1.FeNO検査とは?
喘息の診断や治療効果の評価において、近年注目されているのがFeNO(Fractional exhaled Nitric Oxide)検査です。FeNOとは「呼気一酸化窒素濃度」のことで、呼吸に含まれる一酸化窒素の量を測定する検査です。
一酸化窒素(NO)は、体内の炎症反応に関与する物質であり、特に好酸球性炎症を示すマーカーとして知られています。喘息では、気道の慢性的な炎症が特徴的であり、FeNOの値が高くなることがあります。
FeNOの基本的なポイント:
- 測定は息を吐くだけの非侵襲的な方法
- ほんの数分で結果がわかる迅速性
- 喘息やその重症度、治療反応性の評価に有用
厚生労働省もこの検査を2020年に保険適用とし、全国の医療機関で導入が進んでいます(厚生労働省:診療報酬改定資料, 2020年)。
2.FeNO検査で何がわかる?
FeNO検査でわかることは、主に気道のアレルギー性炎症の程度です。これは喘息の重要な病態のひとつである「好酸球性炎症」と深く関係しています。
FeNO値と気道炎症の関連
FeNO値(ppb) | 判定の目安 | 主な解釈 |
---|---|---|
≦25 ppb | 低値 | 炎症は少ない(喘息の可能性低) |
25~50 ppb | 中等度 | 一定の炎症あり(要経過観察) |
≧50 ppb | 高値 | 好酸球性炎症が強い(喘息を強く示唆) |
(出典:ATS/ERSガイドライン, 2011)
ただし、FeNOはあくまで「炎症の程度を補助的に評価する」指標であり、診断確定には問診、スパイロメトリー(呼吸機能検査)、呼吸音の聴診など他の情報との組み合わせが必要です。
FeNO値の臨床的意義
- 喘息の診断補助:喘息かどうか迷うケースでの判断材料に
- 治療反応性の予測:吸入ステロイドが効きやすいタイプかの見極め
- 治療効果の評価:吸入薬で炎症が改善しているかどうかを確認
特にICS(吸入ステロイド)による治療効果を事前に予測できるのは、FeNO検査の大きな魅力です。
3.FeNO検査の方法とメリット
検査の流れ
- 専用の装置(例:NIOX VEROなど)に口をつける
- 約10秒間、一定の速度で息を吐く
- 数分で数値が表示される
子どもから高齢者まで簡単にでき、痛みや苦しさのない検査です。また、呼気のみを使うため、血液検査のような侵襲がありません。
検査のメリット
メリット | 解説 |
---|---|
非侵襲的 | 呼気を使うだけなので苦痛なし |
簡便・迅速 | 約10分程度で完結し、当日に結果がわかる |
繰り返し検査が可能 | 治療の経過観察に繰り返し使える |
ステロイド反応性の予測ができる | FeNOが高いほど、ICSが有効な傾向にある |
近年では、小児喘息の診断補助としても多用されるようになっており、小児科クリニックでも導入が進んでいます。
4.FeNO検査の値段
FeNO検査は2020年4月より保険適用となりました。
保険診療での費用(自己負担額)
保険の種類 | 自己負担額の目安(1回あたり) |
---|---|
3割負担 | 約600円 |
2割負担 | 約400円 |
1割負担 | 約200円 |
※施設や診療報酬の加算条件により異なる場合あり
また、保険適用には「気管支喘息の診断補助または治療効果判定が目的であること」が必要です。健康診断などで自由診療扱いになる場合、3,000~5,000円程度が相場となることもあります。
5.FeNO検査はどんな人におすすめ?
以下のような人は、FeNO検査の実施が強く推奨されます:
- 咳や息切れが続いているが、喘息かどうか診断がついていない人
- 喘息治療中で、吸入ステロイドの効果を確認したい人
- 子どもが喘息かどうか見極めたいが、スパイロメトリーが難しい場合
- 「咳喘息」と診断されているが、より詳しく評価したい人
一方、FeNOはタバコの喫煙やウイルス感染などでも値が変動するため、常に100%の信頼を置くべき検査ではありません。あくまで「炎症をみる一つの方法」として活用するのが正しい使い方です。
6.参考文献
- American Thoracic Society/European Respiratory Society. ATS/ERS recommendations for standardized procedures for the online and offline measurement of exhaled lower respiratory nitric oxide and nasal nitric oxide, 2005. Am J Respir Crit Care Med. 2005;171(8):912-930. doi:10.1164/rccm.200406-710ST
- Dweik RA, Boggs PB, Erzurum SC, et al. An official ATS clinical practice guideline: interpretation of exhaled nitric oxide levels (FeNO) for clinical applications. Am J Respir Crit Care Med. 2011;184(5):602-615.
- 厚生労働省. 令和2年度 診療報酬改定資料. 呼吸機能関連検査の新規評価(FeNO検査の保険適用)
- 日本呼吸器学会. 喘息診療ガイドライン 2021
- 高橋洋文 他. 呼気NO測定による喘息診断の臨床的有用性. アレルギー. 2016;65(5):550-556.