1.日本紅斑熱とは?
日本紅斑熱(Japanese spotted fever)は、マダニが媒介する感染症で、リケッチア属細菌の一種であるRickettsia japonicaによって引き起こされます。発熱や発疹、刺し口(マダニ刺咬痕)が三大症状とされ、1990年代以降、特に西日本で報告数が増えています。
日本紅斑熱は重症化することもあるため、早期の診断と適切な治療が重要です。山や草むらなどの自然環境に立ち入る機会が多い人は特に注意が必要です。
2.日本紅斑熱の症状
日本紅斑熱の潜伏期間は通常2~8日(平均5日)とされ、以下のような症状が見られます。
- 高熱(38〜40℃):急激な発熱で始まることが多い
- 発疹:発熱から数日後、手足を含む全身に紅斑性の発疹が出現。点状出血を伴うこともある
- 刺し口(マダニ咬傷部位):体幹に見られることが多く、黒くかさぶた状になっている
- 頭痛、倦怠感、筋肉痛:インフルエンザ様症状が初期にみられる
- 消化器症状:悪心、嘔吐、下痢など
- 重症例では血小板減少、肝障害、中枢神経症状も報告されています
早期治療が行われない場合、DIC(播種性血管内凝固)や多臓器不全に進行することがあり、致死率は1〜2%と報告されています(厚生労働省, 2023)。
3.日本紅斑熱の原因
原因菌:Rickettsia japonica
グラム陰性の偏性細胞内寄生細菌で、マダニの体内に常在しています。
感染経路:マダニ咬傷
感染の主な原因は、マダニに咬まれることです。マダニは草むらや山林、田畑などに生息しており、特に以下のような場面で咬まれやすくなります。
- 登山やキャンプ、農作業
- 草刈り、庭いじりなどの屋外活動
感染者はマダニが媒介する細菌を皮膚から体内に取り込むことで発症します。人から人への感染は報告されていません。
4.日本紅斑熱の検査と診断
臨床診断は以下の3点に基づいて行われます。
- マダニの咬傷歴
- 発熱と発疹の存在
- 刺し口の確認
確定診断には、以下の検査が用いられます。
検査法 | 内容 |
---|---|
血清抗体検査(ペア血清) | IgM抗体価の上昇を確認。急性期と回復期の血液を比較 |
PCR法 | Rickettsia japonicaの遺伝子を検出 |
組織染色 | 皮膚生検によるリケッチアの染色確認(Gimenez染色など) |
診断は容易ではないため、地域特有の流行情報と臨床所見を総合的に判断することが必要です。
5.日本紅斑熱の治療
日本紅斑熱には、ウイルスではなく細菌感染症に分類されるため、抗菌薬が有効です。
第一選択薬:テトラサイクリン系抗菌薬
-
ドキシサイクリン(Doxycycline)
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通常:100mgを1日2回、7日間
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発症早期の内服で、ほとんどの症例は改善
-
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小児にも有効性・安全性が報告されており、重症例では静脈投与が検討されます
重症例では補助療法も必要
- 輸液や解熱薬の投与
- 肝機能障害や血小板減少に対する支持療法
- ICU管理が必要なケースもある
抗菌薬の投与開始が遅れると重症化のリスクが高まるため、疑いがあれば早めに治療を開始することが推奨されます。
6.日本紅斑熱の患者分布
日本紅斑熱は、全国的に見ると西日本を中心に報告されています。以下は厚労省感染症発生動向調査(IDWR)の最新データを参考にした分布状況です。
多く報告されている地域
都道府県 | 備考 |
---|---|
徳島県 | 最も多く報告されている地域の一つ |
高知県 | 流行地域の中心 |
和歌山県 | 農作業従事者に多い |
三重県、兵庫県、岡山県など | 山間部での感染が多い |
特に春から秋にかけての発生が多く、マダニの活動期と一致しています。
7.こんな症状の時はクリニックを受診しましょう
次のような症状がある場合には、早めに医療機関を受診してください。
- 山や草むらに入った後に発熱や発疹が出た
- 原因不明の高熱が続いている
- マダニに咬まれた痕跡がある(黒くかさぶた状の刺し口)
- 倦怠感が強く、頭痛や筋肉痛を伴う
- 発疹が消えず、拡大している
早期受診と治療によって、多くの症例は回復が可能です。
参考文献
- 厚生労働省 感染症発生動向調査(IDWR)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1655-idwr-dl.html - 国立感染症研究所 日本紅斑熱の疫学と対策
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ja/jsf.html - 川崎洋一, 他. 日本紅斑熱の臨床的特徴と診断指針. 日本感染症学会誌, 2018; 92(4): 450-458.
- Japanese Society for Rickettsiology and Leptospirology. Guidelines for rickettsial infections. 2020年改訂版.