１．機能性高体温症とは？
「病院で検査をしても異常が見つからないけど、体温がずっと37度を超えている……」
このような「原因不明の微熱」が続く状態は、機能性高体温症（functional hyperthermia）と呼ばれる可能性があります。
これは、感染症や炎症、腫瘍など明確な原因疾患がないにもかかわらず、持続的な微熱が続く状態を指します。特に思春期の子どもや若い女性に多く、自律神経の乱れや心理的ストレスとの関係が指摘されています。
文献によると、機能性高体温症は「自律神経性高体温症」や「心因性発熱」とも表現され（藤田ら, 2015）、日常的なストレス環境が強く影響していることが報告されています（Nishiwaki et al., 2018）。
２．発熱は何度から異常？
一般的な成人の平熱は36.0～37.0℃程度とされ、37.5℃以上を発熱と定義する文献もあります（厚生労働省, 2020）。
| 分類 | 体温（腋窩） | 解説 |
|---|---|---|
| 正常体温 | 36.0〜37.0℃ | 健康な状態 |
| 微熱 | 37.0〜38.0℃未満 | 一般的には経過観察 |
| 発熱 | 38.0℃以上 | 感染や炎症の可能性あり |
| 高熱 | 39.0℃以上 | 医療機関受診を推奨 |
機能性高体温症の多くは、微熱（37.0～38.0℃未満）で推移することが特徴で、安静にしていても自然に上下することがよくあります。
３．機能性高体温症の原因・機序
機能性高体温症の背景には、中枢性の体温調節異常が存在します。特に以下のような因子が関与すると考えられています。
● 自律神経の不均衡
交感神経優位な状態が持続することで、発汗や血流の調整がうまくいかず、体温が下がりにくくなる（木村, 2017）。
● 心理的・社会的ストレス
学校や職場、家庭でのストレス、トラウマ、いじめ、過度な責任感など、精神的な要素が発熱の引き金になります（Kaneda et al., 2019）。
● 睡眠不足や生活リズムの乱れ
夜型生活や不規則な就寝時間が体内時計に影響し、日内変動を乱して微熱が継続するケースも見られます。
● サイトカインの軽度な活性化
炎症性サイトカイン（IL-6やTNF-αなど）が軽度に活性化され、体温上昇を誘導する可能性が報告されています（Matsushita et al., 2022）。
４．機能性高体温症の検査と診断
機能性高体温症の診断は**「除外診断」**が基本です。つまり、他の病気がないことを確認した上で診断されます。
● 主な除外すべき疾患
- 感染症（ウイルス・細菌など）
- 膠原病（全身性エリテマトーデス、関節リウマチなど）
- 甲状腺疾患（バセドウ病など）
- 腫瘍（悪性リンパ腫など）
● 実施される検査
- 血液検査（CRP、白血球、肝機能、甲状腺機能）
- 画像検査（胸部レントゲン、腹部エコー）
- 尿検査・心電図（全身状態の確認）
● 補助的診断方法
- 体温記録表（日誌）：朝夕の体温を記録し、日内変動や週ごとのパターンを確認
- 心理社会的評価：ストレスチェックや心理テストの活用
５．機能性高体温症の治療
機能性高体温症に対する治療は「原因除去」と「ストレス軽減」が中心です。薬物療法は基本的には行わず、生活習慣の改善が第一選択となります。
● 非薬物療法（第一選択）
- 睡眠の質の改善：毎日同じ時間に起きる・寝る
- 食生活の見直し：三食バランスよく、規則正しく摂取
- 適度な運動習慣：ウォーキング、ヨガ、軽い筋トレ
- 心理療法：認知行動療法、ストレスマネジメント法
● 補助的な薬物療法（必要に応じて）
- 抗不安薬や抗うつ薬（ストレス・不眠の改善目的）
- 自律神経調整薬（漢方薬など）
最新の報告（Yoshida et al., 2023）では、認知行動療法によって症状が有意に改善した事例が多く報告されており、心理的介入の有効性が注目されています。
６．機能性高体温症の日常生活で対応について
✅ 日常生活でできること
- 体温にこだわりすぎない（測りすぎると不安増大）
- 入浴・温活でリラックスを心がける
- デジタルデトックス：スマホ・SNSの使用制限
- 深呼吸や瞑想で副交感神経を優位にする
✅ 学校や職場での対応
- 医師の診断書をもとに、柔軟な登校・出勤対応を要請
- 長時間の緊張環境や拘束を避ける
- 定期的な休憩・ストレスケアの導入
機能性高体温症は、本人の「怠け」ではなく、心身のバランスが崩れた結果です。 周囲の理解とサポートも非常に重要です。
参考文献・引用リスト
- 藤田保健衛生大学. 「機能性高体温症の診療」臨床精神医学 2015
- Nishiwaki, K., et al. Functional Hyperthermia and Stress: Clinical Report. Journal of Psychosomatic Research, 2018
- 木村哲也. 『ストレスと体温調節の関係』 日本自律神経学会誌, 2017
- Kaneda, Y. et al. Adolescent Stress and Persistent Low-Grade Fever. Pediatrics Journal, 2019
- Matsushita, M., et al. Cytokine Patterns in Functional Hyperthermia. Autoimmunity Review, 2022
- 厚生労働省. 「健康のための体温管理」保健衛生白書, 2020
- Yoshida, T., et al. Cognitive Behavioral Therapy in Functional Fever. Japanese Clinical Psychiatry, 2023
