1.リンゴ病とは?
「リンゴ病」という名前を聞いたことがある方も多いかもしれません。正式な医学名称は「伝染性紅斑(でんせんせいこうはん)」といい、ウイルス感染によって頬が赤くなることから「リンゴ病」と呼ばれています。特に子どもに多い病気ですが、大人がかかると症状が強くなることもあり、注意が必要です。
春から初夏にかけて流行しやすいこの感染症は、保育園や幼稚園、小学校などの集団生活の場で広がることが多く、感染力が比較的強いのも特徴です。
2.リンゴ病の症状
小児の場合の典型的な症状
- 両頬がリンゴのように赤くなる(蝶形紅斑)
- 赤みは1週間ほどで消える
- その後、手足や体幹にレース状の発疹が現れる
- 発疹はかゆみを伴うことがあり、再発することもある
- 発熱・頭痛・だるさなどの前駆症状(風邪に似た症状)がみられることもある
大人がかかった場合の症状
- 関節痛(手首、ひじ、ひざなど)
- 関節の腫れやこわばり
- 発熱・全身倦怠感
- 頬の赤みは目立たないことがある
特に女性に多く、関節炎のような症状が数週間続くこともあります。
3.リンゴ病の原因ウイルス
リンゴ病の原因はヒトパルボウイルスB19というウイルスです。このウイルスは、飛沫感染(咳やくしゃみ)や接触感染によって広がります。
感染経路と感染力
- 潜伏期間は4〜14日(最大20日)
- 発疹が出る前の数日間に最も感染力が強い
- 発疹が出た後は、ほとんど感染力がなくなる
このため、「症状が出た時にはもう他人にうつさない」といわれることもあります。
4.リンゴ病の検査と診断
診断は通常、症状と経過から行うことが多く、特別な検査は必要ありません。
必要に応じて行う検査
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血液検査(B19ウイルスの抗体検査)
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IgM抗体陽性で「現在感染している」と判断
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ウイルスDNAのPCR検査
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特殊なケースでウイルスの遺伝子を調べる
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症状が非典型的で、診断が難しいときや、妊婦・免疫不全者などハイリスク群での正確な診断が求められる場合に行います。
5.リンゴ病の治療
基本的には「対症療法」
リンゴ病には特効薬やワクチンはありません。ウイルス感染なので自然に治癒するのを待ちます。
- 発熱や関節痛がある場合 → 解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)
- 発疹がかゆい場合 → 抗ヒスタミン薬や保湿剤
- 水分・栄養の補給を意識する
※アスピリンは小児には使用しないよう注意が必要です(ライ症候群のリスクがあるため)。
6.リンゴ病と膠原病
リンゴ病の症状が膠原病(こうげんびょうと似ていることがあり、誤診されやすい点に注意が必要です。
関節リウマチとの鑑別が重要
- 関節痛や発疹があると、関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)などを疑われることがあります。
- 血液検査で抗核抗体やリウマトイド因子などをチェックして鑑別
ウイルス性関節炎としてのリンゴ病
大人がリンゴ病にかかると、関節炎を起こすことがあり、一過性のウイルス性関節炎と診断されることもあります。これらは自然に軽快することが多いですが、膠原病との見分けがつきにくいことも。

7.こんな時はクリニックを受診しましょう
以下のような場合は、医療機関の受診をおすすめします:
- 高熱や全身のだるさが強い
- 関節の腫れや痛みが数日続く
- 妊婦の方が身近でリンゴ病に感染した人と接触した
- 発疹がなかなか引かない、他の皮膚病と区別がつかない
- 血液疾患や免疫不全などの基礎疾患がある
妊婦さんへの影響
ヒトパルボウイルスB19は、妊娠初期の胎児に感染すると胎児水腫や流産のリスクが報告されています。妊娠中の女性は、流行時には感染者との接触を避けるようにしましょう。
参考文献
- 日本小児科学会. 伝染性紅斑(リンゴ病). 小児感染症ガイドライン
- 厚生労働省 感染症情報センター「ヒトパルボウイルスB19感染症」
- Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Parvovirus B19 Infection
- 膠原病学会ガイドライン(関節リウマチとの鑑別に関する記述)
- 日本産婦人科感染症学会. 妊娠とウイルス感染症に関する注意事項