1.無症候性細菌尿とは?
「無症候性細菌尿(Asymptomatic Bacteriuria)」とは、その名の通り排尿時の痛みや頻尿などの症状がないにもかかわらず、尿の中に細菌が検出される状態を指します。通常、尿は腎臓で作られ、尿管、膀胱、尿道を経て排出されますが、この経路に細菌が侵入することで尿中に細菌が存在するようになります。
ただし、症状がなければ体への影響はほとんどないとされ、基本的に健康な人に見られる無症候性細菌尿は、治療の必要がないことが多いとされています。
定義
以下のような条件が満たされたとき、無症候性細菌尿と診断されます。
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症状がまったくない(排尿痛、頻尿、残尿感などの膀胱炎の症状がない)
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尿培養検査で一定以上の菌数が検出される
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女性:中間尿2回で同一の細菌が10⁵ CFU/mL以上
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男性:1回の尿で10⁵ CFU/mL以上
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2.無症候性細菌尿の症状
無症候性細菌尿はその名の通り「無症状」です。通常の尿路感染症で見られるような以下の症状は一切みられません。
- 排尿時の痛み(排尿痛)
- 頻繁にトイレに行きたくなる(頻尿)
- 排尿後の不快感や残尿感
- 腰痛、発熱(腎盂腎炎などに見られる)
- 血尿や悪臭のある尿
そのため、健康診断や術前検査、妊婦健診などで偶然に見つかることが多いのが特徴です。
3.無症候性細菌尿は治療すべき?
ここが多くの方が誤解しやすいポイントです。
基本的には「治療不要」
無症候性細菌尿があっても、ほとんどの人は治療の必要がありません。なぜなら、抗菌薬を使用しても再発が多く、薬剤耐性菌を生むリスクもあるからです。
治療不要な理由:
- 自然に消失するケースも多い
- 治療しても症状が出ないまま再発する
- 抗菌薬をむやみに使うと耐性菌のリスクが増える
- 重症化や腎炎への進展リスクが極めて低い
誤って治療をすると…
- 薬の副作用が発生する
- 医療費が無駄になる
- 耐性菌による本当の感染症治療が困難になる
そのため、日本や米国のガイドライン(例:IDSA=Infectious Diseases Society of America)は、無症候性細菌尿は原則的に治療すべきではないと明記しています。

4.無症候性細菌尿で治療が必要な人
ただし、すべての人が治療不要というわけではありません。一部の「リスクが高い人」や「症状が出やすい状況」では、予防的に抗菌薬による治療が推奨されることがあります。
治療が必要なケース
対象者・状況 | 理由・備考 |
---|---|
妊婦 | 腎盂腎炎へ進展するリスクが高く、早産や胎児への影響があるため |
泌尿器系手術(特に粘膜に触れる手術)を受ける人 | 術後に感染症を引き起こす可能性があるため、術前に細菌を除去することが重要 |
尿路カテーテル留置中の人(症状がある場合) | 症状があれば治療対象。無症状ならカテーテル交換のみで治療しないことが多い |
臓器移植患者やがん化学療法など免疫抑制状態の人(例外的に) | 感染症が命にかかわることがあるため、主治医の判断で治療することも |
治療方法
- 基本は感受性検査(尿培養)で菌種を確認し、適切な抗菌薬を選択します。
- 妊婦の場合、妊娠中でも安全に使用できる抗菌薬(例:セフェム系、ペニシリン系など)を使います。
5.よくある質問(FAQ)
Q1. 無症候性細菌尿があると将来の病気につながりますか?
A. 基本的には健康な人であれば何の問題も起きません。ただし妊婦などは例外です。
Q2. 健康診断で「細菌尿」と言われたが大丈夫?
A. 症状がなければ大丈夫なことが多いです。ただし、何度も陽性が続く場合や基礎疾患がある人は医師に相談しましょう。
Q3. 子どもや高齢者での扱いは?
A. 無症候性細菌尿は高齢者や要介護者、認知症の人に多くみられますが、症状がなければ治療不要です。子どもも基本的に同様ですが、再発性尿路感染のリスクが高い場合は精密検査が必要です。
6.まとめ
無症候性細菌尿は、症状がないにもかかわらず尿中に細菌が検出される状態ですが、多くの場合は治療の必要がないとされています。ただし、妊婦や手術を控える方など、一部の人には治療が必要です。
安易に抗菌薬を使うと、耐性菌の問題を引き起こすおそれがあるため、医師の判断に基づいて適切な対応をすることが重要です。
参考文献
- 米国感染症学会(IDSA)ガイドライン:Asymptomatic Bacteriuria in Adults
- 日本化学療法学会『尿路感染症診療ガイドライン』
- 日本泌尿器科学会『尿路感染症診療の手引き』
- Nicolle LE. Asymptomatic bacteriuria. Curr Opin Infect Dis. 2014.
- 日本産科婦人科学会『妊娠と感染症』