1.フルミストとは?
フルミストは、インフルエンザの予防を目的とした経鼻インフルエンザ生ワクチンです。従来のように注射するのではなく、鼻にスプレーで噴霧するだけで免疫をつけることができます。欧米では2000年代初頭から使われており、季節性インフルエンザの予防手段として活用されています。
フルミストの主な特徴
- ワクチンの種類:生ワクチン(A型2種+B型)
- 接種方法:両鼻腔にスプレーする経鼻投与
- 接種対象:2歳以上19歳未満
- 接種回数:通常は1回
2.フルミストの効果はいつまで?
フルミストの免疫効果は、接種後約2週間で発現し、おおよそ6〜12か月程度持続します。
粘膜免疫の誘導が特徴
経鼻ワクチンの大きなメリットは、鼻や喉の粘膜表面での局所免疫(IgA)を誘導する点です。インフルエンザウイルスの侵入経路である鼻粘膜で直接防御力を高めるため、感染予防に高い効果が期待できます。
有効性のエビデンス
特に小児においては、フルミストが従来の不活化ワクチンより高い予防効果を示す可能性があります。
Belsheら(2007年)によると、2〜5歳の小児に対するフルミストは、注射型のワクチンよりも有効率が約55%高かったと報告されています。
3.フルミストと通常のインフルエンザワクチンの違い
項目 | フルミスト(経鼻ワクチン) | 通常の不活化ワクチン(注射) |
---|---|---|
種類 | 生ワクチン | 不活化ワクチン |
接種方法 | 鼻スプレー | 皮下または筋肉注射 |
対象年齢 | 2~18歳 | 6か月以上の全年齢 |
免疫の種類 | 粘膜免疫+全身免疫 | 全身免疫のみ |
痛み | なし | 注射による痛みあり |
有効性(小児) | 高い傾向 | 標準的 |
小児や若年層での利便性が高く、「注射が苦手」「痛みに弱い」といった理由で接種率が上がりにくい人への有効な選択肢になります。
4.フルミストの副反応は?
フルミストは生ワクチンのため、接種後に軽微な副反応が出ることがあります。いずれも一過性で数日以内に改善することが多いです。
主な副反応(頻度が高い)
- 鼻水、鼻づまり(約40%)
- 発熱(約10〜20%)
- 倦怠感、頭痛、喉の痛み
重篤な副反応(まれ)
- 喘鳴(特に喘息の既往がある場合)
- アナフィラキシー様症状(極めて稀)
接種後の注意点
- 接種後は軽度にウイルスが鼻腔から排出されるため、免疫抑制状態の人と同居している場合は慎重に検討する必要があります。
5.フルミストのメリット
1. 注射不要で痛みなし
最大の利点は「注射が不要」であること。子どもや注射恐怖のある人にとって、心理的負担が少なく接種率向上に寄与します。
2. 粘膜免疫の誘導
鼻からの自然感染に近い形で免疫を誘導することで、鼻腔粘膜からの感染を初期でブロックできます。
3. 小児での高い有効性
特に2〜8歳の健康な子どもにおいては、注射型よりも高い効果が報告されています。
4. 間接的な集団免疫効果の期待
接種後に排出されたウイルスにより、周囲の人に対する「接触免疫効果」(コンタクト・イミュニゼーション)も報告されています。
5.フルミストと他のワクチンの同時接種が可能
- 「不活化ワクチン(新型コロナワクチンなど)」とは同時接種が可能です。
- 他の「生ワクチン」(例:麻疹・風疹、水痘、BCGなど)とも同時接種が可能です
フルミストとワクチンの同時接種:
ワクチンの種類 | 同時接種の可否 | 補足説明 |
---|---|---|
不活化ワクチン(四種混合、日本脳炎、肺炎球菌など) | ✅ 可能 | 接種部位が異なれば問題なし |
mRNAワクチン(新型コロナ) | ✅ 可能 | 副反応には注意を |
生ワクチン(麻しん風しん、水痘、BCGなど) | ✅ 可能 | 自治体等で助成がある場合は、各自治体の規定に従ってください |
6.フルミストを接種できない人・注意が必要な人
フルミストはすべての人に使用できるわけではありません。生ワクチンであるがゆえの制限がいくつかあります。
❌ フルミスト接種が禁忌または非推奨なケース
禁忌・非推奨対象 | 理由 |
---|---|
2歳未満および19歳以上 | 安全性・効果が未確認 |
妊婦 | 胎児への影響が不明、生ワクチンのため |
免疫抑制状態の人 | 感染リスクあり(例:抗がん剤使用中、HIVなど) |
喘息など慢性呼吸器疾患のある人 | 呼吸器症状の悪化が懸念される |
アスピリン内服中の小児 | ライ症候群のリスク |
卵アレルギー(重度) | 鶏卵成分を含む可能性がある |
ゼラチンアレルギーのある人 | アナフィラキシーの危険性 |
一時的に接種を見合わせるべき場合
- 発熱や急性疾患があるとき
- 同居家族に重度の免疫抑制患者がいる場合
医師の判断が必要なケース
- 持病のある人
- 妊娠の可能性がある女性
- 過去にワクチンで副反応を起こした人
医師と相談したうえで適切なワクチンを選択することが大切です。
7.Q&A

鼻閉がある方にフルミストを接種してもよいですか?

鼻づまりがあると、ワクチンが鼻咽頭粘膜に到達しにくい場合があるため、病気が治まるまで接種を延期するか、代わりに別のワクチンを選択します。

フルミスト接種後にインフルエンザ迅速検査が陽性に出ることはありますか?

接種後一定期間(1週間程度)は、フルミスト由来のワクチンウイルスがインフルエンザの迅速検査で陽性反応を示す可能性があります

フルミスト接種後は妊婦との接触は避けるべきですか?

フルミスト接種後に妊婦との接触は避ける必要はないと考えられます。
8.まとめ:フルミストは小児・若年者におすすめの選択肢
フルミストは、注射が苦手な人や小児に対して優れた利便性と予防効果を持つ経鼻インフルエンザワクチンです。特に健康な2〜8歳の子どもに対しては、従来型ワクチン以上の効果が期待できるケースもあります。一方で、生ワクチンならではの適応制限や禁忌事項があるため、すべての人が打てるわけではないという点にも注意が必要です。インフルエンザ予防は自分だけでなく、家族や地域を守る行動です。ワクチンの選択は、医療機関での相談をもとに、体質・年齢・生活環境に合わせて最適な方法を選びましょう。
参考文献
- Belshe RB, Edwards KM, Vesikari T, et al. Live attenuated versus inactivated influenza vaccine in infants and young children. N Engl J Med. 2007;356(7):685–696.
- Centers for Disease Control and Prevention (CDC). “Nasal Spray Flu Vaccine (LAIV4)”.
- 日本感染症学会「インフルエンザワクチンに関する提言」2023年版
- 山口貴也 他. 経鼻生ワクチン「フルミスト」の有効性と課題. 小児感染免疫, 2021年
- 国立感染症研究所. インフルエンザワクチンQ&A
- 厚生労働省「予防接種に関するガイドライン(最新版)」