1.膀胱炎とは?
膀胱炎とは、尿を溜める臓器である「膀胱」に炎症が起こる病気です。細菌感染によるものが大半で、特に女性に多く見られます。これは女性の尿道が男性よりも短いため、外部から細菌が膀胱に侵入しやすいためです。
膀胱炎の大半は「急性単純性膀胱炎」と呼ばれる比較的軽症なタイプで、適切な治療を行えば数日で改善します。しかし、放置してしまうと「腎盂腎炎」などに進行する危険があり、重症化することもあります。
膀胱炎は決して珍しい病気ではなく、特に若年女性や更年期以降の女性にとって身近な疾患です。そのため、正しい知識と早期対応が重要です。
2.膀胱炎の症状(熱は出る?)
膀胱炎の代表的な症状は以下のとおりです。
- 排尿時の痛み(排尿痛)
- 頻尿(トイレが近くなる)
- 残尿感(尿が残っているような不快感)
- 尿の濁り、血尿(見た目が赤い、あるいはピンク色の尿)
- 尿の臭いがきつくなる
多くの場合、発熱は伴いません。しかし、発熱(特に38℃以上の高熱)や背中・腰の痛みを伴う場合は、膀胱よりも上部の腎臓に感染が広がっている「腎盂腎炎」の可能性があります。この場合は緊急の医療対応が必要です。
3.膀胱炎の原因
主な原因:細菌感染
膀胱炎の90%以上は、**大腸菌(Escherichia coli)**をはじめとする腸内細菌が原因です。特に女性は、肛門と尿道口が近く、尿道が短いため、細菌が膀胱に侵入しやすい構造をしています。
その他の原因
- 性行為:性交後膀胱炎(honeymoon cystitis)とも呼ばれる
- トイレを我慢する習慣
- 水分摂取不足
- 陰部の清潔が保たれていない場合
- 閉経後の女性ではエストロゲン低下による膣・尿道粘膜の萎縮
特殊な膀胱炎
- 間質性膀胱炎:細菌感染を伴わない慢性的な膀胱の炎症
- 放射線性膀胱炎:がんの治療で放射線照射を受けた後に発生
- 薬剤性膀胱炎:抗がん剤などの副作用で発症
6.膀胱炎の検査と診断
膀胱炎が疑われる場合、医療機関では以下のような検査が行われます。
① 問診と診察
- 排尿に関する症状の有無や経過を確認
- 性行為の有無や月経周期の確認も重要
② 尿検査
- 尿中白血球(膿尿)や尿中赤血球(血尿)
- 尿培養検査:原因菌の特定と、効果的な抗菌薬の選定(感受性試験)
③ 超音波検査・CTなど(必要に応じて)
-
腎臓への感染拡大や結石、腫瘍の有無を評価
7.膀胱炎の治療(抗菌薬は必要か?)
急性単純性膀胱炎の治療
原因菌が明らかな細菌感染であるため、抗菌薬の内服治療が基本となります。抗菌薬の選択は、ガイドラインや地域の耐性菌状況を考慮して行われます。
抗菌薬の例 | 一般名(商品名) | 服用期間 |
---|---|---|
ニューキノロン系 | レボフロキサシン(クラビット) | 通常3〜5日間 |
ホスホマイシン系 | ホスミシン | 単回投与も可能 |
セフェム系 | セフカペンピボキシル(フロモックス)など | 通常5〜7日間 |
日本感染症学会のガイドライン(2023年版)では、3日間の短期療法も推奨されており、特に症状が軽い場合は短期間での治療が有効です(文献①)。
抗菌薬を使用しないこともある?
軽度の症状であれば、水分を十分に摂取し、排尿によって細菌を排出することで自然治癒するケースもあります。しかし、抗菌薬を使わない選択は医師の判断が必要であり、自己判断で市販薬や自然療法に頼るのは避けましょう。

8.こんな症状の時はクリニックを受診しましょう
以下のような症状がある場合は、膀胱炎の可能性があります。早めに医療機関を受診しましょう。
- 排尿時に痛みを感じる
- 頻尿や残尿感がある
- 尿の濁りや血尿がある
- 性行為の後に症状が出た
- 発熱を伴っている(腎盂腎炎の疑い)
- 男性で膀胱炎を疑う症状がある(男性は前立腺炎など他疾患との鑑別が必要)
また、妊娠中や糖尿病の方、高齢者、再発を繰り返す方も、膀胱炎が重症化しやすいため、早期受診が重要です。
9.参考文献
- 日本感染症学会. 「尿路感染症診療ガイドライン 2023」.
- 日本化学療法学会. 「抗菌薬適正使用の手引き」.
- Hooton TM. “Uncomplicated urinary tract infection.” N Engl J Med. 2012;366(11):1028–1037.
- Gupta K, Hooton TM, et al. “International clinical practice guidelines for the treatment of acute uncomplicated cystitis and pyelonephritis in women.” Clin Infect Dis. 2011;52(5):e103–e120.
- 日本泌尿器科学会. 「膀胱炎の診療指針」2021.