【医師監修】膀胱炎とは?症状・原因・治療・予防法までわかりやすく解説|腎盂腎炎や無症候性細菌尿との違いも

おとなの病気

1.膀胱炎とは?

膀胱炎とは、膀胱に細菌が感染して炎症を起こす病気で、主に女性に多く見られます。特に風邪の後や季節の変わり目、トイレを我慢する機会が多いときに発症しやすい傾向があります。

主な分類

  • 急性単純性膀胱炎:健常な女性に多く、尿道から大腸菌などが膀胱に侵入して起こります。
  • 慢性膀胱炎:繰り返す膀胱炎で、潜在的な尿路異常や生活習慣の影響も。
  • 間質性膀胱炎:感染によらない慢性的な膀胱の炎症で、診断・治療が難しいケース。

文献的背景

日本泌尿器科学会の診療ガイドライン(2023年版)によれば、女性の5人に1人が生涯で少なくとも1度は膀胱炎を経験するとされ、特に20〜40代の働く女性や更年期女性で多く見られます(JUA, 2023)。


2.膀胱炎の主な症状

膀胱炎にかかると、次のような症状が現れます。

  • 排尿時の痛み(排尿痛)
  • 頻尿(1日に10回以上トイレに行く)
  • 残尿感(出しきれない感じ)
  • 尿の濁り・におい・血尿
  • 下腹部痛・不快感

なお、発熱や背中の痛みがある場合は「腎盂腎炎」の可能性があるため、速やかな医療機関の受診が必要です。


3.膀胱炎になりやすい人の特徴

以下のような人は膀胱炎にかかりやすいため注意が必要です。

① 女性

  • 尿道が短く直線的なため、細菌が膀胱に侵入しやすい
  • 性交渉や生理によるホルモン変化、膣内環境の乱れが影響

② 高齢者

  • 免疫力の低下や排尿障害、排尿後の残尿が増えることがリスク因子

③ その他の要因

  • 水分摂取不足
  • トイレを我慢する習慣
  • 糖尿病や便秘などの基礎疾患
  • カテーテル留置中の患者

4.無症候性細菌尿とは?

「膀胱炎ではないけれど、尿に細菌が出ている」そんな状態を**無症候性細菌尿(ASB)**と呼びます。

特徴

  • 症状がないのに尿に細菌が検出される状態
  • 健康な女性や高齢者、糖尿病患者、カテーテル使用者に多い
  • 通常は治療不要

原因と注意点

  • 生殖年齢の女性の5〜6%、高齢女性の20%以上にみられる(Hooton TM et al., N Engl J Med 2000)
  • 妊婦泌尿器手術前の患者では、腎盂腎炎のリスクが高まるため治療対象になります(IDSA, 2005)

なぜ治療しないのか?

抗菌薬の不必要な使用により耐性菌の発生リスクが高まるため、無症候性細菌尿には原則として治療を行いません。医師の判断が重要です。

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5.膀胱炎の検査と診断

膀胱炎が疑われる場合、以下の検査が行われます。

尿検査(尿定性・沈渣)

  • 白血球、赤血球、細菌の有無をチェック
  • 白血球エステラーゼ、亜硝酸塩が陽性であれば細菌性膀胱炎が強く疑われます

尿培養検査

  • 原因菌を特定し、どの抗菌薬が効くか(感受性)を調べる検査

超音波検査・CT(必要に応じて)

  • 腎盂腎炎の合併、膀胱結石などを除外する目的で行われます


6.膀胱炎の治療と薬

急性単純性膀胱炎の治療では、通常以下の抗菌薬が使用されます。

薬剤名 商品例 使用の特徴
レボフロキサシン クラビット® よく使われる第一選択薬
ホスホマイシン ホスミシン® 妊婦・高齢者にも比較的安全
セフカペンピボキシル フロモックス® β-ラクタム系の経口薬

治療期間の目安

  • 通常:3〜7日
  • 症状が改善しても医師の指示通り最後まで服用することが再発予防につながります。

再発予防のための生活習慣

  • 十分な水分摂取(1日1.5〜2L)
  • 排尿を我慢しない
  • 排尿後の清潔な拭き取り(前→後)
  • 性交後はなるべく排尿
  • 下着は通気性の良い綿素材を選ぶ

7.膀胱炎と腎盂腎炎の違い

比較項目 膀胱炎 腎盂腎炎
感染部位 膀胱(下部尿路) 腎盂・腎実質(上部尿路)
症状 排尿痛、頻尿、血尿 発熱、背部痛、嘔気・嘔吐
発熱 基本的になし 38度以上の高熱
重症度 軽度〜中等度 重症化リスクが高く、入院もありうる
治療 内服抗菌薬 点滴抗菌薬、入院管理が必要なことも

8.まとめ:膀胱炎を防ぐには正しい知識が鍵

膀胱炎は身近な感染症であり、正しい対処で早期改善が可能な病気です。特に女性では再発しやすいため、予防や生活習慣の見直しが大切です。

また、無症候性細菌尿のように治療が必要でないケースもあることを理解しておくと、抗菌薬の使いすぎを防げます。


参考文献

  1. 日本泌尿器科学会『尿路感染症診療ガイドライン2023』
  2. Hooton TM. “Pathogenesis of urinary tract infections: an update.” N Engl J Med. 2000.
  3. Nicolle LE, et al. “Infectious Diseases Society of America guidelines for the diagnosis and treatment of asymptomatic bacteriuria.” Clin Infect Dis. 2005.
  4. 厚生労働省 e-ヘルスネット「膀胱炎」
  5. MSDマニュアル家庭版「膀胱炎」
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