1.感染予防にうがいは必要か?
冬になると風邪やインフルエンザ、最近では新型コロナウイルスなど、さまざまな感染症が流行します。そんな中で、「うがい」は昔から日本でよく行われてきた感染予防策のひとつです。
では、うがいには本当に感染症を予防する効果があるのでしょうか?医学的な観点からその必要性を見ていきましょう。
うがいの目的は?
うがいの目的には以下の3つがあります:
- 口腔内・咽頭の汚れやウイルス・細菌を除去する
- 粘膜を保湿しバリア機能を維持する
- 炎症を和らげる作用を補助する
特に、鼻や喉の粘膜はウイルスの侵入口となりやすいため、これらを清潔に保つことで感染のリスクを軽減できる可能性があります。
2.うがいの効果
うがいによる感染予防の効果については、いくつかの研究が行われています。特に注目すべきは、日本国内で行われた以下の研究です。
京都大学による研究(2005年)
京都大学の研究チームが行った無作為化比較試験(RCT)では、1日3回水うがいを行った群では、風邪の発症率が40%も低下したと報告されています(Satomura et al., Am J Prev Med. 2005)。この研究はうがいの有効性を示す信頼性の高いエビデンスとされています。
一方で、イソジン(ポビドンヨード)によるうがいは、粘膜を刺激しすぎて逆に感染症リスクを高める可能性もあると指摘されています。詳しくは後述します。
海外での評価は?
一方で、欧米では「うがい」の習慣は一般的ではなく、感染症予防策としての評価はやや限定的です。これは文化的な違いによるものであり、医学的エビデンスの蓄積が日本に比べて少ないことも関係しています。
3.イソジンでのうがいの必要性と効果(水や塩水との比較)
「うがい薬」として有名なイソジン(ポビドンヨード)ですが、使用には注意が必要です。以下にそれぞれの特徴を比較してみましょう。
うがいの種類 | 効果 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
水うがい | 物理的なウイルス除去 | 安価・副作用なし | 消毒効果は弱い |
塩水うがい | 抗菌・消炎作用あり | 炎症を和らげる | 濃度によっては刺激あり |
イソジンうがい | 強力な殺菌効果 | ウイルス・細菌に強い | 頻用で粘膜障害、甲状腺機能に影響の可能性 |
イソジンの過度な使用に注意
日本環境感染学会などのガイドラインでは、イソジンうがいを頻繁に行うことは推奨されていません。特に以下の点が問題とされています:
- 甲状腺への影響:ポビドンヨードは体内に吸収され、甲状腺機能に影響を及ぼす可能性があります。
- 常在菌の破壊:強い殺菌作用が口腔内の正常な細菌バランスを崩し、かえって感染しやすくなることも。
- 粘膜刺激:毎日何度もうがいをすることで、喉の粘膜が弱くなることも報告されています。
そのため、普段の予防には水や塩水でのうがいが安全で有効と考えられています。
6.うがいは何回すればいい?
うがいは「タイミング」と「回数」が重要です。効果的なうがい方法についてご紹介します。
おすすめのうがいタイミング
- 外出から帰ったとき
- 食事前・就寝前
- 乾燥していると感じたとき
これらのタイミングで1日2〜3回程度が理想とされています。過剰に行う必要はありませんが、定期的に行うことで感染リスクを下げる可能性があります。
正しいうがいの方法
- 口をすすぐ(ブクブクうがい):まずは口内の汚れを取る
- のどを洗う(ガラガラうがい):15〜30秒程度行う
- これを2〜3回繰り返す
水だけでも十分な効果があり、喉の粘膜を潤すこと自体が重要な防御反応を高めます。
8.こんな症状の時はクリニックを受診しましょう
うがいで予防していても、以下のような症状が現れた場合には早めに医療機関を受診することをおすすめします。
- 発熱(37.5度以上)や咽頭痛が続く
- 咳・痰・鼻水が1週間以上続く
- のどの痛みが強くて飲み込みにくい
- 声が枯れる、息苦しいなどの症状がある
特にインフルエンザ、溶連菌感染症、新型コロナウイルス感染症などは迅速な検査と治療が重要です。市販薬で様子を見て悪化するよりも、早めの対応が回復への近道です。
9.参考文献
- Satomura K, et al. “Prevention of upper respiratory tract infections by gargling: a randomized trial.” Am J Prev Med. 2005;29(4):302–307.
- 日本環境感染学会. 「感染対策ガイドライン」第3版, 2020年.
- 厚生労働省. 「風邪・インフルエンザ対策に関するリーフレット」2023年版.
- WHO. “Infection prevention and control during health care when coronavirus disease (COVID-19) is suspected or confirmed.” 2023.
- 鈴木健司ほか. 「口腔内常在菌と感染予防に関する総説」日本口腔衛生学会雑誌, 2021.