この記事でわかること
- ポリファーマシーとは何か
- 適切なポリファーマシーと不適切なポリファーマシーの違い
- 薬が多いことで起こる有害事象・転倒・せん妄・認知機能低下
- ポリドクターが薬の増加につながる理由
- 薬の減らし方と、自己判断で中止してはいけない理由
- ビアーズ基準・STOPP/START基準など薬を見直す考え方
1.ポリファーマシーとは?|薬の飲みすぎが問題になる理由
「薬の数がどんどん増えてきた」「朝・昼・夕・寝る前で薬が多すぎて管理できない」「この薬、本当に全部必要なのだろうか」——そのように感じたことはありませんか?
ポリファーマシーとは、一般的に「多くの薬を使用している状態」を指します。ただし、重要なのは薬の数そのものではありません。本当に問題になるのは、薬が多いことで副作用、薬同士の相互作用、飲み間違い、飲み忘れ、転倒、せん妄、認知機能低下などの健康被害につながっている状態です。つまり、ポリファーマシーは単なる「多剤服用」ではなく、薬が多すぎることで患者さんの生活の質や安全性が下がっている状態と考えるとわかりやすいでしょう。
特に高齢になると、腎臓や肝臓の働きが若い頃より低下し、薬が体に残りやすくなります。そのため、若い頃は問題なかった薬でも、年齢を重ねることでふらつき、眠気、食欲低下、便秘、排尿障害、もの忘れ、転倒などとして現れることがあります。
大切なポイント
ポリファーマシー対策は「薬を全部やめること」ではありません。
今の体に合っていない薬、効果がはっきりしない薬、重複している薬を見直し、必要な薬を安全に続けることが目的です。
2.何種類からポリファーマシー?|5剤以上はひとつの目安
ポリファーマシーには「何剤以上なら必ず問題」という厳密な定義はありません。一般的には、5種類以上の薬を定期的に内服している状態をポリファーマシーの目安とすることが多いです。一方で、厚生労働省の指針でも示されているように、重要なのは薬剤数だけではなく、その薬が今の病状・年齢・腎機能・生活状況に合っているかです。
たとえば、3種類でも眠気やふらつきが強く出ていれば問題になることがあります。反対に、心不全や糖尿病、脳梗塞後などでは、複数の薬を組み合わせることで再発予防や生命予後の改善につながる場合もあります。
| 薬の数 | 考え方 |
|---|---|
| 1〜2種類 | 少なくても副作用が出ることはあります |
| 5種類以上 | ポリファーマシーを意識して見直したい目安です |
| 6種類以上 | 薬物有害事象が増えやすいとされ、より慎重な確認が必要です |
| 10種類以上 | 重複処方・飲み間違い・副作用の見逃しに特に注意が必要です |
3.適切なポリファーマシーと不適切なポリファーマシー
ポリファーマシーという言葉は悪い印象を持たれがちですが、薬が多いこと自体が必ず悪いわけではありません。
適切なポリファーマシーとは
適切なポリファーマシーとは、複数の薬が必要な理由が明確で、それぞれの薬に目的があり、効果と副作用のバランスを確認しながら使用できている状態です。たとえば、心不全、糖尿病、脳梗塞後、心筋梗塞後、慢性腎臓病などでは、複数の薬を組み合わせることで、再発予防や入院予防、生命予後の改善が期待できることがあります。このような場合、自己判断で薬を減らしてしまうと、血圧や血糖、心不全、血栓症などが悪化することがあります。
不適切なポリファーマシーとは
不適切なポリファーマシーとは、薬が多いことでメリットよりもデメリットが上回っている状態です。
- 何のための薬かわからない
- 同じような薬が重複している
- 以前の症状に対する薬が漫然と続いている
- 副作用を別の薬で抑えようとして、さらに薬が増えている
- 年齢や腎機能に対して薬の量が多い
- 眠気・ふらつき・便秘・食欲低下などが薬の影響かもしれない
このような状態では、薬を見直すことで、体調や生活のしやすさが改善する可能性があります。
減薬は「治療をあきらめること」ではありません。
むしろ、今の体に合った薬だけに整えることで、治療をより安全に続けるための大切な医療です。
4.ポリファーマシーと有害事象|薬が多いと何が起こる?
薬が増えると、薬同士の相互作用や副作用が複雑になり、何が原因で体調不良が起きているのか判断しにくくなります。これを薬物有害事象といいます。高齢者では、薬の副作用が「薬の副作用らしくない形」で現れることがあります。
薬が原因かもしれない症状
- 最近ふらつく、転びやすくなった
- 日中に眠気が強い
- ぼーっとする、せん妄のようになる
- もの忘れが急に目立ってきた
- 食欲が落ちた
- 便秘がひどくなった
- 尿が出にくい、頻尿が悪化した
- 口が渇く
- 血圧が下がりすぎる
- 腎機能や肝機能の数値が悪くなった
これらは加齢や病気のせいと思われがちですが、実は薬の影響が関係していることがあります。
処方カスケードにも注意
ポリファーマシーで特に注意したいのが、処方カスケードです。処方カスケードとは、薬の副作用で出た症状を「新しい病気」と考えて、さらに別の薬が追加される悪循環のことです。たとえば、ある薬でふらつきが出ているのに、それを別の病気と考えて新しい薬が追加されると、さらに副作用や飲み間違いのリスクが高まります。

こんなときは薬の見直しサインです
「薬が増えてから体調が悪い」
「最近転びやすい」
「眠気やふらつきが強い」
「何の薬かわからない薬がある」
このような場合は、医師や薬剤師に相談しましょう。
5.ポリドクターとは?|複数の病院にかかると薬が増えやすい理由
ポリファーマシーの背景には、ポリドクターの問題があります。ポリドクターとは、複数の医療機関や診療科を受診し、それぞれの医師から薬が処方されている状態を指します。もちろん、専門的な治療のために複数の診療科にかかること自体は悪いことではありません。問題は、誰も薬の全体像を把握できていない状態です。たとえば、内科、整形外科、泌尿器科、精神科、皮膚科などでそれぞれ薬が出ていると、ひとつひとつは少なくても、合計すると10種類以上になることがあります。
ポリドクターで起こりやすい問題
- 同じような薬が重複する
- 飲み合わせの確認が難しくなる
- 誰が薬を減らす判断をするのか曖昧になる
- 患者さん本人も薬の目的を把握しにくくなる
- 副作用が起きても原因薬がわかりにくい
このような場合に大切なのが、かかりつけ医とかかりつけ薬局です。すべての薬を一元的に把握することで、重複や相互作用、不要になった薬を見つけやすくなります。
6.見直したい薬の例|ビアーズ基準とは?
高齢者の薬を見直すときに参考にされる考え方のひとつに、ビアーズ基準があります。英語ではBeers Criteriaと呼ばれ、米国老年医学会が作成している、高齢者で慎重に使用すべき薬を整理した基準です。ビアーズ基準は、「この薬は絶対に使ってはいけない」という単純なリストではありません。高齢者では副作用が出やすいため、本当に必要か、より安全な代替薬がないか、量や期間は適切かを確認するための目安です。
高齢者で特に見直しを考えたい薬の例
- 睡眠薬・抗不安薬、特にベンゾジアゼピン系薬
- 抗コリン作用の強い薬
- 一部の胃薬の長期使用
- 痛み止め、特にNSAIDsの漫然使用
- 複数の血圧の薬による血圧低下やふらつき
- 便秘薬や整腸剤などが長期間なんとなく続いている場合
- 効果がはっきりしないサプリメントや市販薬
ただし、同じ薬でも病状によっては必要なことがあります。特に、睡眠薬、抗不安薬、抗てんかん薬、ステロイド、血液をサラサラにする薬、糖尿病薬、血圧の薬などは、自己判断で急に中止すると危険な場合があります。
絶対に自己判断で中止しないでください
薬を減らすことは大切ですが、急にやめると病状が悪化したり、離脱症状が出たりする薬もあります。
薬の見直しは、必ず医師・薬剤師と相談しながら行いましょう。
7.STOPP/START基準とは?|やめる薬と足りない薬を考える
薬の見直しでは、ビアーズ基準のほかにSTOPP/START基準も参考になります。
- STOPP:中止や減量を検討した方がよい薬を見つける考え方
- START:本来は必要なのに処方されていない薬を見つける考え方
つまり、薬の見直しは「減らす」だけではありません。不要な薬を減らしながら、必要な薬が不足していないかも確認します。この視点はとても重要です。薬を減らすことだけに注目しすぎると、本来必要な治療まで中止してしまう危険があります。目指すべきは、薬を少なくすることではなく、薬を適切にすることです。
8.薬の減らし方|安全に減薬するための5ステップ
薬を減らしたいと思ったとき、最も大切なのは自己判断でやめないことです。安全な減薬には順番があります。
ステップ1:すべての薬を一覧にする
まずは、病院から出ている薬だけでなく、市販薬、漢方薬、サプリメント、湿布、目薬、塗り薬まで含めて一覧にしましょう。お薬手帳が複数ある場合は、できれば1冊にまとめるか、すべて持参してください。
ステップ2:薬の目的を確認する
それぞれの薬について、次のように確認します。
- 何のための薬か
- いつから飲んでいるか
- 今も必要か
- 効果を実感しているか
- 副作用が疑われる症状はないか
「何の薬かわからない」という薬は、見直しの重要な候補になります。
ステップ3:減らしやすい薬から検討する
一般的には、命に直結しにくい薬、効果がはっきりしない薬、重複している薬、漫然と続いている薬から見直します。一方で、心臓、脳梗塞、糖尿病、血栓症、てんかん、精神疾患、ステロイドなどに関わる薬は、急に中止すると危険な場合があります。
ステップ4:一度にたくさん減らさない
薬を減らすときは、原則として一度に多くの薬をやめないことが大切です。複数の薬を同時に中止すると、体調が変化したときに、どの薬が関係しているのか判断しにくくなります。ひとつずつ、または少しずつ減らし、体調や検査値を確認しながら進めます。
ステップ5:減らした後の変化を確認する
薬を減らした後は、以下のような変化を確認します。
- 眠気が減ったか
- ふらつきが改善したか
- 転倒が減ったか
- 食欲や便通が改善したか
- 血圧・血糖・痛みなどが悪化していないか
- 気分や睡眠に変化がないか
減薬は「やめて終わり」ではありません。減らした後の経過を確認することまで含めて、安全な薬の見直しです。
9.薬を減らしたいとき、医師にどう相談すればよい?
「薬を減らしたい」と医師に言うのは、決して失礼なことではありません。むしろ、今の薬が自分に合っているかを確認することは、とても大切な医療です。相談するときは、次のように伝えるとスムーズです。
医師・薬剤師に伝えたい言い方
- 「薬の数が多くて管理が大変です」
- 「この薬は今も必要ですか?」
- 「ふらつきや眠気が薬の影響ではないか心配です」
- 「同じような薬が重なっていないか確認してほしいです」
- 「できれば薬を少し整理したいです」
- 「お薬手帳を見て、全体を見直してもらえますか?」
薬を減らすかどうかは、病気の状態、検査結果、年齢、腎機能、生活状況、転倒リスク、本人の希望などを総合して判断します。特に高齢の方では、「病気を完全にゼロにする治療」よりも、転ばない、眠くなりすぎない、食べられる、生活しやすいという視点が大切になることがあります。
10.家族ができるポリファーマシー対策
高齢の家族が多くの薬を飲んでいる場合、家族のサポートも重要です。
- お薬手帳を1冊にまとめる
- 受診時に薬の一覧を持参する
- 飲み忘れや飲み間違いがないか確認する
- 眠気・ふらつき・食欲低下・便秘などの変化を記録する
- 市販薬やサプリメントも医師に伝える
- 複数の医療機関にかかっている場合は、かかりつけ医に全体を見てもらう
本人が「いつも飲んでいる薬だから大丈夫」と思っていても、年齢や体調の変化によって、薬が合わなくなることがあります。特に、転倒、せん妄、急なもの忘れ、食欲低下、ふらつきがある場合は、薬の影響も含めて相談しましょう。
11.まとめ|薬を減らすことは、健康を守る選択肢です
ポリファーマシーは、高齢者や複数の病気を持つ方にとって身近な問題です。しかし、薬が多いことを「仕方ない」とあきらめる必要はありません。薬の見直しによって、眠気やふらつきが減ったり、飲み間違いが減ったり、生活が楽になったりする可能性があります。大切なのは、必要な薬は続け、不要な薬や負担になっている薬を整理することです。
この記事のポイント
- ポリファーマシーは、単に薬の数が多いことではなく、薬による問題が起きている状態です
- 適切なポリファーマシーもあり、多剤併用が必要な病気もあります
- 不適切なポリファーマシーでは、副作用・転倒・せん妄・認知機能低下・飲み間違いが増えます
- ポリドクターにより、薬の全体像が見えにくくなることがあります
- ビアーズ基準やSTOPP/START基準は、高齢者の薬を見直す参考になります
- 薬の減らし方は、自己判断ではなく医師・薬剤師と相談しながら進めることが大切です
「薬が多いかもしれない」「この薬は本当に必要だろうか」と感じたら、それは薬を見直す良いタイミングです。お薬手帳を持って、かかりつけ医や薬剤師に相談してみましょう。

