1.アロディニアとは?
「アロディニア(Allodynia)」という言葉を聞いたことはありますか?
これは通常では痛みを感じないような刺激――たとえば軽く触れられる、髪の毛が皮膚に当たる、風が当たるなどの行為で強い痛みを感じてしまう症状を指します。
アロディニアは、日本語では「異痛症」と訳され、痛覚の過敏状態とも言えます。
主に慢性疼痛や神経障害の一つとして現れ、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。
一見わかりにくい症状ですが、放っておくと心身に大きなストレスを与えかねません。この記事では、アロディニアの特徴、原因、治療法、そして日常生活での工夫について解説します。
2.アロディニアの症状
アロディニアの代表的な症状は、「痛みを感じるはずのない刺激に痛みを感じる」ことです。
具体的な例を挙げると、以下のようなものがあります:
刺激の種類 | 感じる痛みの例 |
---|---|
衣服が擦れる | 針で刺されるような痛み、灼熱感 |
髪の毛が肌に触れる | チクチクするような痛み |
風が当たる | 焼けるような痛み |
触れられる | 電気が走るような鋭い痛み |
アロディニアの痛みは、しばしば持続的かつ広範囲に現れることがあり、睡眠障害やうつ症状を引き起こすこともあります。
アロディニアの分類
アロディニアにはいくつかのタイプがあります:
- 接触性アロディニア:軽く触れられるだけで痛みを感じる。
- 圧迫性アロディニア:圧力が加わると痛む(例:ベルト、靴下のゴム)。
- 熱性アロディニア:温かいものに触れると痛む。
- 冷刺激アロディニア:冷たいものに触れると痛む。
3.アロディニアの原因
アロディニアの原因は明確に一つではなく、複雑な神経の異常な働きが関係しています。
主に以下の要因が関与します:
1. 中枢性感作(central sensitization)
- 脳や脊髄といった中枢神経が痛みの信号を過剰に感知してしまう状態です。
- 繰り返しの痛み刺激によって神経が敏感になり、通常の刺激まで「痛み」として誤認するようになります。
2. 末梢神経障害
- 糖尿病性神経障害や帯状疱疹後神経痛など、末梢神経の損傷によっても生じます。
- 神経の損傷後に神経の再生過程で異常な信号伝達が起こることがあります。
3. 疾患に伴うもの
- 線維筋痛症
- 偏頭痛
- 脊髄損傷
- 帯状疱疹後神経痛
- 複合性局所疼痛症候群(CRPS)
これらの疾患では、神経系の過敏化が背景にあることが多いと考えられています。
6.アロディニアの検査と診断
アロディニアは血液検査や画像検査で直接「発見」できるものではありません。
そのため、医師による問診と身体診察が非常に重要になります。
主な診断の流れ
-
症状の詳細な聴取
いつから・どのような刺激で・どこが・どのように痛むかを聞き取ります。 -
神経学的検査
軽く触れる、温冷刺激、針の刺激などで過敏反応の有無を調べます。 -
原因疾患の特定
糖尿病や帯状疱疹、線維筋痛症などが背景にないか、必要に応じて採血やMRIなどの検査が行われることもあります。
注意点
- 本人の訴えを信じることが診断の第一歩です。
- 痛みは客観的に測れないため、正確な自己申告が重要です。
7.アロディニアの治療
アロディニアの治療は、原因疾患への対処と症状緩和の両面から行います。
薬物療法
薬の種類 | 代表例 | 作用 |
---|---|---|
抗てんかん薬 | プレガバリン(リリカ) | 神経の過敏を抑える |
抗うつ薬 | デュロキセチン、アミトリプチリン | 痛みの信号伝達を抑制 |
鎮痛薬 | アセトアミノフェン、NSAIDs | 一時的な痛みの緩和 |
局所薬 | カプサイシンクリーム | 痛覚受容器を一時的に麻痺 |
神経ブロック
- 局所麻酔薬などを用いて痛みの信号を一時的に遮断します。
- 効果の持続は限定的ですが、痛みの悪循環を断つのに有効です。
心理的アプローチ
-
認知行動療法(CBT)やマインドフルネスなどが、慢性痛に対する耐性向上に役立ちます。
8.アロディニアの対応(日常生活の工夫)
アロディニアを完全に「治す」ことは難しくても、日々の生活で痛みを軽減する工夫はできます。
衣類の工夫
- 肌にやさしいシームレスな衣類を選ぶ
- 締め付けないインナー、タグのない服を選ぶ
環境の工夫
- エアコンの風が直接当たらないようにする
- 床にクッション材やラグを敷くことで足裏への刺激を緩和
ストレスケア
- 十分な睡眠をとる
- 適度な運動やヨガで心身をリラックス
- 必要に応じてカウンセリングや精神的サポートを活用する
9.参考文献
- Baron R. Mechanisms of disease: neuropathic pain—a clinical perspective. Nature Clinical Practice Neurology. 2006;2(2):95–106.
- Häuser W, et al. Treatment of fibromyalgia syndrome with antidepressants: a meta-analysis. JAMA. 2009;301(2):198-209.
- Haroutounian S, et al. The prevalence and impact of allodynia in neuropathic pain. J Pain. 2014;15(7):632–640.
- 日本ペインクリニック学会.慢性疼痛治療ガイドライン(2022)
- 日本神経学会.神経障害性疼痛の診療ガイドライン(2011)