帯状疱疹ワクチンで認知症リスクが下がる?最新研究と接種すべき人を医師が解説

ワクチン・予防医療

はじめに

「帯状疱疹ワクチンを打つと、認知症になりにくいという話を聞いたのですが本当ですか?」

最近、このような質問を受けることが増えてきました。

帯状疱疹ワクチンは、もともと帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛を予防するためのワクチンです。しかし近年、複数の研究で「帯状疱疹ワクチンを接種した人は、認知症の発症率が低い可能性がある」と報告され、注目されています。

この記事では、現時点でわかっていること、まだわかっていないこと、そして「帯状疱疹ワクチンは積極的に接種すべきか」について、できるだけわかりやすく解説します。

結論:認知症予防効果は期待されるが、まだ確定ではありません

まず結論からいうと、帯状疱疹ワクチンと認知症リスク低下の関係は、かなり注目すべき研究結果が出てきています。一方で、現時点ではまだ、

「帯状疱疹ワクチンを打てば認知症を予防できる」

と断定できる段階ではありません。

研究の多くは、実際の医療データを用いた観察研究や自然実験に近い研究です。これらは非常に有用ですが、ワクチン接種そのものが直接認知症を防いだのか、あるいは健康意識や生活習慣など別の要因が関係しているのかを完全に切り分けることは難しい面があります。そのため、現時点での正しい理解は、

「帯状疱疹ワクチンには、帯状疱疹を防ぐ効果に加えて、認知症リスクを下げる可能性が示されている」

という表現が最も適切です。

なぜ帯状疱疹ワクチンと認知症が関係するのか?

帯状疱疹は、水ぼうそうにかかった後に体内に潜伏した水痘・帯状疱疹ウイルスが、加齢や免疫力の低下をきっかけに再活性化することで起こります。帯状疱疹は皮膚の病気と思われがちですが、実際には神経に関係する病気です。強い痛みを伴ったり、治った後も神経痛が残ったりすることがあります。

認知症との関係については、いくつかの仮説があります。

1つ目は、ウイルスの再活性化による神経への影響です。水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化することで、神経や脳の炎症に関係する可能性が考えられています。

2つ目は、ワクチンによってウイルスの再活性化を抑えることで、長期的な炎症や神経へのダメージが減る可能性です。

3つ目は、ワクチンによる免疫調整作用です。特にシングリックスのような組換えワクチンでは、免疫反応を高めるアジュバントが使われており、それが何らかの形で認知症リスクに関係している可能性も考えられています。

ただし、これらはまだ研究段階の仮説です。今後さらに詳しい研究が必要です。

どのような研究が報告されているのか?

近年、帯状疱疹ワクチンと認知症の関係について、いくつかの重要な研究が報告されています。

1. シングリックス®(組換え帯状疱疹ワクチン)で認知症リスクが低かったという研究

2024年に発表された研究では、組換え帯状疱疹ワクチンを接種した人は、従来の生ワクチンを接種した人と比べて、その後6年間の認知症診断リスクが低い可能性が示されました。この研究では、シングリックス®を受けた人のほうが、認知症と診断されるまでの期間が長いという結果が示されています。特に重要なのは、単に「ワクチンを打った人と打っていない人」を比較しただけではなく、ワクチンの切り替わり時期を利用して比較している点です。健康意識の高い人ほどワクチンを打ちやすい、というバイアスをある程度減らそうとした研究といえます。

2. ウェールズの自然実験で認知症診断が約20%少なかったという研究

2025年には、ウェールズでの帯状疱疹ワクチン導入制度を利用した研究が報告されました。この研究では、制度上ワクチンの対象になった人と、わずかな年齢差で対象にならなかった人を比較しています。その結果、帯状疱疹ワクチンを受けた人では、7年間の追跡で新たな認知症診断が約20%少なかったと報告されました。この研究は、単純な観察研究よりも因果関係に近づきやすいデザインであるため、非常に注目されています。

3. 2026年の大規模研究でもリスク低下が報告

2026年には、65歳以上の人を対象に、シングリックス®(組換え帯状疱疹ワクチン)を2回接種した人と未接種の人を比較した大規模研究も報告されました。この研究でも、2回接種した人では認知症リスクが低いという結果が示されました。

ただし、このような研究では「ワクチンを接種する人は、もともと健康意識が高い」「医療機関に定期的に通っている」「生活習慣が整っている」などの影響を完全には取り除けません。そのため、結果は有望ですが、慎重に解釈する必要があります。

認知症予防のために帯状疱疹ワクチンを打つべき?

現時点では、認知症予防だけを目的に帯状疱疹ワクチンを接種する、というよりも、

「帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛を予防するために接種する。そのうえで、認知症リスク低下の可能性も期待できる」

と考えるのがよいと思います。

帯状疱疹は、年齢とともに発症しやすくなります。特に高齢になると、皮膚症状が治った後も痛みが長く残る帯状疱疹後神経痛が問題になります。痛みが長引くと、睡眠、食事、外出、気分、生活の質に大きな影響を与えます。そのため、帯状疱疹ワクチンは、認知症との関係を抜きにしても、対象年齢の方には接種を検討する価値が高いワクチンです。さらに近年の研究結果を考えると、認知症リスク低下の可能性は「追加で期待できるメリット」として説明できます。

積極的に接種を検討したほうがよい人

次のような方は、帯状疱疹ワクチンの接種を積極的に検討してよいと考えます。

  • 50歳以上の方
  • 65歳以上で定期接種や自治体助成の対象となる方
  • 帯状疱疹後神経痛をできるだけ避けたい方
  • 過去に帯状疱疹にかかったことがある方
  • 糖尿病、慢性腎臓病、自己免疫疾患などがあり、帯状疱疹リスクが気になる方
  • ご家族に認知症があり、将来の認知症予防に関心がある方

ただし、免疫抑制薬を使用している方、抗がん剤治療中の方、持病のある方は、ワクチンの種類によって接種できるもの・できないものがあります。必ず主治医に相談してください。

では、シングリックス®を選ぶべき?

帯状疱疹ワクチンには種類がありますが、近年の研究で特に注目されているのは、シングリックス®(組換え帯状疱疹ワクチン)です。一般的には、予防効果の高さや持続性を考えると、費用面が許容できる場合には組換え帯状疱疹ワクチンを選ぶメリットは大きいと考えられます。ただし、ワクチンの種類、費用、接種回数、副反応、持病との関係については、個別に判断が必要です。

詳しくは、以下の記事で解説しています。

関連記事:
帯状疱疹ワクチンの種類と効果|シングリックスと生ワクチンの違い
帯状疱疹ワクチンはいつ打つべき?対象年齢・助成制度・接種時期を解説

注意点:認知症予防効果を過大評価しすぎないこと

ここで大切なのは、帯状疱疹ワクチンを「認知症を確実に防ぐワクチン」と考えすぎないことです。認知症の予防には、ワクチンだけでなく、生活習慣全体が重要です。たとえば、

  • 高血圧の管理
  • 糖尿病の管理
  • 脂質異常症の管理
  • 禁煙
  • 適度な運動
  • 睡眠
  • 社会的な交流
  • 難聴への対応
  • 過度な飲酒を避けること

などが大切です。

帯状疱疹ワクチンは、これらの認知症予防策の代わりになるものではありません。しかし、帯状疱疹を防ぎ、長く続く神経痛を防ぎ、さらに認知症リスク低下の可能性も期待できるのであれば、対象となる方にとっては十分に検討する価値があります。

当院での考え方

当院では、帯状疱疹ワクチンについて、次のように考えています。まず第一の目的は、帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛を予防することです。そのうえで、近年の研究から、認知症リスク低下の可能性も示されており、これは患者さんにお伝えしてよい重要な情報だと考えています。

ただし、現時点ではまだ研究段階の知見であり、「認知症を予防するために必ず打つべき」と断定するものではありません。

一方で、50歳以上の方、特に65歳以上の方では、帯状疱疹そのもののリスクが高くなります。定期接種や自治体の助成制度が利用できる場合には、接種を前向きに検討してよいワクチンです。費用、副反応、持病、内服薬、接種時期について不安がある方は、診察時にご相談ください。

まとめ

帯状疱疹ワクチンと認知症の関係については、近年、注目すべき研究が相次いで報告されています。現時点では、帯状疱疹ワクチンを接種した人で認知症リスクが低い可能性が示されていますが、認知症予防効果が確定したわけではありません。しかし、帯状疱疹ワクチンは、帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛を予防する目的ではすでに有用性が認められているワクチンです。そのため、対象年齢の方は、「帯状疱疹を防ぐために接種する。認知症リスク低下の可能性は追加のメリットとして考える」という理解で、前向きに接種を検討してよいと思います。

参考文献

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