命に関わる頭痛 ― クモ膜下出血とは?【症状・原因・治療を解説】

おとなの病気

1.クモ膜下出血とは?

クモ膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)は、脳の表面にある「くも膜」と「軟膜」の間に出血が起きる疾患で、突然発症し、命に関わる緊急の病気です。脳卒中の一種で、脳出血・脳梗塞・くも膜下出血の3タイプのうち、最も致死率が高いとされています。

日本では脳卒中による死亡の約1割がクモ膜下出血によるもので、30〜60代の働き盛りの世代でも突然発症することがあり、予後不良の原因となります。

クモ膜下出血の主な特徴

  • 突然の激しい頭痛(「バットで殴られたような痛み」と形容されることも)
  • 意識障害やけいれん
  • 吐き気・嘔吐
  • 首の硬直

症状は非常に急激で、適切な対応がなければ短時間で命を落とす危険もあります。


2.クモ膜下出血の症状

主な症状

症状 説明
激しい頭痛 発症の約80%以上にみられ、「人生で最悪の頭痛」とも表現される。
意識障害 ぼーっとする、意識を失う、反応が鈍いなど。
嘔吐・吐き気 脳圧の上昇による反応。
けいれん 全身性のけいれん発作がみられることも。
首の硬直(項部硬直) 髄膜刺激症状のひとつ。

これらの症状は、突然に、前触れもなく現れることが多いため、見逃しは命取りになります。

軽度の出血に注意

ごく少量の出血では、「軽い頭痛」や「肩こり」と誤認され、診断が遅れることがあります。これを「警告頭痛(warning leak)」と呼び、数日後に本格的な破裂出血を起こすことがあるため、早期診断が重要です。


3.クモ膜下出血の原因・遺伝

主な原因

クモ膜下出血の約80〜90%は脳動脈瘤の破裂が原因です。動脈瘤は血管の壁が弱くなってふくらんだ状態で、破裂するとくも膜下腔に血液が流れ出します。

その他の原因には以下があります。

  • 脳動静脈奇形(AVM)
  • 脳腫瘍の出血
  • 頭部外傷(特に高齢者の転倒など)
  • 特発性(原因不明)

遺伝との関係

一部の研究では、一等親(親・兄弟姉妹)に脳動脈瘤またはくも膜下出血の既往がある場合、リスクが2〜3倍になるとされています(Bor et al., 2015)。

また、遺伝性疾患として知られる常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)では、脳動脈瘤の発生頻度が高いことも知られています。


6.クモ膜下出血の検査と診断

主な検査方法

  1. 頭部CT検査
    発症直後から出血を検出できる最も重要な検査です。発症後6時間以内であれば90%以上の感度があります。

  2. 腰椎穿刺
    CTで明確な出血が見られない場合に髄液を採取し、血性髄液(xanthochromia)を確認します。

  3. 脳血管造影(CTA・MRA・DSA)
    動脈瘤の有無や場所を特定するために行います。CTA(CT血管造影)やMRA(MRIによる血管画像)は非侵襲的で一般的に使用されます。

  4. MRI
    時間が経過した後の診断や鑑別診断に有効です。


7.クモ膜下出血の治療

急性期の治療

  • 血圧コントロール
  • 呼吸・循環の安定化
  • 脳浮腫や再出血の予防

動脈瘤への対処

① クリッピング術(開頭手術)

動脈瘤の根本を金属クリップで閉じて再出血を防ぐ方法。侵襲が大きいが、確実性が高い。

② コイル塞栓術(カテーテル治療)

血管内からコイルを挿入し、動脈瘤内に血流が流れないようにする。高齢者や全身状態の悪い方にも適応されることが多い。

再出血予防

最初の出血後、24時間以内に再出血が起こることが多く、死亡リスクが高いため、速やかな動脈瘤封止が求められます。

合併症の予防

  • 脳血管れん縮(vasospasm):出血後4〜14日目に発生し、脳梗塞の原因となる。
  • 水頭症:脳脊髄液の流れが妨げられ、頭蓋内圧が上昇する。
  • 低ナトリウム血症(SIADH):電解質バランスの異常。

8.こんな症状の時はクリニックを受診しましょう(2次性頭痛の見分け方)

一次性頭痛と二次性頭痛の違い

種類 内容
一次性頭痛 片頭痛、緊張型頭痛など原因疾患がない頭痛
二次性頭痛 脳出血や感染など命に関わる疾患が背景にある頭痛

以下のような症状がある場合は、すぐに医療機関を受診する必要があります

  • 突然、激しい頭痛が出現(雷鳴頭痛)
  • 頭痛と同時に意識がぼんやりする
  • 嘔吐やけいれんを伴う
  • 首を動かすと痛む(項部硬直)
  • 50歳以上で初発の頭痛
  • 既存の頭痛と明らかに性質が異なる

9.参考文献(文献的考察)

  1. Bor AS et al. Risk of aneurysm rupture in families with familial intracranial aneurysms: a systematic review. Stroke. 2015;46(2):385-392.
  2. 日本脳神経外科学会.くも膜下出血の診療ガイドライン2021
  3. van Gijn J, Kerr RS, Rinkel GJ. Subarachnoid haemorrhage. Lancet. 2007;369(9558):306–318.
  4. 日本脳卒中学会「脳卒中データバンク2022」
  5. Nishikawa H et al. Timing and mode of treatment of ruptured cerebral aneurysms: A nationwide study. Neurosurgery. 2018;83(2):279-285.
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