【医師監修】フルミストとは?注射不要のインフルエンザ予防法|効果・副反応・打てない人まで徹底解説

こどもの病気

1.フルミストとは?

フルミスト(FluMist)は、インフルエンザの予防を目的とした経鼻インフルエンザ生ワクチン(Live Attenuated Influenza Vaccine:LAIV)です。従来のように注射するのではなく、鼻にスプレーで噴霧するだけで免疫をつけることができます。

欧米では2000年代初頭から使われており、日本でも2020年より一部の医療機関で導入されています。主に2歳から49歳までの健康な人を対象に、季節性インフルエンザの予防手段として活用されています。

フルミストの主な特徴

  • ワクチンの種類:4価の生ワクチン(A型2種+B型2種)
  • 接種方法:鼻にスプレーする経鼻投与
  • 接種対象:2歳以上49歳以下の健康な人
  • 接種回数:通常は1回、9歳未満で初回の場合は2回が推奨されることも

2.フルミストの効果はいつまで?

フルミストの免疫効果は、接種後約2週間で発現し、おおよそ6〜12か月程度持続します。

粘膜免疫の誘導が特徴

経鼻ワクチンの大きなメリットは、鼻や喉の粘膜表面での局所免疫(IgA)を誘導する点です。インフルエンザウイルスの侵入経路である鼻粘膜で直接防御力を高めるため、感染予防に高い効果が期待できます。

有効性のエビデンス

特に小児においては、フルミストが従来の不活化ワクチンより高い予防効果を示す可能性があります。

Belsheら(2007年)によると、2〜5歳の小児に対するフルミストは、注射型のワクチンよりも有効率が約55%高かったと報告されています。

ただし、高齢者や免疫が低下している人では効果が劣る場合もあり、適切な接種対象の見極めが必要です。

3.フルミストと通常のインフルエンザワクチンの違い

項目 フルミスト(経鼻ワクチン) 通常の不活化ワクチン(注射)
種類 生ワクチン 不活化ワクチン
接種方法 鼻スプレー 筋肉注射
対象年齢 2~49歳(健康な人) 6か月以上の全年齢
免疫の種類 粘膜免疫+全身免疫 全身免疫のみ
痛み なし 注射による痛みあり
有効性(小児) 高い傾向 標準的

小児や若年層での利便性が高く、「注射が苦手」「痛みに弱い」といった理由で接種率が上がりにくい人への有効な選択肢になります。

4.フルミストの副反応は?

フルミストは生ワクチンのため、接種後に軽微な副反応が出ることがあります。いずれも一過性で数日以内に改善することが多いです。

主な副反応(頻度が高い)

  • 鼻水、鼻づまり(約40%)
  • 発熱(約10〜20%)
  • 倦怠感、頭痛、喉の痛み

重篤な副反応(まれ)

  • 喘鳴(特に喘息の既往がある場合)
  • アナフィラキシー様症状(極めて稀)

接種後の注意点

  • 接種後は軽度にウイルスが鼻腔から排出されるため、免疫抑制状態の人と同居している場合は慎重に検討する必要があります。
  • 他の生ワクチンと接種間隔が近い場合(4週間以内)は、医師に相談を。

5.フルミストのメリット

1. 注射不要で痛みなし

最大の利点は「注射が不要」であること。子どもや注射恐怖のある人にとって、心理的負担が少なく接種率向上に寄与します。

2. 粘膜免疫の誘導

鼻からの自然感染に近い形で免疫を誘導することで、鼻腔粘膜からの感染を初期でブロックできます。

3. 小児での高い有効性

特に2〜8歳の健康な子どもにおいては、注射型よりも高い効果が報告されています。

4. 間接的な集団免疫効果の期待

接種後に排出されたウイルスにより、周囲の人に対する**「接触免疫効果」**(コンタクト・イミュニゼーション)も報告されています。

5.フルミストと他のワクチンの同時接種が可能

  • フルミストは「生ワクチン」であるため、他のワクチンとの接種間隔に注意する必要があります。
  • 「不活化ワクチン(新型コロナワクチンなど)」とは同時接種が可能です。
  • 他の「生ワクチン」(例:麻疹・風疹、水痘、BCGなど)とは原則4週間以上間隔を空ける必要があります。

フルミストとワクチンの同時接種:早見表

ワクチンの種類 同時接種の可否 補足説明
不活化ワクチン(四種混合、日本脳炎、肺炎球菌など) ✅ 可能 接種部位が異なれば問題なし
mRNAワクチン(新型コロナ) ✅ 可能 副反応には注意を
生ワクチン(麻しん風しん、水痘、BCGなど) ⛔ 原則不可(4週間以上間隔) 同時接種なら可能(別部位)だが慎重に判断
経口生ワクチン(ロタウイルス) ⛔ 推奨されない 接種間隔に注意(生ワクチン同士)
インフルエンザ注射型ワクチン ⛔ 同年内に両方は不要 どちらか一方を選択

6.フルミストを接種できない人・注意が必要な人

フルミストはすべての人に使用できるわけではありません。生ワクチンであるがゆえの制限がいくつかあります。

❌ フルミスト接種が禁忌または非推奨なケース

禁忌・非推奨対象 理由
2歳未満および50歳以上 安全性・効果が未確認
妊婦 胎児への影響が不明、生ワクチンのため
免疫抑制状態の人 感染リスクあり(例:抗がん剤使用中、HIVなど)
喘息など慢性呼吸器疾患のある人 呼吸器症状の悪化が懸念される
アスピリン内服中の小児 ライ症候群のリスク
卵アレルギー(重度) 鶏卵成分を含む可能性がある
インフルエンザワクチンで重篤なアレルギー歴がある人 アナフィラキシーの危険性

一時的に接種を見合わせるべき場合

  • 発熱や急性疾患があるとき
  • 他の生ワクチンを4週間以内に接種している場合
  • 同居家族に重度の免疫抑制患者がいる場合

医師の判断が必要なケース

  • 持病のある人
  • 妊娠の可能性がある女性
  • 過去にワクチンで副反応を起こした人

医師と相談したうえで適切なワクチンを選択することが大切です。

7.まとめ:フルミストは小児・若年者におすすめの選択肢

フルミストは、注射が苦手な人や小児に対して優れた利便性と予防効果を持つ経鼻インフルエンザワクチンです。特に健康な2〜8歳の子どもに対しては、従来型ワクチン以上の効果が期待できるケースもあります。一方で、生ワクチンならではの適応制限や禁忌事項があるため、すべての人が打てるわけではないという点にも注意が必要です。インフルエンザ予防は自分だけでなく、家族や地域を守る行動です。ワクチンの選択は、医療機関での相談をもとに、体質・年齢・生活環境に合わせて最適な方法を選びましょう。


参考文献

  1. Belshe RB, Edwards KM, Vesikari T, et al. Live attenuated versus inactivated influenza vaccine in infants and young children. N Engl J Med. 2007;356(7):685–696.
  2. Centers for Disease Control and Prevention (CDC). “Nasal Spray Flu Vaccine (LAIV4)”. https://www.cdc.gov/flu/prevent/nasalspray.htm
  3. 日本感染症学会「インフルエンザワクチンに関する提言」2023年版
  4. 山口貴也 他. 経鼻生ワクチン「フルミスト」の有効性と課題. 小児感染免疫, 2021年
  5. 国立感染症研究所. インフルエンザワクチンQ&A
  6. 厚生労働省「予防接種に関するガイドライン(最新版)」
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