点滴とは?必要なときに知っておきたい基礎知識

薬・その他

1.点滴とは?

「点滴」とは、医療現場で頻繁に使用される治療方法のひとつで、静脈内に直接液体を投与する方法のことです。英語では「intravenous infusion(IV)」と呼ばれ、脱水の補正、栄養補給、薬剤投与など多岐にわたる目的で行われます。注射との違いは、点滴が一定時間をかけて少しずつ液体を体内に入れていくことにあります。

一般的には「腕に刺しているもの」というイメージがあるかもしれませんが、点滴の種類や目的によっては、手の甲や首の静脈、時には中心静脈を利用する場合もあります。

2.点滴の適応(どんなときにする?)

点滴は、以下のようなさまざまな状況で必要になります。

● 脱水の補正

発熱や下痢、嘔吐、過度の発汗などによって体液が失われた場合、水分と電解質(ナトリウム、カリウムなど)を補うために点滴が用いられます。

● 経口摂取が困難な場合

食事が摂れない、または飲み込みが困難な場合には、点滴を通じて水分やカロリー、ビタミンなどを補給します。

● 薬剤投与

抗生物質、抗がん剤、鎮痛剤などの薬剤を静脈内投与することで、即効性が期待でき、重症患者には非常に重要です。

● 手術前後の管理

手術の前後には絶食が必要となるため、点滴により水分・栄養・薬剤を補います。

● 意識障害時や重篤な状態

意識がない、または重症で口からの摂取ができない場合、点滴は生命維持に欠かせません。

3.点滴の種類(内容物・量など)

点滴にはさまざまな種類があります。目的によって内容物が異なりますので、以下に主な種類をご紹介します。

種類 主な成分 使用目的 商品例
生理食塩水 0.9%食塩 脱水補正、洗浄 ソルアセトF、ソルデム1など
乳酸リンゲル液 電解質・乳酸 手術・ショック時の補液 ラクテック、ソルラクト
糖液(ブドウ糖液) ブドウ糖5~10% 栄養補給、低血糖予防 ソルデム3A、5Aなど
高カロリー輸液(TPN) アミノ酸、脂肪、ビタミン、糖質 長期の栄養管理 エルネオパ、ピニロンなど
薬剤含有液 抗生物質、鎮痛剤など 治療目的 例:セフメタゾール、カルバペネム系薬剤

点滴の量は、成人でおおむね1日1,000〜2,000ml程度が目安となりますが、患者の年齢、体格、基礎疾患によって調整されます。

4.点滴したら栄養がとれる?

よく「点滴しているから安心」と言われますが、必ずしも十分な栄養が補給できているとは限りません。

● 一般的な補液では栄養は不十分

病院で使われる「ソルデム」などの点滴は、ブドウ糖が含まれていてもカロリーはわずかです。1本(500ml)あたり約100kcal程度のものが多く、栄養補給としては不十分です。

● 高カロリー輸液(TPN)が必要な場合

長期間食事ができない場合には、アミノ酸や脂肪、微量元素、ビタミンも含んだ完全静脈栄養(TPN:Total Parenteral Nutrition)が必要です。これは中央静脈(中心静脈カテーテル)から投与するため、管理が複雑で感染のリスクもあります。

【文献考察】

日本静脈経腸栄養学会によると、TPNは「食事摂取が困難または禁忌で、5日以上経口摂取が不可能な場合に考慮すべき」とされており、安易に使うべきものではありません(JSPEN Guidelines 2020)。

5.点滴と経口摂取はどっちがいい?

● 経口摂取のほうが自然で安全

私たちの体は、消化管を通じて栄養素を吸収するように設計されています。胃や腸を通して摂取することで、消化液や腸内細菌の働きが維持され、免疫や消化機能が保たれます。

● 点滴は「代替手段」

点滴は経口摂取ができないときの「代わり」であり、基本的には一時的な対応策です。長期間にわたる静脈栄養は、肝機能障害や感染症のリスクを伴います。

【文献考察】

Lancet誌(2016年)の報告によれば、経腸栄養は静脈栄養に比べて感染リスクを有意に低下させるとされており、経口摂取が可能であれば第一選択となるべきです(Marik PE et al., Lancet, 2016)。

6.点滴のデメリット

点滴には便利な面もありますが、以下のようなデメリットも存在します。

デメリット 内容
感染リスク カテーテルを通じて細菌感染が起こることがあります。特に中心静脈カテーテルは注意が必要。
静脈炎 点滴部位に炎症が起きることがあります。腫れ・赤み・痛みが出る場合は要注意。
血管外漏出 点滴が血管外に漏れると皮膚の壊死を起こすことがあります。抗がん剤などは特にリスク。
水分過剰 高齢者や心疾患のある方では、点滴の量が多すぎると心不全や肺水腫を起こすことがあります。
栄養の偏り 点滴だけでは必要な栄養素をすべて補うのは難しく、長期的には栄養失調になることもあります。

7.点滴に関する誤解

「点滴=万能」という誤解は根強くあります。実際には、点滴は一時的なサポートであり、根本的な治療ではないことも多いです。

● 「点滴をすればすぐ元気になる」は誤解

疲労回復点滴や美容点滴など、自由診療で提供されるものもありますが、科学的な効果は限定的です。医師の管理下で適切に行われることが重要です。

8.まとめ:点滴は万能ではないが必要なときに正しく使う

点滴は、体調が悪くて飲食ができないときや、薬剤を素早く届ける必要があるときなどに非常に有効な手段です。しかし、万能ではなく、誤解や乱用によってかえって体に負担をかけることもあります。

健康なときこそ、「点滴が本当に必要な状態とは?」を知っておくことで、医療を上手に利用する手助けになるはずです。

9.参考文献

  1. 日本静脈経腸栄養学会. 静脈経腸栄養ガイドライン2020
  2. Marik PE et al. “The role of enteral versus parenteral nutrition in critically ill patients: a systematic review.” Lancet. 2016.
  3. 厚生労働省. 医療の質・安全確保に関する資料
  4. 日本集中治療医学会. 静脈カテーテル関連血流感染症予防策2020
  5. 日本輸液学会. 「輸液療法指針 改訂版」
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