緩和ケアとは?その意味と始めるタイミング、相談先まで徹底解説【完全ガイド】

おとなの病気

1.緩和ケアとは?

緩和ケア(Palliative Care)とは、重い病気に直面している患者さんやその家族に対し、身体的、心理的、社会的、そしてスピリチュアルな苦痛を和らげ、生活の質(QOL:Quality of Life)を向上させることを目的とした医療のことです。

世界保健機関(WHO)は緩和ケアを「生命を脅かす疾患に関連する痛みやその他の苦痛を予防し、早期に発見し、的確に評価し、治療することで、QOLを改善するアプローチ」と定義しています(WHO, 2002)。

多くの人が「緩和ケア=末期がんの終末期医療」と考えがちですが、それは誤解です。緩和ケアは、診断された時点から始めることが可能であり、必ずしも「死に近づいた人」だけのものではありません。


2.緩和ケアはいつから始める?

従来は、治療が難しくなった時点で緩和ケアに移行するという考え方が一般的でしたが、近年では、治療と並行して早期から緩和ケアを導入することの重要性が指摘されています。

特にがん患者では、化学療法や放射線治療と同時並行で緩和ケアを取り入れることで、痛みや不安、不眠などの症状を和らげ、結果的に治療の継続性や全体的な満足度も高まることが報告されています(Temel JS et al., 2010, NEJM)。

早期緩和ケアのメリット

  • 痛みや不安の緩和
  • 治療中の副作用のコントロール
  • 精神的な支え
  • 家族へのサポート
  • 延命効果が期待されるケースも

このように、「終末期だけでなく、病気が見つかった時から支える」という緩和ケアの考え方は、今後ますます広がっていくと予想されます。


3.緩和ケアの対象は?がんだけ?

多くの方が「緩和ケア=がん患者のための医療」と思いがちですが、実際にはそれ以外の疾患にも広く適用されます。

緩和ケアの対象となる主な疾患

  • がん(固形がん、血液がんなど)
  • 心不全
  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  • 腎不全(透析患者を含む)
  • 肝硬変
  • 神経変性疾患(ALS、パーキンソン病など)
  • 認知症
  • 小児の難治性疾患

慢性疾患でも、長期にわたる療養生活で苦痛が重なれば、緩和ケアの対象となります。

厚生労働省も、がん以外の疾患における緩和ケアの普及を重要な政策課題と位置づけています(厚生労働省, 2023)。


4.緩和ケアの方法・種類

緩和ケアは、患者さんやご家族のニーズに応じて、さまざまな方法で提供されます。

主な緩和ケアの内容

種類 内容
身体的ケア 痛み、吐き気、呼吸困難、倦怠感などの身体症状の緩和
精神的ケア 不安、抑うつ、孤独感への支援
社会的ケア 介護負担、経済的困難、仕事・家庭の問題への支援
スピリチュアルケア 「生きる意味」「死への恐怖」などへの対応
倫理的支援 意思決定支援(ACP: アドバンス・ケア・プランニング)など

提供方法の種類

  • 外来での緩和ケア(緩和ケア外来)
  • 在宅緩和ケア(訪問診療・訪問看護)
  • 緩和ケア病棟での入院
  • 一般病棟・急性期病棟での緩和ケアチームによる介入

5.緩和ケア病棟とは?

緩和ケア病棟(ホスピス)とは、苦痛緩和に特化した病棟で、患者さんと家族ができる限り穏やかな時間を過ごせるよう支援する場です。

特徴

  • 自宅にいるような環境づくり(個室・家族の宿泊可など)
  • 多職種によるチームケア(医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、心理士など)
  • 家族ケア(グリーフケアなど)
  • 延命治療よりもQOL重視

一般的に、がんの終末期などが対象となりますが、最近では心不全やALSなどの非がん疾患にも対応している施設が増えています。


6.どんな時どこに相談したらいい?

緩和ケアを「もっと早く知っていればよかった」という声は少なくありません。困ったとき、迷ったときに相談できる場所を知っておくことが大切です。

相談できる場所

  • 主治医(がん診療連携拠点病院などに緩和ケアチームあり)
  • 緩和ケア外来
  • かかりつけ医(在宅療養に強い医師や家庭医)
  • 地域包括支援センター
  • 医療ソーシャルワーカー
  • 保健所
  • がん相談支援センター(全国各地に設置)

こんなときに相談を

  • 痛みや吐き気がうまくコントロールできない
  • 家族の介護負担が限界にきている
  • 医療・介護・生活全般の不安が強い
  • 治療と緩和の選択について迷っている

早期相談は、患者さん本人だけでなく、家族にとっても心強い味方となります。


7.まとめ:緩和ケアは「より良く生きる」ための支援

緩和ケアは、単に「死を迎える準備」ではなく、「限られた時間をどう生きるか」に焦点を当てた医療です。苦しみを和らげ、安心して過ごす時間を増やすためのサポートであり、人生のどの段階においても必要とされる可能性があります。

もし自分や家族が重い病に直面したとき、緩和ケアという選択肢を知っていることが、大きな助けとなるはずです。


参考文献

  1. World Health Organization. (2002). Definition of palliative care. https://www.who.int/cancer/palliative/definition/en/
  2. Temel JS, et al. (2010). Early palliative care for patients with metastatic non–small-cell lung cancer. N Engl J Med. 363(8):733–742.
  3. 厚生労働省. 緩和ケアの推進に関する基本的な方向性について. https://www.mhlw.go.jp
  4. 日本緩和医療学会. 緩和ケアとは? https://www.jspm.ne.jp/
  5. 緩和ケア情報センター. https://www.palliativecare.jp/
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