【正しく知ろう】抗菌薬(抗生物質)とは?耐性菌・副作用・正しい使い方を解説

薬・その他

1.抗菌薬(抗生物質)とは?

抗菌薬(抗生物質)とは、細菌による感染症の治療に使われる薬です。たとえば肺炎や膀胱炎、中耳炎などは細菌が原因で起こるため、抗菌薬での治療が有効です。

1928年にペニシリンが発見されて以来、抗菌薬は医学の進歩に大きく貢献してきました。抗菌薬の登場により、かつて命取りだった感染症が治療可能になり、手術やがん治療などの医療行為も安全に行えるようになりました(Fleming, 1929)

しかし、その効果ゆえに「なんとなく抗生物質を使えば安心」と誤解されることもあり、誤用・乱用が問題視されています。


2.抗菌薬が効かない菌(耐性菌)とは?

抗菌薬は万能ではありません。**薬が効かない細菌=耐性菌(たいせいきん)**の存在が世界中で深刻化しています。

耐性菌とは、特定の抗菌薬に対して**抵抗性(Resistance)**を獲得した細菌のこと。つまり「抗菌薬を使っても治らない」細菌です。

◆日本でも広がる耐性菌

厚生労働省の報告によると、日本国内でもMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)やCRE(カルバペネム耐性腸内細菌)などが増加しており、医療現場での対応が急務とされています(厚労省AMRアクションプラン, 2016)。

◆なぜ耐性菌が増えるのか?

  • 抗菌薬の不必要な使用(風邪など)
  • 処方された量を守らない
  • 残った薬を自己判断で再利用する

これらの行為が、細菌に「抗菌薬から逃れる力」を与えてしまうのです。


3.抗菌薬に「強い・弱い」はあるのか?

よく「この抗生物質は強いから効きそう」といった言い方がされますが、これは誤解です。抗菌薬には「強い・弱い」というよりも、「効く細菌の種類(スペクトラム)」の違いがあります。

◆抗菌薬の分類と特徴

抗菌薬の分類 スペクトラム 主な対象疾患
狭域抗菌薬 限られた細菌に効く 溶連菌性咽頭炎など
広域抗菌薬 多くの細菌に効く 肺炎、尿路感染症など

広域抗菌薬は便利な反面、腸内の善玉菌まで殺してしまい、副作用や耐性菌の発生を招きやすいため、必要最低限の使用が原則です。


4.風邪やインフルエンザに抗菌薬は効く?

ここが最大の誤解ポイントです。

風邪やインフルエンザはウイルスが原因で起こるため、抗菌薬はまったく効果がありません。

それにもかかわらず、「風邪を早く治したいから抗生物質をもらいたい」と訴える人が後を絶ちません。実際、日本の調査によると、成人の約40%が風邪に抗菌薬が必要と誤解しているという結果が出ています(厚生労働省「薬剤耐性対策普及啓発」調査, 2017)。

このような誤用が、耐性菌の増加を招くのです。


5.増え続ける耐性菌とその影響

WHOは、薬剤耐性(AMR)を「世界最大の公衆衛生上の脅威のひとつ」と位置付けています。現状のままでは、2050年には薬剤耐性によって年間1,000万人が死亡すると予測されています(O’Neill J., 2016)。

◆耐性菌によるリスク

  • 感染症の治療が難しくなる
  • 入院や手術のリスクが上がる
  • がん化学療法や免疫抑制治療の安全性が損なわれる

つまり、「抗菌薬が効かない時代」=「現代医療が崩壊するリスク」を意味するのです。


6.耐性菌を防ぐには?私たちができること

薬剤耐性対策は医療者だけでなく、一般市民一人ひとりの行動が鍵になります。

◆抗菌薬を適切に使うために

  1. 医師の処方に従って正しく服用する

    • 処方された日数分、必ず飲みきる

  2. 自己判断で使用しない

    • 以前処方された薬を流用しない

  3. 不要なときに抗菌薬を求めない

    • 風邪などのウイルス性疾患では服用しない

◆日常生活でも予防を意識する

  • 手洗い・うがい・換気など基本的な感染予防
  • 予防接種(インフルエンザ、肺炎球菌など)で発症リスクを下げる

厚生労働省が策定した「薬剤耐性対策アクションプラン」では、国民の意識改革と抗菌薬適正使用の推進が最優先事項とされています(厚労省, 2016)。


7.まとめ:抗菌薬は命を救う薬、だからこそ正しい理解を

抗菌薬は、私たちの健康と命を守る大切な薬です。しかし、その効果に甘えて誤った使い方をすれば、「使えなくなる日」が近づいてしまいます。

正しい知識を持ち、必要なときに必要なだけ使うことが、将来の医療と命を守る一歩です。

医師が抗菌薬を出さない場合、それは「不要だから」。抗菌薬は魔法の薬ではありません。本当に効く時にこそ、その力を発揮するのです。


参考文献

  1. 厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」(2016)
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120172.html
  2. WHO「Antimicrobial resistance」
    https://www.who.int/health-topics/antimicrobial-resistance
  3. O’Neill, J. (2016). Tackling Drug-Resistant Infections Globally: Final Report and Recommendations
  4. Fleming A. (1929). On the Antibacterial Action of Cultures of a Penicillium
  5. 厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き(一般外来編)」(2017)
    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/AMR_Tebiki.pdf
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