1.甲状腺機能亢進症とは?
甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)とは、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。
甲状腺は首の前側にある小さな臓器で、新陳代謝やエネルギーの調整に関わるホルモン(T3・T4)を分泌しています。これらのホルモンが多くなることで、体の機能が「過剰に働く」状態になります。
代表的な病気にはバセドウ病があります。これは自己免疫の異常で起こり、若い女性に多く見られるのが特徴です。
2.甲状腺機能亢進症の初期症状
甲状腺ホルモンが過剰になると、体が「常にアクセルを踏み続けている」ような状態になります。その結果、以下のような初期症状が現れます。
- 動悸(心臓がドキドキする)
- 手の震え(細かい振戦)
- 暑がり・多汗
- 食欲があるのに体重が減る
- イライラしやすい
- だるさ・疲れやすい
- 生理不順
- 下痢気味
- 眼球が突出する(バセドウ病の特徴)
症状は多彩で、ストレスや更年期障害、心臓病と間違えられることもあります。
3.甲状腺機能亢進症の原因
甲状腺機能亢進症の主な原因には以下のような疾患があります。
バセドウ病(Graves病)
最も多い原因です。自己免疫の異常により、甲状腺を刺激する抗体(TSHレセプター抗体)が作られ、甲状腺ホルモンが過剰に産生されます。20〜40代の女性に多くみられます。
無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)
出産後や自己免疫の異常で一時的に甲状腺からホルモンが漏れ出るタイプ。自然に治ることが多いです。
プランマー病(結節性甲状腺腫)
甲状腺内の一部が腫れて、ホルモンを勝手に作ってしまう良性腫瘍です。高齢者に多くみられます。
4.どのような時に甲状腺機能亢進症を疑うか?
以下のような症状が複数ある場合は、甲状腺機能亢進症を疑って内科や内分泌科に相談しましょう。
- 心臓のドキドキが止まらない
- 体重が急に減った
- 汗が多く、暑がりになった
- 眠りが浅く、イライラする
- 手が震える
- まぶたの腫れや目が出てきた感じがする
特に女性では「更年期かな?」と見逃されやすいため注意が必要です。
5.甲状腺機能亢進症の検査・診断
甲状腺機能亢進症の診断は、血液検査を中心に行われます。
主な検査項目:
- TSH(甲状腺刺激ホルモン):低値
- FT3、FT4(甲状腺ホルモン):高値
- TRAb(TSHレセプター抗体):バセドウ病で陽性
- 甲状腺エコー検査:腫れや血流、腫瘍の有無などを確認
- シンチグラフィ:ヨウ素の取り込みを調べる核医学検査(プランマー病や無痛性甲状腺炎との鑑別に有効)
6.甲状腺機能亢進症の治療法
治療法は病気の種類や年齢、症状の重さによって異なります。
1. 薬物療法
抗甲状腺薬(メルカゾールやプロピルチオウラシルなど)でホルモンの産生を抑えます。副作用(肝障害・白血球減少)には注意が必要です。
2. 放射性ヨウ素治療
放射性ヨウ素を服用して甲状腺を縮小させる治療。バセドウ病や高齢者に適応されることが多いです。
3. 手術(甲状腺摘出)
薬や放射性ヨウ素で治療が困難な場合や、腫瘍がある場合に選択されます。術後は甲状腺機能低下症になることがあり、ホルモン補充が必要になる場合があります。
7.甲状腺機能亢進症の合併症
治療せずに放置すると、以下のような深刻な合併症を引き起こす可能性があります。
- 心房細動(不整脈)
- 心不全
- 骨粗鬆症
- 糖尿病の悪化
- 精神的な不調(うつ、パニック障害)
- 甲状腺クリーゼ(重篤な代謝異常。命に関わることも)
早期に治療することで、これらの合併症を予防することが可能です。
8.なぜ甲状腺機能亢進症を治療する必要があるのか?
甲状腺機能亢進症を放置すると、体に大きな負担をかけ続けることになります。
- 心臓への負担が続けば命に関わる不整脈や心不全を招きます。
- 骨がもろくなり、骨折のリスクが高くなります。
- 日常生活に支障をきたす強い疲労感・不眠・イライラなども見逃せません。
しかし、正しく治療すれば症状は大きく改善し、日常生活も支障なく過ごせるようになります。定期的な通院とホルモン値のチェックが重要です。
9.参考文献
- 日本内分泌学会:「甲状腺疾患診療ガイドライン」
- 甲状腺学会公式サイト:https://www.japanthyroid.jp/
- 国立成育医療研究センター「バセドウ病について」
- 厚生労働省e-ヘルスネット「甲状腺ホルモンの異常とその症状」