1.アトピー性皮膚炎とは?
アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う慢性的な皮膚炎で、乳児期から成人まで幅広い年齢層で見られる疾患です。特に皮膚が乾燥しやすく、バリア機能が低下しているため、外部からの刺激やアレルゲンに過敏に反応しやすいという特徴があります。
アトピー体質とは、家族歴や本人の既往歴として喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎などを持っている傾向を指し、これらの背景があるとアトピー性皮膚炎を発症しやすいことが知られています。
2.アトピー性皮膚炎の症状
主な症状は以下の通りです:
- 強いかゆみ
- 赤み(紅斑)
- 皮膚の乾燥やざらつき
- 湿疹やじゅくじゅくした病変(滲出性病変)
- 皮膚の肥厚(慢性化に伴う苔癬化)
部位としては、肘や膝の内側、首、顔、手などに出現しやすく、症状は良くなったり悪くなったりを繰り返す「寛解と再燃」を特徴とします。
スポーツをする人にとっては、汗や摩擦、紫外線といった要因が悪化因子となり、皮膚の状態を悪化させることもあります。
3.アトピー性皮膚炎の診断と治療
診断
アトピー性皮膚炎の診断は、以下の基準に基づいて行われます:
- 慢性的または反復する皮膚症状(2か月以上続く)
- 特徴的な皮疹と分布(首・肘・膝など)
- アトピー素因(家族歴や本人のアレルギー歴)
必要に応じて血液検査(IgE値や好酸球数)やアレルゲン検査を行うこともありますが、基本的には問診と視診が中心です。
治療
治療の基本は「皮膚のバリア機能を回復させ、炎症を抑える」ことです。主な治療は以下の通りです:
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スキンケア:保湿剤による皮膚の保湿が基本です。
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外用薬:
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ステロイド外用薬(炎症を抑える)
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タクロリムス軟膏(免疫抑制剤)
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内服薬:
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抗ヒスタミン薬(かゆみ対策)
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重症例にはシクロスポリンやJAK阻害薬なども用いられます。
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アスリートの場合、使用する薬剤がドーピングに抵触することもあるため、注意が必要です。
4.アトピー性皮膚炎をもつアスリートの対応
アトピー性皮膚炎を抱えるアスリートにとって、皮膚の状態を安定させることは競技パフォーマンスを維持するうえで非常に重要です。
スポーツ時の注意点:
- 汗対策:汗は皮膚を刺激するため、速やかに拭き取り、シャワーを浴びることが推奨されます。
- 衣類の選択:通気性がよく、吸湿性の高い素材(綿など)を選び、化学繊維やタグなど皮膚に刺激となる要素を避ける。
- 日焼け止めの選び方:無香料・ノンアルコールの低刺激タイプを使用する。
- ストレス管理:競技による精神的ストレスも悪化因子になり得ます。
5.アスリートが使用できる(できない)アトピー性皮膚炎治療薬
スポーツ選手はドーピング規定に注意を払う必要があります。以下はアトピー性皮膚炎治療に使われる主な薬剤とその使用可否の目安です(2024年WADA規定に基づく)。
薬剤 | 分類 | 使用可否(原則) |
---|---|---|
ステロイド外用薬 | 外用 | 使用可能(申請不要) |
ステロイド内服薬 | 全身 | 禁止(TUE申請必要) |
タクロリムス軟膏 | 外用 | 使用可能 |
シクロスポリン(内服) | 免疫抑制剤 | 使用可能だが、競技団体に確認を推奨 |
JAK阻害薬(デュピルマブ等) | 生物学的製剤 | 通常使用可能(TUE推奨) |
抗ヒスタミン薬 | 内服 | 使用可能(眠気注意) |
※TUE(治療使用特例)申請とは、治療のために禁止薬物の使用が必要な場合に、競技者が事前に申請する制度です。

6.アトピー性皮膚炎をもつアスリートが注意すること(生活面など)
日常生活で気をつけたいポイント:
- 毎日のスキンケア:入浴後の保湿を徹底することが悪化予防に直結します。
- 入浴方法:石けんの使いすぎは避け、ぬるめの湯(38℃前後)で短時間入浴。
- 食生活の見直し:バランスのとれた食事で皮膚の健康をサポート(ビタミンA・C・Eなど)。
- 睡眠の質:かゆみは夜間に悪化しやすいため、寝具の清潔保持と快眠環境の工夫を。
- 精神的ストレスの軽減:ストレスマネジメントは重要です。必要ならメンタルサポートを活用しましょう。
競技活動との両立
定期的に皮膚科医と相談しながら、治療計画を立てることが肝要です。また、トレーナーやチームドクターと情報を共有し、薬剤使用に関しても管理体制を整えておくと安心です。
参考文献
- 日本皮膚科学会 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021
- WADA(世界アンチ・ドーピング機構)禁止表 国際基準2024年版
- 日本アンチ・ドーピング機構(JADA)「TUE(治療使用特例)申請の手引き」
- 厚生労働省「アレルギー疾患対策基本指針」
- Uehara, M. et al. (2020). “Impact of atopic dermatitis on athletes.” Allergology International, 69(3), 301-310.