災害時に注意したい深部静脈血栓症(DVT)とは?命を守るための予防と対策

薬・その他

1.深部静脈血栓症(DVT)とは?

深部静脈血栓症(DVT: Deep Vein Thrombosis)とは、下肢を中心とした深部の静脈に血のかたまり(血栓)ができる病気です。特に脚の太ももやふくらはぎの静脈に多く見られ、血栓が肺に飛ぶと「肺塞栓症(PE: Pulmonary Embolism)」を引き起こし、命に関わることもあります。

主な症状は以下のとおりです:

  • 片側の脚の腫れやむくみ
  • ふくらはぎの痛み(押したときの痛みや張り感)
  • 表面の血管の浮き出し
  • 歩くときの違和感
  • 息切れや胸の痛み(肺塞栓を伴う場合)

DVTは飛行機やバス移動時の長時間同じ姿勢で起こる「エコノミークラス症候群」としても知られていますが、実は災害時にもリスクが高まる病気です。

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2.災害時と深部静脈血栓症(DVT)の関連

災害時には避難所生活や車中泊など、通常とは異なる生活環境を強いられることがあり、DVTのリスクが高まります。以下のような状況が血栓を作りやすくします。

● 長時間の同一姿勢

避難所や車中で座ったまま寝たり、動けなかったりすることで血流が滞りやすくなります。特に高齢者や持病を抱える方ではリスクが高くなります。

● 水分不足

災害時はトイレの制限や水の確保が難しいため、水分摂取を控えがちになります。これにより血液が濃縮し、血栓ができやすくなります。

● ストレスと睡眠不足

ストレスホルモンの影響により血液が固まりやすくなるほか、睡眠不足も全身の循環に悪影響を及ぼします。

● 環境の変化による活動量の減少

避難所では運動や歩行が制限されるため、足の筋肉がポンプの役割を果たさず、血流が滞留します。

3.どれくらいの人が亡くなったか?(東日本大震災、阪神大震災、能登半島地震)

実際の災害時に、DVTおよびそれに伴う肺塞栓症で命を落とす方が多く報告されています。

● 阪神・淡路大震災(1995年)

医師らによる現地調査では、震災後に肺塞栓症によって死亡した人が多数確認されました。特に避難所生活を送っていた高齢者や女性に多く見られました。

  • 脚の腫れや息切れを訴えた後、突然死に至るケースも報告。

● 東日本大震災(2011年)

内閣府の報告(2011)では、震災後に車中泊をしていた人々の間でDVTの発症が相次ぎました。特に岩手県や宮城県の被災地で報告例が多く、ある避難所では、避難者のうち約10%がDVTのリスクが高い状態と診断されました(Kurozumi et al., 2015)。

  • 一部病院の報告では、肺塞栓で搬送された症例が震災前の5倍以上に上ったとの報告もあります。

● 能登半島地震(2024年)

最新の能登半島地震でも、長期の避難生活や寒さ、交通インフラの寸断による避難の遅れが、DVTのリスクを高めたと指摘されています。いくつかの避難所で、エコノミークラス症候群による死亡例が報道されています。

このように、大規模災害のたびにDVTが重大な健康リスクとなっているのです。

4.深部静脈血栓症(DVT)にならないために

DVTは予防が可能な病気です。災害時には以下のような対策を心がけましょう。

● 水分をしっかりとる

  • 脱水を避けるため、1日1.5〜2L程度を目安に水やお茶を摂取しましょう。
  • トイレが不安でも、体調管理のためには重要です。

● 定期的に足を動かす

  • 1時間に1回は足首を曲げ伸ばししたり、軽く歩いたりする。
  • 寝たきりの高齢者にも、介護者がマッサージや体位変換を行うことが有効です。

● 圧迫ストッキングの活用

  • 医療用の弾性ストッキングは静脈の流れを助ける効果があります。
  • 災害用備蓄品としてもおすすめです。

● ゆったりとした衣服を着る

  • きついズボンやベルトは血流を妨げます。動きやすく、締め付けの少ない服装を心がけましょう。

● 十分な睡眠とストレスケア

  • 睡眠不足や心理的ストレスは血液の状態にも影響します。周囲と声をかけあい、支え合う環境を作ることも大切です。

5.こんなときはクリニックへ相談

災害時でも、以下のような症状がある場合はできる限り早めに医療機関に相談してください。

  • 片足の急なむくみや痛み
  • 脚の赤み、熱感
  • 胸の痛みや呼吸苦(肺塞栓症の可能性)
  • 動悸やめまい、失神

医療スタッフが避難所を巡回している場合もあるため、我慢せず相談することが命を守るカギになります。

6.まとめ

深部静脈血栓症(DVT)は、災害時に見逃されやすい“静かな危険”です。特に車中泊や避難生活を余儀なくされる場合には、自ら予防を意識することが非常に重要です。過去の大地震でも、DVTとそれに続く肺塞栓症が命を奪ったケースが少なくありません。

適切な水分摂取、足の運動、圧迫ストッキングの使用など、シンプルながら効果的な予防法を取り入れることで、大切な命を守ることができます。

避難時こそ、健康リスクに目を向け、自分と家族を守る行動を選びましょう。


参考文献

  1. 日本循環器学会編. 深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症(VTE)診療ガイドライン(2017年改訂版).
  2. Kurozumi M, et al. Prevalence and Risk Factors of Deep Vein Thrombosis among Evacuees after the Great East Japan Earthquake. Circ J. 2015.
  3. 内閣府 防災情報のページ. 「東日本大震災における避難所生活と健康管理」.
  4. Ministry of Health, Labour and Welfare. Guidelines for the prevention of deep vein thrombosis in disaster situations.
  5. 中村利孝. 災害時の静脈血栓塞栓症と対策. 日本内科学会雑誌 2016.
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