1.高額療養費制度とは?
高額療養費制度(こうがくりょうようひせいど)は、公的医療保険(健康保険、国民健康保険など)に加入している人が、医療機関や薬局で支払った医療費が高額になった場合に、その超過分が払い戻される仕組みです。
日本の医療制度は「国民皆保険制度」により、誰もが医療保険に加入しており、病院での診察料や薬代などの自己負担割合は通常1~3割と定められています。しかし、長期入院や大きな手術などで医療費が高額になることもあります。
このようなときに家計への過度な負担を抑えるために設けられているのが、高額療養費制度です。
2.高額療養費制度の対象
高額療養費制度が適用されるのは、以下のような場合です。
● 対象となる費用
- 病院や診療所での診察・治療費(入院・外来ともに対象)
- 処方せんによる薬局での調剤費用
- 医療機関での検査費用、手術費用など
● 対象とならない費用
- 自由診療(美容目的の施術など)
- 差額ベッド代(個室利用等)
- 入院時の食事代・日用品費
- 先進医療の技術料(一部例外あり)
● 対象者
- 健康保険・国民健康保険・後期高齢者医療制度に加入しているすべての人
- 医療費の自己負担が1カ月で一定額を超えた場合(※詳細は次章)
3.高額療養費制度の申請方法
① 事前に「限度額適用認定証」を取得する(おすすめ)
入院や手術など、事前に高額になるとわかっている場合は、加入している医療保険の窓口で「限度額適用認定証」を申請・取得しましょう。これを医療機関に提示することで、窓口での支払いが最初から自己負担限度額までで済みます。
限度額適用認定証の申請手続き
- 窓口:各健康保険組合、協会けんぽ、市区町村(国保)
- 提出書類:認定申請書、被保険者証の写しなど
- 対象:70歳未満(70歳以上は自動的に反映される)
② すでに支払った場合は後日申請も可能
限度額適用認定証を事前に提出していなかった場合でも、診療月の翌月から2年以内であれば、高額療養費の払い戻しを申請できます。
後日の申請方法
- 医療保険者(例:協会けんぽ、国保)に申請
- 領収書や診療明細書の提出が必要な場合あり
- 審査を経て、該当額が振込で払い戻される
4.高額療養費制度のルール
① 自己負担限度額の計算方法
高額療養費制度では、年齢や所得区分ごとに**「自己負担限度額(月額)」が設定されています。以下は70歳未満の場合の一例**です。
所得区分 | 自己負担限度額(1か月) | 備考 |
---|---|---|
年収約1,160万円以上 | 約252,600円+(医療費−842,000円)×1% | 高所得者 |
年収約770~1,160万円 | 約167,400円+(医療費−558,000円)×1% | 上位所得者 |
年収約370~770万円 | 約80,100円+(医療費−267,000円)×1% | 中間所得層 |
年収~約370万円 | 57,600円 | 一般 |
住民税非課税世帯 | 35,400円 | 低所得者 |
※上記は目安であり、年度により若干変更されることがあります。
② 多数回該当制度とは?
過去12カ月以内に、3回以上高額療養費の支給を受けた場合、4回目以降の自己負担限度額がさらに軽減されます。
例:通常80,100円 → 44,400円に軽減(年収370~770万円のケース)
③ 世帯合算が可能
同じ世帯内で複数人が医療を受けていて、それぞれの医療費が21,000円以上かかっていれば世帯全体の医療費を合算して自己負担限度額と比較することができます。
5.高額療養費制度の注意点と活用のコツ
● 医療費が「高額になる前」に申請するのがベスト
→ 限度額適用認定証を利用すると窓口負担を抑えられるため、入院が決まった段階で申請しておきましょう。
● 高額療養費制度と民間保険の関係
→ 高額療養費制度を使ってもなお残る費用(食事代や差額ベッド代など)は民間の医療保険でカバーできる場合があります。
● 高額療養費と医療費控除は併用可能
→ 高額療養費で払い戻された金額を除いた自己負担分は医療費控除の対象になります。確定申告時に申告しましょう。
● 月またぎに注意
→ 計算単位は「1カ月(1日~末日)」であるため、入院や治療が月をまたぐと自己負担限度額が2か月分になる可能性があります。調整できる場合は医師に相談を。
6.まとめ
高額療養費制度は、日本の公的医療保険制度の中でも非常に重要なセーフティネットです。万が一、大きな病気やケガをした際に医療費が高額になっても、家計を守ることができます。
「自分はまだ若いから関係ない」と思いがちですが、突然の入院や手術は誰にでも起こり得ます。事前に制度の内容を理解し、必要に応じて「限度額適用認定証」を準備しておくと安心です。