1.家族性高コレステロール血症(FH)とは?
家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia、略してFH)は、遺伝的にLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が異常に高くなる病気です。通常の高コレステロール血症とは異なり、家系内に同じ病気の人が多いことが特徴です。
日本では推定30万人以上がFHに該当するとされていますが、診断されているのはごく一部にすぎません(Harada-Shiba et al., 2012)。放置しておくと若い年齢から動脈硬化が進行し、心筋梗塞や狭心症といった重大な心血管疾患を引き起こす可能性があります。
2.家族性高コレステロール血症の原因と遺伝子
FHの主な原因は、LDLコレステロールの代謝に関与する遺伝子の変異です。多くの場合、以下の3つの遺伝子のうちいずれかに異常があります。
- LDL受容体遺伝子(LDLR)
- ApoB(アポリポ蛋白B)遺伝子
- PCSK9遺伝子
これらの遺伝子の異常により、体内のLDLコレステロールが肝臓に取り込まれにくくなり、血中に高濃度で残存してしまうのです。
FHには遺伝形式により以下の2つのタイプがあります:
FHの型 | 特徴 | 発症年齢 | LDL-C値 |
---|---|---|---|
ヘテロ接合体型FH | 両親のどちらかから遺伝 | 小児期~青年期 | 180~400 mg/dL |
ホモ接合体型FH | 両親の両方から遺伝 | 幼児期から発症、重症 | >500 mg/dL |
ホモ接合体型は極めてまれで、早期に心血管イベントを起こすリスクが非常に高いため、出生直後からの治療介入が必要です。
3.家族性高コレステロール血症患者に特徴的な所見
FHは血液検査でLDLコレステロールの高値を示すほか、以下のような身体的特徴も重要な診断のヒントになります。
- アキレス腱肥厚(アキレス腱の太さが9mm以上になることも)
- 黄色腫(きいろしゅ):皮膚や関節にできる黄色い脂肪の塊
- 角膜輪(アークス・セニリス):角膜周辺に白く濁ったリング
特にアキレス腱の肥厚はFHの特徴的な所見であり、X線やMRIで測定することもあります。
4.家族性高コレステロール血症の検査・診断基準
FHは、以下のような臨床診断基準(日本動脈硬化学会)に基づいて診断されます。
FH診断基準(ヘテロ接合体FH)
以下のうち2項目以上を満たす場合にFHと診断:
- LDL-Cが180mg/dL以上
- アキレス腱肥厚(厚さ9mm以上)
- FHの家族歴(親・兄弟など)
加えて、遺伝子検査でLDLR、ApoB、PCSK9の異常を確認できれば、確定診断となります。
FHが疑われた場合、家族も一緒に検査(カスケードスクリーニング)を受けることが推奨されています。
5.家族性高コレステロール血症の治療法
FHの治療の基本は、LDLコレステロール値を目標値まで下げることです。ガイドラインでは以下のような治療が行われます。
薬物療法
薬剤 | 作用 | 主な例 |
---|---|---|
スタチン系薬剤 | LDL-Cを低下させる第一選択 | アトルバスタチン、ロスバスタチン |
エゼチミブ | 小腸でのコレステロール吸収を阻害 | ゼチーア |
PCSK9阻害薬 | LDL受容体の分解を抑制しLDL-Cを低下 | レパーサ、プラルエント |
LDLアフェレシス | 機械的に血中LDL-Cを除去 | 重症FHに適応 |
食事・運動療法
- 動物性脂肪の摂取制限
- 魚や野菜中心の食生活
- 禁煙と適度な運動
食事・運動だけでは目標値に届かないため、薬物療法が基本となります。
6.なぜ家族性高コレステロール血症を治療する必要があるのか?
FHを治療しない場合、30代〜40代で心筋梗塞などの心血管イベントを起こす可能性が非常に高くなります。
Harada-Shibaらの研究によれば、未治療のFH患者の冠動脈疾患発症率は、一般人の約20倍にもなると報告されています(Harada-Shiba et al., 2016)。一方、スタチン治療を行えば発症リスクは大幅に低下することが示されており、早期の診断と治療が命を守る鍵になります。
7.家族性高コレステロール血症の合併症・リスク
FHによって引き起こされる主な合併症は以下の通りです:
- 早期発症の冠動脈疾患(心筋梗塞・狭心症)
- 脳梗塞
- 末梢動脈疾患(下肢のしびれや痛み)
特に、喫煙・糖尿病・高血圧などの危険因子が重なるとリスクが跳ね上がります。そのため、FH患者では、コレステロール管理と同時に他の生活習慣病にも注意が必要です。
8.まとめ:家族性高コレステロール血症は「家族を守るための病気」
FHは「遺伝性で見逃されやすい」疾患である一方、早期発見・早期治療で予後を大きく改善できる病気です。
ご自身の健康だけでなく、ご家族の健康を守るためにも、「LDLコレステロールが高い」「親族に心臓病が多い」といった場合には一度医師に相談し、必要であれば検査を受けることをおすすめします。
9.参考文献
- Harada-Shiba M, et al. “Diagnosis and treatment of familial hypercholesterolemia in children and adolescents: clinical guidelines.” J Atheroscler Thromb. 2012;19(11):1043–1060.
- Harada-Shiba M, et al. “Familial hypercholesterolemia: Characteristics, diagnosis, and management in Japan.” J Clin Lipidol. 2016;10(5):1092–1101.
- 日本動脈硬化学会. 家族性高コレステロール血症診療ガイドライン2022年版.
- Gidding SS, et al. “The Agenda for Familial Hypercholesterolemia: A Scientific Statement From the American Heart Association.” Circulation. 2015;132(22):2167–2192.