1.脊椎圧迫骨折とは?
脊椎圧迫骨折(せきついあっぱくこっせつ)とは、背骨(脊椎)を構成する椎体という骨が、つぶれるように変形してしまう骨折のことです。特に高齢者や**骨粗鬆症(こつそしょうしょう)**のある方に多くみられます。
多くの場合、激しい外傷を伴わなくても、軽い転倒や、くしゃみ、重いものを持ち上げた時など、日常のちょっとした動作でも発症するのが特徴です。そのため「いつの間にか骨折(いつまにかこっせつ)」とも呼ばれ、本人が気づかないうちに骨折していることもあります。
脊椎圧迫骨折は、放置すると慢性的な痛みや姿勢の変化、内臓機能の低下、さらなる骨折リスクを高める要因となるため、早期発見・早期治療が重要です。
2.脊椎圧迫骨折の症状
脊椎圧迫骨折の主な症状は以下の通りです。
主な症状
- 背中や腰の急激な痛み
→ 特に腰椎(腰の背骨)や胸椎(胸の背骨)に多い - 寝返り・立ち上がり時に強い痛み
- 長時間の座位や立位が困難
- 背中の曲がり(円背)
- 身長の低下(数センチ〜数cm以上)
- 神経症状(しびれ、歩行障害):骨折が神経を圧迫した場合
注意すべき点
一部の患者では、ほとんど痛みがないまま進行することもあり、「気がついたら背中が曲がっていた」「背が縮んでいた」などの所見で初めて診断されることもあります。
3.脊椎圧迫骨折はどんな人になりやすい?(いつの間にか骨折)
脊椎圧迫骨折の最大のリスク要因は骨粗鬆症です。特に以下のような人は注意が必要です。
なりやすい人の特徴
条件 | 内容 |
---|---|
高齢者 | 特に女性は閉経後のホルモン変化により骨密度が低下しやすい |
骨粗鬆症の既往 | 骨密度の低下により、骨がもろくなる |
運動不足 | 骨や筋肉への刺激が不足し骨密度が低下 |
栄養不足 | カルシウム・ビタミンD不足など |
ステロイド使用中 | 骨代謝に悪影響を与える |
喫煙・過度の飲酒 | 骨密度を下げる生活習慣 |
いつの間にか骨折とは?
外傷歴がなくても、骨がもろくなっていると、骨折が知らぬ間に起こっている場合があります。これは特に脊椎に多く、骨粗鬆症患者では10人に1人以上が経験するとされます。

【保存版】骨粗鬆症とは?原因・症状・検査・治療まで完全ガイド|早期発見で骨折を防ぐ
1. 骨粗鬆症とは?高齢社会における「静かな骨の病気」骨粗鬆症(こつそしょうしょう)は、骨の密度と質が低下し、骨がもろく...
4.脊椎圧迫骨折の診断
問診・身体診察
- いつから痛みが出たか
- 痛みの部位・性状
- 日常生活動作の変化
画像検査
- X線(レントゲン)検査
→ 骨折の有無、つぶれた椎体の形状を確認します。 - MRI検査
→ 骨折が**新しい(急性)ものか、古い(陳旧性)**かの鑑別に有用。神経の圧迫も評価可能。 - CT検査
→ 詳細な骨の形状や骨片の飛び出しを確認する際に使用。
骨密度検査(DXA法)
骨粗鬆症の評価のため、腰椎または大腿骨近位部の骨密度を測定します。Tスコアが-2.5以下であれば骨粗鬆症と診断されます。
5.脊椎圧迫骨折の治療
脊椎圧迫骨折の治療は、保存療法(手術以外)と手術療法に大別されます。
保存療法(軽症・安定型)
- 安静:ベッド上での安静を数日〜1週間ほど
- 鎮痛薬の使用:NSAIDsやアセトアミノフェン
- コルセット装着:体幹装具で背骨の安定を図る
- 骨粗鬆症治療の開始:ビスホスホネート、デノスマブ、テリパラチドなど
手術療法(強い痛み・骨折の不安定・神経症状あり)
椎体形成術(バルーンカイフオプラスティ)
- 骨折部にバルーンを挿入し空洞を作り、セメントを充填
- 痛みの緩和と変形の改善を期待
脊椎固定術
-
複数椎体の骨折や、後弯(円背)が強い場合に施行
※高齢者では全身状態を考慮し、できる限り低侵襲な治療法が選択されます。
6.脊椎圧迫骨折にならないために
脊椎圧迫骨折を予防するためには、骨を強く保つことと、転倒を防ぐことが大切です。
骨を強く保つ習慣
方法 | 内容 |
---|---|
栄養管理 | カルシウム(牛乳、豆腐)、ビタミンD(魚、きのこ類)を摂取 |
運動習慣 | 軽い筋力トレーニングや散歩で骨に刺激を与える |
禁煙・節酒 | 骨密度低下を防ぐために |
日光浴 | ビタミンDの生成を促進(1日15〜30分程度) |
転倒予防
- 室内の段差・カーペットなどを除去
- 夜間の照明確保
- つまずきにくい靴の着用
- バランス訓練・体幹トレーニングの実施
骨粗鬆症の早期発見と治療
- 50歳以上で骨折歴がある場合は骨密度検査の受診を推奨
- 骨粗鬆症治療薬(ビスホスホネート、デノスマブ等)は骨折予防に有効
7.参考文献
- 日本整形外科学会. 脊椎圧迫骨折治療ガイドライン
- 日本骨粗鬆症学会. 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版
- Kanis JA, et al. “The diagnosis of osteoporosis.” Osteoporosis Int (1994)
- Kado DM, et al. “Vertebral fractures and mortality in older women.” Arch Intern Med. 1999
- Wardlaw D, et al. “Balloon kyphoplasty in vertebral compression fractures.” Lancet. 2009
- Bouxsein ML, et al. “Incidence of vertebral fracture in postmenopausal women with osteopenia.” J Bone Miner Res. 2005