1.ヒスタミン中毒とは?
ヒスタミン中毒は、主に魚介類を原因とする食中毒の一種で、「アレルギー様食中毒」とも呼ばれています。特に、サバ、マグロ、イワシ、カツオなどの赤身魚が原因になることが多く、食後すぐに顔の紅潮、じんましん、吐き気などの症状が現れます。
細菌によって魚肉中に蓄積されたヒスタミンという化学物質を摂取することで起こり、アレルギー反応と似た症状を引き起こすことが特徴です。
近年では、冷蔵・冷凍流通の進歩にもかかわらず、不適切な保存状態によって発生する例が報告されており、注意が必要です。
2.ヒスタミン中毒の症状
ヒスタミン中毒は、食後数分〜1時間以内に急激に発症します。症状は軽症から中等症が多いですが、不快感が強く、アレルギーと誤認されることがあります。
主な症状
- 顔面や耳の紅潮
- じんましん、かゆみ
- 頭痛
- 吐き気、嘔吐、腹痛、下痢
- 心悸亢進(動悸)
- 血圧低下やめまい(重症例)
症状の持続時間
多くの場合は数時間以内に軽快し、後遺症を残すことはありません。ただし、大量のヒスタミンを摂取した場合や、感受性が強い人では強い症状が出ることがあります。
3.ヒスタミン中毒の原因・機序
原因となる食品
- サバ、マグロ、カツオ、イワシ、サンマなどの赤身魚
- シラス干し、煮干しなどの加工魚製品
- チーズやソーセージ(発酵食品)も原因になりうる
発生のメカニズム
赤身魚の筋肉にはヒスチジンというアミノ酸が多く含まれています。これが常温放置や冷蔵不足などの保存不良によって、**ヒスタミン産生菌(例:モルガネラ菌、プロテウス菌)**の働きにより分解され、ヒスタミンが生成されます。
このヒスタミンは加熱調理でも分解されず、口から摂取すると血管拡張やアレルギー様反応を引き起こすのです。
6.ヒスタミン中毒の検査と診断
ヒスタミン中毒の診断は、主に症状の経過と食事歴からの臨床診断によって行われます。
診断のポイント
- 赤身魚など特定の食品を摂取後、短時間で発症
- 家族や同じ食事をした人に同様の症状が見られる
- 医療機関では血液検査や画像検査よりも食事歴の聴取が重視されます
検査(必要に応じて)
- 食品中のヒスタミン濃度測定(行政による調査)
- ヒスタミン値は100mg/kg以上で中毒の可能性が高いとされる
- 血液検査やアレルギー検査は基本的に不要
7.ヒスタミン中毒の治療
多くの場合、ヒスタミン中毒は軽症で自然軽快しますが、症状の緩和を目的とした対症療法が行われます。
主な治療法
-
抗ヒスタミン薬(内服または点滴)
-
じんましんやかゆみに効果的
-
-
制吐薬
-
吐き気や嘔吐に対する治療
-
-
輸液療法
-
嘔吐・下痢による脱水がある場合
-
-
重症例では入院管理も検討されるが稀
自宅でできること
- 同様の症状が家族に出たら一緒に受診する
- 残った食品を保管しておく(行政調査のため)
8.ヒスタミン中毒と食物アレルギーの違い
ヒスタミン中毒はアレルギーと症状が酷似しているため誤認されがちですが、原因やメカニズムは全く異なります。
比較項目 | ヒスタミン中毒 | 食物アレルギー |
---|---|---|
原因物質 | 食品内のヒスタミン | 食品中のアレルゲン(タンパク質) |
発症までの時間 | 食後すぐ(30分以内) | 食後すぐ〜数時間以内 |
発症の条件 | 保存不良でヒスタミンが増加 | アレルゲンに対する体質による |
症状 | 紅潮、じんましん、吐き気など | 同様の皮膚症状+呼吸困難など |
再発性 | なし(同じ食品でも保存良好ならOK) | 再発する(体質依存) |
対応 | 抗ヒスタミン薬、時間経過 | アレルゲン除去、アドレナリン注射など |
9.参考文献
- 厚生労働省. 食品衛生に関する情報 > 食中毒の種類 > ヒスタミン中毒.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000197436.html - 国立医薬品食品衛生研究所. 食品中のヒスタミンとその安全性.
https://www.nihs.go.jp/hse/food-info/foodinfonews/2012/foodinfo201219e.pdf - 日本中毒学会. 食品由来中毒の最新動向と対応.
- FAO/WHO. Public Health Risks of Histamine and Other Biogenic Amines from Fish and Fishery Products.
https://www.fao.org/3/i5381e/i5381e.pdf