思った」
そんな経験はありませんか?
それは、パニック発作(panic attack)という心身の緊急反応かもしれません。

この記事では、パニック発作やパニック障害の症状・原因・なりやすい人の特徴・検査・治療法・セルフケアまでを、医学的文献や最新のガイドラインに基づいて、わかりやすく解説します。


1.パニック発作とパニック障害とは?

パニック発作とは?

パニック発作とは、特に明確な理由がないにもかかわらず、突然強い恐怖や不安に襲われる発作です。数分以内にピークに達し、多くは10~30分でおさまります。

特徴は、「このまま死んでしまうのでは」と感じるほどの強烈な身体症状です。

パニック障害とは?

パニック発作が繰り返し起こり、「また発作が起こるかもしれない」という予期不安や、それに伴う行動制限が生活に支障をきたす場合、パニック障害(panic disorder)と診断されます。

厚生労働省によると、日本におけるパニック障害の有病率は約1.5〜3%。特に20〜40代の女性に多いとされています(e-ヘルスネット, 厚労省)。


2.パニック発作の主な症状とは?

DSM-5(アメリカ精神医学会の診断基準)では、以下の症状のうち4つ以上が同時に現れると「パニック発作」と診断されます。

  • 激しい動悸、胸部圧迫感
  • 呼吸困難・過呼吸
  • 手足のしびれや震え
  • 発汗(冷や汗)
  • めまい・ふらつき
  • 胃のむかつきや吐き気
  • 非現実感(離人感)
  • 死への恐怖や狂ってしまう不安

※身体症状が強いため、心筋梗塞や不整脈と間違えられることが多いです。


3.パニック発作の原因は何か?

精神的・身体的ストレスの複合的要因

パニック発作の明確な原因は一つではなく、心理的要因・生理的要因・遺伝的素因が絡み合っています。

原因 説明
慢性的なストレス 職場・家庭・人間関係のプレッシャー
パーソナリティ傾向 完璧主義・責任感が強い・内向的
神経伝達物質の乱れ セロトニン・ノルアドレナリン系の異常(Mitte, 2005)
遺伝的要因 一親等内に不安障害を持つ人がいるとリスク上昇
外傷体験 災害、事故、いじめなどの心的外傷後ストレス反応(PTSDとの関連)

パニック障害の発症には、過去のトラウマや睡眠不足、カフェイン・アルコール過剰摂取などの生活習慣も影響します。


4.どのような人がパニック発作を起こしやすいか?

ハイリスクな人の特徴

  • 20〜40代の女性(性ホルモンの影響も示唆)
  • 神経質・几帳面・完璧主義
  • 身体感覚への敏感さ(内受容感覚過敏)
  • 身体疾患をきっかけに不安が強まる人
  • 近親者に不安障害やうつ病がある人

遺伝要因に関しては、「双生児研究(Hettema et al., 2001)」において、パニック障害の遺伝率は30〜40%程度と報告されています。


5.パニック発作の検査・診断方法

身体疾患の除外が第一

まずは心臓や肺、内分泌系の疾患がないかを確認します。主な検査項目は以下の通り:

  • 心電図(不整脈、虚血性心疾患)
  • 胸部レントゲン(肺塞栓など)
  • 甲状腺機能検査(甲状腺中毒症の除外)
  • 血液検査(貧血、感染症)

身体的な異常がなく、繰り返す発作と予期不安、回避行動がある場合にパニック障害と診断されます。


6.パニック発作・パニック障害の治療法

(1)薬物療法

薬の種類 効果・特徴
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬) パロキセチン、エスシタロプラムなど 第一選択薬。不安や予期不安を軽減
ベンゾジアゼピン系抗不安薬 ロラゼパム、アルプラゾラムなど 即効性があるが依存性あり。短期使用
β遮断薬 プロプラノロールなど 動悸や震えなど身体症状に対応

※治療は最低6か月〜1年の継続が推奨され、勝手な中断は再発リスクが高まります。

(2)認知行動療法(CBT)

  • 不安を引き起こす「思考の癖」に気づき、柔軟に修正していく療法

  • 呼吸法や段階的暴露などの技法を用いて、恐怖に慣れる訓練を行う

CBTはガイドラインでもパニック障害に対する第一選択の心理療法とされています(APA, NICE)。


7.パニック発作が起きたときのセルフケア・対処法

【1】ゆっくりと呼吸を整える

「息を吸う:吐く=1:2」のリズムで呼吸し、過換気を予防。

【2】安心できる言葉を唱える

「これはパニック発作であり、すぐに治まる」など、自分に語りかけることで冷静さを取り戻します。

【3】五感に意識を向ける(グラウンディング)

周囲の音、色、温度、においなどに意識を向け、「今ここ」に気持ちを戻す方法。

【4】発作記録をつける

発作のタイミング・場所・思考を記録し、再発防止や治療に役立てます。


8. まとめ

パニック発作は命にかかわるものではありませんが、生活の質(QOL)を大きく低下させる疾患です。早期の正しい診断と治療によって、多くの人が通常の生活に戻ることができます。

「ただのストレス」や「気のせい」では済まさず、症状に心当たりがあればかかりつけ医への相談をおすすめします。


参考文献

  1. 厚生労働省 e-ヘルスネット「パニック障害」
  2. American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th Edition (DSM-5)
  3. National Institute for Health and Care Excellence (NICE): CG113 Generalised anxiety disorder and panic disorder in adults
  4. Hettema JM, Neale MC, Kendler KS. A review and meta-analysis of the genetic epidemiology of anxiety disorders. Am J Psychiatry. 2001.
  5. Mitte K. Meta-analysis of cognitive-behavioral treatments for generalized anxiety disorder: A comparison with pharmacotherapy. Psychol Bull. 2005.
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