1.RSウイルス感染症とは?
RSウイルス感染症(Respiratory Syncytial Virus infection:RSV感染症)は、RSウイルスによって起こる呼吸器感染症です。乳幼児に多い感染症ですが、子どもだけでなく、大人や高齢者にも感染します。
RSウイルスは、一般的な風邪のように鼻水・咳・発熱から始まることが多い一方で、特に生後6か月未満の赤ちゃん、早産児、心臓や肺に病気がある子ども、高齢者、基礎疾患のある大人では、細気管支炎や肺炎に進行し、重症化することがあります。
厚生労働省によると、RSウイルスは生後1歳までに50%以上、2歳までにほぼ100%の乳幼児が少なくとも1回感染するとされています。また、一度感染しても十分な免疫がつきにくいため、年齢を問わず何度も感染を繰り返すことがあります。
以前は冬に流行する感染症というイメージがありましたが、近年は夏から秋に流行することもあり、地域によって流行時期が異なります。そのため、季節だけで判断せず、周囲の流行状況や症状に注意することが大切です。

RSウイルスの主な感染経路
- 飛沫感染:咳やくしゃみに含まれるウイルスを吸い込む
- 接触感染:ウイルスがついた手、おもちゃ、ドアノブなどを触った手で口や鼻を触る
RSウイルスは感染力が強く、保育園、幼稚園、家庭内、高齢者施設などで広がりやすい感染症です。特に小さな子どもは、鼻水やよだれ、おもちゃを介して感染が広がることがあります。
2.RSウイルス感染症の症状
RSウイルス感染症の症状は、年齢や体の状態によって大きく異なります。軽い風邪で終わることもありますが、乳幼児では急に呼吸状態が悪化することがあります。
乳幼児に多い症状
- 鼻水、鼻づまり
- 咳
- 発熱
- ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音
- 呼吸が速い
- 母乳やミルクの飲みが悪い
- 機嫌が悪い、ぐったりしている
- 無呼吸発作、特に新生児や早産児
RSウイルス感染症では、最初は鼻水だけ、軽い咳だけということもあります。しかし、数日かけて咳が強くなり、ゼーゼーした呼吸や呼吸困難が出てくることがあります。
赤ちゃんで注意したい呼吸のサイン
- 呼吸がいつもより速い
- 胸やお腹がペコペコへこむ
- 小鼻がピクピク動く
- 唇や顔色が悪い
- 母乳やミルクを飲む量が明らかに減った
- 眠ってばかりで反応が悪い
- 呼吸が止まるように見える
このような症状がある場合は、早めに医療機関へ相談してください。特に生後3か月未満の赤ちゃんでは、発熱が目立たず、哺乳不良や無呼吸で気づかれることもあります。
大人のRSウイルス感染症の症状
健康な大人がRSウイルスに感染した場合、多くは風邪のような症状で自然に改善します。
- 鼻水、鼻づまり
- 咳
- のどの痛み
- 微熱
- だるさ
ただし、高齢者、喘息、COPD、心不全、糖尿病、腎臓病、免疫低下のある方では、RSウイルス感染をきっかけに肺炎、喘息発作、COPD増悪、心不全悪化を起こすことがあります。
高齢者・基礎疾患のある方で注意したい症状
- 咳が長引く
- 息切れが強い
- ゼーゼーする
- 発熱が続く
- 食事や水分がとれない
- 持病の呼吸器症状が悪化している
- 普段より動けない、ぐったりしている
大人のRSウイルス感染症は「ただの風邪」と思われがちですが、高齢者や基礎疾患のある方では重症化することがあるため注意が必要です。
3.RSウイルス感染症が重症化しやすい人
RSウイルス感染症は、多くの場合は自然に改善します。しかし、次のような方は重症化しやすいため、早めの受診や慎重な経過観察が必要です。
子どもで重症化しやすい人
- 生後6か月未満の乳児
- 生後3か月未満の赤ちゃん
- 早産で生まれた赤ちゃん
- 慢性肺疾患がある子ども
- 先天性心疾患がある子ども
- 免疫不全がある子ども
- ダウン症候群など基礎疾患がある子ども
大人で重症化しやすい人
- 高齢者
- 喘息やCOPDなど慢性呼吸器疾患がある方
- 心不全、冠動脈疾患など心疾患がある方
- 糖尿病、慢性腎臓病などの基礎疾患がある方
- がん治療中、免疫抑制薬使用中、臓器移植後など免疫が低下している方
RSウイルスは小児の感染症として知られていますが、現在では高齢者や基礎疾患のある成人にとっても重要な呼吸器感染症と考えられています。
4.RSウイルス感染症の検査と診断
RSウイルス感染症は、症状、年齢、周囲の流行状況、診察所見から疑います。必要に応じて、鼻の奥から検体を採取する迅速抗原検査などを行います。
主な検査方法
| 検査名 | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 迅速抗原検査 | 鼻咽頭ぬぐい液などでRSウイルス抗原を調べる | 10〜15分程度で結果が出ることが多い |
| PCR検査・核酸検出検査 | RSウイルスの遺伝子を調べる | 感度が高いが、一般外来では必要時に限られる |
| 胸部X線検査 | 肺炎や重症の細気管支炎が疑われる場合に行う | 呼吸状態が悪い場合や肺炎の評価に用いる |
| 酸素飽和度測定 | 指や足にセンサーをつけて酸素の状態を確認する | 呼吸状態の重症度判断に重要 |
RSウイルス検査は全員に必要?
RSウイルスの検査は、症状があるすべての方に必ず行う検査ではありません。なぜなら、RSウイルス感染症には特効薬がなく、軽症であれば検査結果にかかわらず治療は対症療法が中心になるためです。
また、保険診療でRSウイルス抗原検査を行える対象は限られています。一般的には、RSウイルス感染症が疑われる場合に、以下のような方が検査の対象になります。
- 入院中の患者
- 1歳未満の乳児
- パリビズマブ製剤の適応となる患者
そのため、1歳以上の元気な子どもや健康な大人では、RSウイルスが疑われても検査を行わず、症状や診察所見から判断することがあります。一方で、重症化リスクがある場合、入院の判断が必要な場合、保育園や施設内での感染対策が必要な場合などでは、検査が役立つことがあります。
5.RSウイルス感染症の治療法
RSウイルス感染症には、インフルエンザのような一般的な抗ウイルス薬はありません。そのため、治療は症状を和らげながら自然に回復するのを待つ対症療法が中心です。
自宅でできるケア
- こまめに水分をとる
- 鼻水が多い赤ちゃんでは鼻吸いをする
- 部屋を加湿し、呼吸しやすい環境を整える
- 発熱でつらそうな場合は解熱薬を使用する
- 食事がとれない場合は無理をせず、水分を優先する
赤ちゃんは鼻づまりだけでも哺乳が悪くなることがあります。授乳前に鼻水を吸ってあげると飲みやすくなることがあります。
医療機関で行う治療
- 解熱薬の使用
- 鼻水の吸引
- 脱水がある場合の点滴
- 酸素が低い場合の酸素投与
- 呼吸状態が悪い場合の入院管理
咳止めや気管支拡張薬は、年齢や症状によって慎重に判断します。特に小さな子どもでは、市販の咳止めを自己判断で使用することはおすすめできません。
抗菌薬は必要?
RSウイルス感染症はウイルス感染症のため、通常は抗菌薬、いわゆる抗生物質は効きません。ただし、中耳炎や細菌性肺炎などを合併している場合には、医師の判断で抗菌薬を使用することがあります。
6.入院が必要になることはある?
RSウイルス感染症では、呼吸状態が悪い場合や水分がとれない場合に入院が必要になることがあります。
入院を検討する症状
- 呼吸が苦しそう
- 酸素の値が低い
- 哺乳や水分摂取ができない
- 脱水がある
- 無呼吸発作がある
- ぐったりしている
- 生後早期で重症化リスクが高い
- 心疾患や慢性肺疾患など基礎疾患がある
入院した場合は、酸素投与、点滴、鼻水の吸引、呼吸状態の観察などを行います。重症例では、人工呼吸管理が必要になることもあります。
7.RSウイルス感染症の予防
RSウイルスは感染力が強いため、完全に防ぐことは難しい感染症です。しかし、手洗いや環境整備、ワクチンや抗体製剤によって、感染や重症化のリスクを下げることができます。
日常生活でできる予防
- こまめな手洗い
- アルコール手指消毒
- 咳や鼻水がある人との接触を避ける
- おもちゃ、ドアノブ、テーブルなどを清潔にする
- 風邪症状がある大人は赤ちゃんに近づきすぎない
- 家庭内でもタオルや食器の共有を避ける
特に新生児や生後数か月の赤ちゃんがいる家庭では、兄弟や大人の風邪症状にも注意が必要です。
8.RSウイルスワクチン・予防薬の最新情報
近年、RSウイルス感染症に対する予防方法は大きく変わってきています。以前は一部の高リスク児に対する抗体製剤が中心でしたが、現在は妊婦へのワクチン、高齢者・高リスク成人へのワクチン、乳幼児への長時間作用型抗体製剤などが登場しています。
妊婦へのRSウイルスワクチン:アブリスボ
アブリスボは、妊婦に接種することで母体内にRSウイルスに対する抗体を作り、その抗体が胎盤を通じて赤ちゃんに移行することで、生後早期の赤ちゃんをRSウイルスから守ることを目的としたワクチンです。
日本では、2026年度から妊婦へのRSウイルスワクチンが予防接種法に基づく定期接種の対象になりました。定期接種としての接種時期は妊娠28週0日から36週6日です。
なお、アブリスボの添付文書上は、妊婦への接種は妊娠24〜36週に1回0.5mLを筋肉内接種とされていますが、定期接種では妊娠28〜36週が対象です。実際の接種時期は、妊婦健診を受けている産婦人科や自治体の案内に従ってください。
高齢者・成人へのRSウイルスワクチン
RSウイルスは高齢者や基礎疾患のある大人でも重症化することがあります。そのため、成人向けのRSウイルスワクチンも使用できるようになっています。
| ワクチン名 | 主な対象 | 特徴 |
|---|---|---|
| アブリスボ | 妊婦、60歳以上の方 | 妊婦への接種により新生児・乳児を守る目的、また60歳以上のRSウイルス感染予防に使用 |
| アレックスビー | 60歳以上の方、RSウイルス感染症の重症化リスクが高い成人 | 高齢者や基礎疾患のある成人のRSウイルス感染症予防に用いられるワクチン |
成人のRSウイルスワクチンは、すべての方に一律で必要というより、年齢、基礎疾患、免疫状態、生活環境などを考えて接種を検討します。特に高齢者、慢性呼吸器疾患、心疾患、免疫低下のある方では、医師と相談して接種を検討するとよいでしょう。
乳幼児への抗体製剤:ベイフォータスとパリビズマブ
RSウイルスの重症化を防ぐための薬として、抗体製剤があります。これは治療薬ではなく、感染前に投与して重症化を予防する目的で使用されます。
| 薬剤名 | 一般名 | 特徴 |
|---|---|---|
| ベイフォータス | ニルセビマブ | 長時間作用型のモノクローナル抗体。1回投与で一定期間の予防効果が期待される |
| シナジス | パリビズマブ | 早産児、慢性肺疾患、先天性心疾患など高リスク児に使用されてきた抗体製剤 |
ベイフォータスやパリビズマブは、すでに発症したRSウイルス感染症を治す薬ではありません。重症化リスクが高い赤ちゃんに対して、流行期に合わせて予防目的で投与されます。
妊婦がRSウイルスワクチンを接種した場合でも、赤ちゃんに重症化リスクがある場合には、出生後に抗体製剤の投与が検討されることがあります。対象になるかどうかは、出生週数、基礎疾患、流行状況、保険適応などによって異なるため、主治医に確認しましょう。
9.登園・登校の目安
RSウイルス感染症は、学校保健安全法で出席停止期間が明確に定められている感染症ではありません。そのため、登園・登校の判断は、症状や全身状態を見て行います。
登園・登校の目安
- 熱が下がっている
- 咳や鼻水が落ち着いている
- 食事や水分が普段通りとれる
- 呼吸が苦しそうでない
- 普段通り遊べる、活動できる
咳や鼻水が残っていても、全身状態がよければ登園可能と判断されることがあります。ただし、園によってルールが異なるため、登園前に確認しておくと安心です。
10.こんな症状があるときは早めに受診しましょう
RSウイルス感染症は軽症で済むことも多い一方で、乳幼児や高齢者では急に悪化することがあります。以下のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。
子どもの受診目安
- 生後3か月未満で発熱がある
- 呼吸が速い、苦しそう
- 胸やお腹がペコペコへこむ
- ゼーゼー、ヒューヒューする
- 顔色が悪い、唇が紫色
- 母乳やミルクの飲みが悪い
- 尿が少ない
- ぐったりしている
- 無呼吸のように見える
大人・高齢者の受診目安
- 息苦しさがある
- 咳が長引いて悪化している
- 38℃以上の発熱が続く
- 食事や水分がとれない
- 喘息やCOPDなど持病が悪化している
- 高齢者で元気がない、動けない
- 酸素飽和度が低いと言われた
特に赤ちゃんの呼吸状態は急に変化することがあります。「いつもと違う」「飲みが悪い」「呼吸が変」と感じた場合は、早めに相談してください。
11.RSウイルス感染症についてよくある質問
RSウイルスは何度も感染しますか?
はい。RSウイルスは一度感染しても十分な免疫がつきにくく、何度も感染することがあります。ただし、初感染時、特に乳幼児期の感染で重症化しやすいとされています。
RSウイルスに抗生物質は効きますか?
通常は効きません。RSウイルス感染症はウイルス感染症のため、抗菌薬は基本的に不要です。ただし、中耳炎や細菌性肺炎を合併した場合には、医師の判断で抗菌薬を使用することがあります。
RSウイルス検査が陰性なら安心ですか?
迅速検査は便利ですが、検体の採取状況や発症からの時期によっては、感染していても陰性になることがあります。検査結果だけでなく、症状や診察所見を合わせて判断します。
大人から赤ちゃんにうつることはありますか?
あります。大人では軽い風邪症状だけでも、赤ちゃんにうつると重症化することがあります。新生児や小さな赤ちゃんがいる家庭では、大人の手洗い、マスク、体調不良時の接触を控えることが大切です。
RSウイルスワクチンは赤ちゃん本人に接種するのですか?
妊婦へのRSウイルスワクチンは、赤ちゃん本人ではなく妊婦に接種し、胎盤を通じて赤ちゃんに抗体を移行させることで生後早期の赤ちゃんを守る仕組みです。一方、ベイフォータスやパリビズマブは、赤ちゃんに投与する抗体製剤です。
12.まとめ
RSウイルス感染症は、乳幼児に多い呼吸器感染症ですが、大人や高齢者にも感染します。多くは風邪のような症状で自然に改善しますが、生後早期の赤ちゃん、早産児、心疾患や肺疾患のある子ども、高齢者、基礎疾患のある成人では重症化することがあります。検査はすべての人に必要なわけではなく、年齢や重症度、保険適応を考えて行います。治療は対症療法が中心ですが、呼吸が苦しい、水分がとれない、ぐったりしている場合は早めの受診が必要です。
近年は、妊婦へのRSウイルスワクチンであるアブリスボ、高齢者・成人向けワクチン、乳幼児への抗体製剤であるベイフォータスやパリビズマブなど、予防の選択肢が広がっています。赤ちゃんや高齢者をRSウイルスから守るために、正しい知識を持ち、必要に応じて医療機関で相談しましょう。
参考文献
-
- 厚生労働省「RSウイルス感染症」
RSウイルス感染症RSウイルス感染症について主な症状、感染経路、治療方法、発生状況、予防と対策などの基本情報をお伝えしています。 - 厚生労働省「RSウイルスワクチン」
RSウイルスワクチンRSウイルスワクチンについて紹介しています。 - 日本小児科学会「2026年4月からの妊婦を対象としたRSウイルス母子免疫ワクチン(アブリスボ®筋注用)の定期接種化にあたって」
公益社団法人 日本小児科学会公益社団法人 日本小児科学会公式サイト - 日本小児科学会「日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドライン Q&A」
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20251009Nirsevimab_GL_QA.pdf
- 厚生労働省「RSウイルス感染症」

