「ワクチンは子どものころに打つもの」と思っていませんか?
実は、大人になってからも必要な予防接種があります。子どもの頃に受けたワクチンの効果が年齢とともに弱まったり、加齢によって感染症が重症化しやすくなったり、妊娠・仕事・海外渡航などで新たな感染リスクが生じたりするためです。特に近年は、帯状疱疹ワクチンの定期接種化や、高齢者肺炎球菌ワクチンの変更など、大人のワクチンをめぐる制度も少しずつ変わっています。
この記事では、成人に必要なワクチンの種類、接種を考えたい年齢、定期接種と任意接種の違い、海外渡航時に必要なワクチンまで、医師の視点でわかりやすく解説します。
この記事でわかること
- 大人になっても予防接種が必要な理由
- 成人に必要なワクチンの種類
- 年齢別・状況別に確認したいワクチン
- 公費で受けられるワクチンと自費で検討するワクチン
- 帯状疱疹・肺炎球菌・インフルエンザ・新型コロナ・風しん・HPVなどの最新情報
- 海外渡航前に確認したいワクチン
- 接種前に医師へ相談した方がよいケース
1.なぜ大人にもワクチン接種が必要なのか?
ワクチン接種は、感染症にかかるリスクや重症化するリスクを下げるための大切な予防医療です。大人にワクチンが必要な理由は、大きく分けて次の3つです。
- 免疫が弱まることがある
子どもの頃に受けたワクチンでも、年齢とともに免疫が低下することがあります。 - 年齢とともに重症化しやすくなる感染症がある
インフルエンザ、新型コロナ、肺炎球菌感染症、帯状疱疹などは、高齢者や基礎疾患のある方で重症化しやすくなります。 - 周囲の人を守ることにつながる
妊婦さん、赤ちゃん、高齢者、免疫が低下している方など、感染症に弱い人へうつさないためにも予防接種は重要です。
たとえば、風しんは大人が感染して妊婦さんにうつると、赤ちゃんに先天性風しん症候群を起こすことがあります。自分自身を守るだけでなく、家族や地域の人を守る意味でも、大人のワクチン接種は大切です。
2.大人に必要なワクチン一覧
成人で検討される主なワクチンを一覧にまとめます。実際に必要なワクチンは、年齢、過去の接種歴、持病、妊娠の可能性、仕事、海外渡航歴などによって異なります。
| ワクチン | 主な対象 | 公費・自費の目安 | ポイント |
|---|---|---|---|
| インフルエンザワクチン | 65歳以上、基礎疾患のある方、医療・介護職など | 高齢者は定期接種、それ以外は任意接種 | 毎年秋〜冬に接種を検討 |
| 新型コロナワクチン | 65歳以上、60〜64歳で一定の基礎疾患がある方など | 対象者は定期接種、それ以外は任意接種 | 毎年秋冬に自治体で実施 |
| 肺炎球菌ワクチン | 65歳の方、60〜64歳で一定の基礎疾患がある方 | 定期接種 | 2026年4月から定期接種はPCV20を使用 |
| 帯状疱疹ワクチン | 65歳の方、経過措置対象年齢の方、50歳以上で希望する方 | 対象者は定期接種、その他は任意接種 | 生ワクチンと組換えワクチンの2種類 |
| 麻しん・風しんワクチン(MR) | 接種歴や抗体が不十分な方、妊娠を希望する方の周囲など | 自治体助成または任意接種 | 妊娠中は接種不可。妊娠前に確認が重要 |
| HPVワクチン | 定期接種対象の女性、接種機会を逃した方、希望する男性など | 対象者は公費、その他は任意接種 | 子宮頸がんなどHPV関連疾患の予防 |
| 破傷風トキソイド | けがが多い方、農作業・屋外作業をする方、海外渡航者など | 任意接種 | 土やさびた金属による傷で感染リスク |
| B型肝炎ワクチン | 医療従事者、血液に触れる可能性がある方、感染リスクが高い方 | 任意接種 | 通常3回接種で免疫をつける |
| A型肝炎ワクチン | 海外渡航者、流行地域へ行く方、飲食リスクがある方 | 任意接種 | 東南アジアなどへの渡航前に検討 |
| 狂犬病ワクチン | 狂犬病流行地域へ長期滞在する方、動物と接触する可能性がある方 | 任意接種 | 発症するとほぼ致死的。渡航前相談が重要 |
公費助成の内容や自己負担額は、市区町村によって異なります。接種を希望する場合は、お住まいの自治体や医療機関に確認しましょう。
3.年齢別に確認したい大人のワクチン
20〜40代で確認したいワクチン
20〜40代では、麻しん・風しん、HPV、B型肝炎、破傷風などを確認したい年代です。
- 麻しん・風しんの接種歴が不明
- 妊娠を希望している、または妊婦さんの家族である
- 医療・介護・保育・教育関係の仕事をしている
- 海外旅行や海外出張がある
- けがをしやすい仕事や趣味がある
このような方は、母子手帳や接種記録を確認し、必要に応じて抗体検査やワクチン接種を検討します。
50代から確認したいワクチン
50歳を過ぎると、帯状疱疹のリスクが高くなります。帯状疱疹は、水ぼうそうのウイルスが体内に残り、加齢や免疫低下をきっかけに再活性化して起こる病気です。皮膚の発疹だけでなく、強い痛みが続く「帯状疱疹後神経痛」が問題になることがあります。50歳以上では、任意接種として帯状疱疹ワクチンを検討できます。
65歳以上で確認したいワクチン
65歳以上では、インフルエンザ、新型コロナ、肺炎球菌、帯状疱疹など、重症化予防を目的としたワクチンが重要です。
- インフルエンザワクチン:毎年秋〜冬に接種
- 新型コロナワクチン:毎年秋冬に定期接種として実施
- 肺炎球菌ワクチン:65歳の方などが対象
- 帯状疱疹ワクチン:65歳の方などが定期接種の対象
高齢になると、感染そのものよりも、肺炎、入院、体力低下、寝たきりのきっかけになることが問題になります。重症化を防ぐためにも、対象年齢になったら早めに確認しておきましょう。
4.帯状疱疹ワクチン|2025年度から定期接種の対象に
帯状疱疹ワクチンは、2025年度から65歳の方などを対象に、予防接種法に基づく定期接種の対象となりました。対象となるのは、主に以下の方です。
- 65歳を迎える方
- 60〜64歳で、HIVによる免疫機能の障害があり、日常生活がほとんど不可能な方
- 2025年度から2029年度までの経過措置として、その年度内に70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳となる方
- 2025年度に限り、100歳以上の方
帯状疱疹ワクチンには、次の2種類があります。
| 種類 | 接種回数 | 特徴 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 生ワクチン | 1回 | 皮下注射。接種回数が少ない | 免疫が低下している方では使えない場合がある |
| 組換えワクチン | 2回 | 筋肉注射。高い予防効果が期待される | 注射部位の痛み、発熱、だるさなどが出ることがある |
厚生労働省によると、帯状疱疹に対する予防効果は、接種後1年時点で生ワクチンが6割程度、組換えワクチンが9割以上、接種後5年時点で生ワクチンが4割程度、組換えワクチンが9割程度とされています。どちらのワクチンがよいかは、年齢、持病、免疫状態、費用、接種回数などによって変わります。接種前に医師と相談して決めることをおすすめします。

5.肺炎球菌ワクチン|2026年4月からPCV20へ変更
肺炎球菌は、肺炎、気管支炎、敗血症、髄膜炎などを起こすことがある細菌です。特に高齢者では重症化しやすく、入院や体力低下の原因になることがあります。2026年4月から、高齢者の肺炎球菌ワクチンの定期接種では、従来の23価肺炎球菌ワクチン(PPSV23)から、沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20)に変更されています。定期接種の対象は、主に以下の方です。
- 65歳の方
- 60〜64歳で、心臓・腎臓・呼吸器の機能に障害があり、日常生活が大きく制限される方
- 60〜64歳で、HIVによる免疫機能の障害があり、日常生活がほとんど不可能な方
定期接種では、PCV20を1回筋肉内に接種します。過去に肺炎球菌ワクチンを接種したことがある方や、任意接種として別の肺炎球菌ワクチンを検討する方は、接種歴を確認したうえで医師に相談しましょう。
6.インフルエンザワクチンと新型コロナワクチン
インフルエンザワクチン
インフルエンザワクチンは、毎年の流行に合わせて接種するワクチンです。特に65歳以上の方、基礎疾患のある方、妊婦さん、医療・介護関係者などでは、重症化予防のために重要です。接種時期は、一般的に流行前の10〜12月頃が目安です。ワクチンを接種しても感染を完全に防げるわけではありませんが、発症や重症化のリスクを下げることが期待されます。

新型コロナワクチン
新型コロナワクチンは、2024年度以降、65歳以上の方や60〜64歳で一定の基礎疾患がある方を対象に、定期接種として位置づけられています。定期接種は、毎年秋冬に自治体で実施されます。定期接種の対象者以外でも、希望する場合は任意接種として受けられることがあります。使用されるワクチンや自己負担額は年度によって変わるため、接種時期が近づいたら自治体の案内を確認しましょう。
7.麻しん・風しんワクチン|妊娠前・家族内感染予防に重要
麻しん(はしか)と風しんは、大人が感染すると重症化することがあります。特に風しんは、妊娠初期の女性が感染すると、赤ちゃんに先天性風しん症候群を起こす可能性があります。そのため、次のような方は、麻しん・風しんの抗体や接種歴を確認することが大切です。
- 妊娠を希望している女性
- 妊婦さんのパートナーや同居家族
- 医療・介護・保育・教育関係の仕事をしている方
- 海外渡航を予定している方
- 麻しん・風しんワクチンの接種歴が不明な方
注意点として、MRワクチンは生ワクチンのため、妊娠中は接種できません。妊娠を希望する方は、妊娠前に抗体検査やワクチン接種を済ませておくことが大切です。接種後は一定期間、妊娠を避ける必要がありますので、医師に確認してください。
昭和37年4月2日から昭和54年4月1日生まれの男性を対象に行われていた風しんの追加的対策は、原則として2025年3月31日で終了しています。ただし、ワクチンの偏在などで接種できなかった一部の方に対し、自治体によって特例的な対応が行われている場合があります。該当する可能性がある方は、お住まいの自治体に確認しましょう。
8.HPVワクチン|子宮頸がんなどの予防に重要
HPV(ヒトパピローマウイルス)は、子宮頸がんをはじめ、肛門がん、腟がん、外陰がん、尖圭コンジローマなどに関係するウイルスです。HPVワクチンは、主に子宮頸がんの予防を目的として、定期接種の対象年齢の女性に公費で接種されています。
また、積極的勧奨が差し控えられていた時期に接種機会を逃した方へのキャッチアップ接種も行われていましたが、1回目の公費接種は2025年3月31日で終了しています。平成9年度生まれから平成20年度生まれの女性で、2022年4月から2025年3月末までにHPVワクチンを1回以上接種した方は、2026年3月末までに2回目・3回目を公費で接種できる経過措置が設けられていました。
HPVワクチンは、年齢や性別、過去の接種状況によって公費・自費の扱いが異なります。接種を希望する場合は、自治体や医療機関に確認しましょう。

9.B型肝炎・A型肝炎・破傷風|仕事や生活スタイルで検討
B型肝炎ワクチン
B型肝炎は、血液や体液を介して感染するウイルス感染症です。医療従事者、介護職、血液に触れる可能性のある仕事をしている方、感染リスクが高い方では、B型肝炎ワクチンを検討します。通常は3回接種で免疫をつけます。職業上のリスクがある方では、抗体価の確認が必要になることもあります。
A型肝炎ワクチン
A型肝炎は、主に食べ物や水を介して感染します。衛生環境が十分でない地域へ渡航する場合や、長期滞在する場合には接種を検討します。
破傷風トキソイド
破傷風は、土の中などに存在する破傷風菌が傷口から入ることで起こります。発症すると重症化することがあるため、けがが多い仕事、農作業、ガーデニング、アウトドア活動、災害ボランティア、海外渡航などでは注意が必要です。深い傷、土で汚れた傷、動物に咬まれた傷などでは、ワクチン歴に応じて追加接種が必要になる場合があります。
10.海外渡航前に確認したいワクチン
海外旅行や海外出張、留学、長期滞在の予定がある方は、渡航先によって必要なワクチンが変わります。
| 渡航先・状況 | 検討されるワクチン |
|---|---|
| 東南アジア、南アジア、中南米、アフリカなど | A型肝炎、B型肝炎、破傷風、腸チフス、狂犬病など |
| 黄熱流行地域 | 黄熱ワクチン |
| 動物と接触する可能性がある、医療機関にすぐ行けない地域へ行く | 狂犬病ワクチン |
| 集団生活、巡礼、留学など | 髄膜炎菌ワクチンなど |
| 接種歴が不明な方 | 麻しん・風しん、破傷風などの確認 |
ワクチンによっては、複数回接種が必要です。出発直前では間に合わないことがあるため、できれば出発の1〜2か月前には医療機関やトラベルクリニックに相談しましょう。
11.ワクチン接種前に確認しておきたいこと
ワクチン接種を受ける前には、次の点を確認しておくと安心です。
- 過去のワクチン接種歴
- 母子手帳や接種証明書の有無
- 過去にワクチンで強い副反応が出たことがあるか
- 現在の体調
- 妊娠中、妊娠の可能性、妊娠希望の有無
- 免疫を抑える薬を使っているか
- 持病やアレルギーの有無
- 海外渡航の予定
特に、生ワクチンは妊娠中の方や免疫が低下している方では接種できない場合があります。持病がある方、がん治療中の方、ステロイドや免疫抑制薬を使用している方は、必ず主治医に相談してください。
12.よくある質問
Q1.大人でも母子手帳を確認した方がよいですか?
はい。母子手帳には、小児期の予防接種歴が記録されていることがあります。麻しん・風しん、破傷風、B型肝炎などを確認するうえで役立ちます。
Q2.接種歴がわからない場合はどうすればよいですか?
ワクチンによっては、抗体検査で免疫の有無を確認できるものがあります。接種歴が不明な場合は、医師に相談し、抗体検査をするか、追加接種を検討します。
Q3.複数のワクチンを同時に接種できますか?
ワクチンの種類や体調によって、同時接種が可能な場合があります。ただし、接種間隔や副反応の確認が必要なこともあるため、医師と相談してスケジュールを決めましょう。
Q4.副反応が心配です。
多くのワクチンでは、接種部位の痛み、赤み、腫れ、発熱、だるさなどがみられることがあります。多くは数日以内に改善しますが、強いアレルギー症状、息苦しさ、全身のじんましん、意識がぼんやりするなどの症状があれば、すぐに医療機関を受診してください。
Q5.どのワクチンから受ければよいかわかりません。
年齢、持病、仕事、妊娠の可能性、海外渡航の有無によって優先順位が変わります。まずは、インフルエンザ、新型コロナ、肺炎球菌、帯状疱疹、麻しん・風しん、破傷風、B型肝炎などについて、接種歴を確認するところから始めましょう。
13.まとめ|大人のワクチンは「今の自分に必要か」で考える
大人の予防接種は、子どもの頃のワクチンの続きではなく、今の年齢・生活・健康状態に合わせて考える予防医療です。特に、以下に当てはまる方は、一度ワクチン接種歴を確認しておくことをおすすめします。
- 65歳以上の方
- 50歳以上で帯状疱疹が心配な方
- 妊娠を希望している方やその家族
- 医療・介護・保育・教育関係の仕事をしている方
- 海外渡航の予定がある方
- 持病があり感染症が重症化しやすい方
- 母子手帳や接種歴が不明な方
ワクチンは、感染症を完全に防ぐものではありません。しかし、発症や重症化のリスクを下げ、自分自身だけでなく家族や周囲の人を守ることにつながります。
「自分にはどのワクチンが必要かわからない」という方は、接種歴や持病、生活状況をもとに、かかりつけ医へ相談してみてください。

