ステロイド軟膏とは?副作用や誤解を解き明かす使い方ガイド【医師監修】

薬・その他

1.ステロイド軟膏とは?

ステロイド軟膏とは、「副腎皮質ステロイド」と呼ばれる成分を含む塗り薬で、皮膚の炎症を抑えるために用いられる外用薬です。アトピー性皮膚炎や湿疹、虫刺され、かぶれ、乾癬(かんせん)など、さまざまな皮膚の炎症性疾患に広く使用されています。

ステロイドというと「怖い薬」「副作用がある」といったイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし、正しく使えば安全で非常に効果の高い治療薬です。特に塗り薬として使うステロイドは、内服よりも全身への影響が少なく、皮膚の状態を整えるために欠かせない存在です。


2.ステロイド軟膏の種類

ステロイドの外用薬にはさまざまな「剤形(ざいけい)」があり、使用する部位や症状に応じて使い分けが必要です。

剤形 特徴 向いている部位
軟膏 油分が多く、しっとりしており、皮膚を保護する 乾燥・かさかさした皮膚、顔・首・陰部など
クリーム 水と油が混ざった基剤で、伸びが良く使いやすい 汎用的、手足・体幹部など
ローション・リキッド サラッとしていて頭皮などに使いやすい 頭皮、毛が多い部位
フォーム(泡状) 拡がりやすく、刺激が少ない 頭皮、皮膚が敏感な部位
ジェル 清涼感があり、べたつかない 頭皮、夏季など

※剤形の選択は医師の判断や患者の好みによって調整されることもあります。


3.ステロイド軟膏の強さ(ランク)

日本では、ステロイド軟膏は「Strong(強さ)」に応じて5段階に分類されています。これは作用の強さを示すもので、症状の重さや塗る部位によって適切に使い分けることが重要です。

ランク 強さ 主な商品名(例)
Very Strong(ストロンゲスト) 最も強い ダイアコート、デルモベート
Strong(ストロング) 強い フルメタ、アンテベート
Medium(ミディアム) 中程度 リンデロン-V、キンダベート
Weak(ウィーク) 弱い ロコイド、プレドニゾロン
Mild(マイルド) 最も弱い なし(医師の指導のもとまれに使用)

ステロイド外用薬は「強い薬をたくさん使えばいい」というものではなく、炎症の強さや皮膚の部位(特に顔・陰部・乳幼児の皮膚など)によって選択する必要があります。


4.場所によって塗り方は変わる?

皮膚の部位によって吸収率が異なるため、同じ薬でも塗る場所によって効果や副作用が異なることがあります。以下は吸収率の違いの一例です(上腕を1とした場合)。

部位 吸収率の目安
約6倍
陰部 約40倍
背中 約1.7倍
足の裏 約0.14倍

このように、顔や陰部は非常に吸収率が高いため、弱めのステロイドを使用するのが一般的です。一方、足の裏や手のひらのように皮膚が厚い場所では、より強いステロイドが必要になることもあります

5.ステロイド外用薬の強さ分類(Very Strong ~ Weak)

分類(強さ) 一般名(成分名) 主な商品名 特徴・使用例
Very Strong(最強) クロベタゾールプロピオン酸エステル デルモベート軟膏 皮膚が厚い部位、難治性皮膚疾患に短期使用
ジフルプレドナート ダイアコート軟膏 外耳・手足の重度湿疹などに使用
ハルシノニド アフタッチ軟膏(歯科用) 粘膜病変に応用されることも
Strong(とても強い) モメタゾンフランカルボン酸エステル フルメタ軟膏 湿疹、アトピー性皮膚炎など幅広く使用
ベタメタゾンジプロピオン酸エステル アンテベート軟膏 慢性皮膚疾患、乾癬などに有効
デキサメタゾンプロピオン酸エステル メサデルム軟膏 他のステロイドで効果が不十分な場合
ジフルコルトロン吉草酸エステル ネリゾナ軟膏 皮膚萎縮リスクが少なく扱いやすい
Medium(普通) ベタメタゾン吉草酸エステル リンデロン-V軟膏 小児にも使われることがある
ヒドロコルチゾン酪酸エステル ロコイド軟膏 顔面や頸部など吸収の高い部位に使用
プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル リドメックスコーワ軟膏 慢性湿疹や皮膚炎に適応あり

6.軟膏を塗るタイミングは?

ステロイド軟膏は、症状があるときに適切なタイミングで使うことが大切です。一般的な塗るタイミングとしては以下の通りです。

  • 入浴後や洗顔後に塗る:皮膚が清潔で水分を含んでいる状態は薬が浸透しやすいため、効果的です。
  • 1日1〜2回が基本:医師の指示に従いましょう。
  • 夜に塗ることで翌朝のかゆみや炎症を防げることもあります。

なお、ステロイドを使う期間は医師と相談し、症状が改善してきたら徐々に減らしていく「ステップダウン」が推奨されます。


7.ステロイド軟膏の副作用

ステロイド軟膏の副作用は使い方や期間、部位によって異なりますが、以下のようなものがあります。

  • 皮膚の萎縮(長期使用によって皮膚が薄くなる)
  • 毛細血管拡張
  • 多毛
  • ステロイドざ瘡(にきび)
  • 皮膚の色素沈着や色抜け
  • 感染の悪化(細菌・真菌)

ただし、これらの副作用は長期間、強いステロイドを不適切に使った場合に起こることが多く、医師の指導に従えば過度に恐れる必要はありません。


8.ステロイド軟膏に関する誤解

ステロイド軟膏については、よくある誤解が広がっています。ここでは代表的な誤解を解消しましょう。

誤解①「ステロイドはすぐやめるべき」

→実際は、炎症が強いときはしっかり使うことが重要です。中途半端な使用は効果が出ず、結果として長引くこともあります。

誤解②「ステロイドはクセになる」

外用薬は依存性はありません。正しく使えば、症状が改善したときに自然に使用頻度を減らせます。

誤解③「自然療法の方が安全」

→科学的根拠に基づかない自然療法は、症状の悪化や感染症のリスクがあり、安全とは限りません。

医療機関で処方されるステロイド軟膏は、エビデンスに基づいた安全性の高い治療手段です。


9.まとめ:ステロイド軟膏は正しく使えば怖くない

ステロイド軟膏は、皮膚疾患の治療において非常に重要な薬剤です。誤解や不安から使用を避けると、かえって症状が悪化してしまうこともあります。大切なのは、「適切な強さ」「正しい使い方」「必要な期間」で使用することです。

皮膚に異常を感じたら、自己判断せず、皮膚科専門医やかかりつけ医に相談するようにしましょう。


参考文献

  1. 日本皮膚科学会. アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021.
  2. 厚生労働省. 「ステロイド外用薬Q&A」https://www.mhlw.go.jp/
  3. 西岡清, 他. 「皮膚科学」医学書院, 第10版, 2020年.
  4. Bolognia JL, et al. Dermatology. Elsevier; 4th Edition, 2018.
  5. Hajar T, et al. “A systematic review of topical corticosteroid phobia.” Dermatol Ther (Heidelb). 2016.
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