- 1.喘息でもスポーツはできる?|大切なのは「我慢」ではなく正しい管理
- 2.運動誘発性喘息・EIBとは?|「運動すると苦しい」の原因
- 3.喘息・EIBでよくみられる症状
- 4.喘息・EIBの診断|アスリートでは「客観的な検査」が重要
- 5.喘息治療の基本|「発作止めだけ」ではなく炎症を抑える
- 6.自宅・練習現場でできる喘息対策
- 7.競技復帰の目安|「咳が少しあるけど出場」は危険なことも
- 8.アスリートと喘息薬|ドーピング規制に注意
- 9.TUE申請とは?|治療のために禁止物質が必要な場合の手続き
- 10.市民レベルからトップアスリートまで|競技レベル別の注意点
- 11.薬を使う前に確認したいこと|Global DROとスポーツファーマシスト
- 12.喘息を持つアスリートが安全に競技を続けるためのチェックリスト
- 13.まとめ|喘息は「競技を諦める病気」ではありません
- 参考文献
1.喘息でもスポーツはできる?|大切なのは「我慢」ではなく正しい管理
「運動すると咳が出る」「走ると胸が苦しくなる」「試合後にゼーゼーする」「喘息があるからスポーツを続けてよいのか不安」――このような悩みを抱える方は少なくありません。喘息は、気道に慢性的な炎症が起こり、咳、喘鳴(ゼーゼー・ヒューヒュー)、息苦しさ、胸の圧迫感などを繰り返す病気です。運動によって症状が出る場合は、運動誘発性喘息、より正確には運動誘発性気管支収縮(Exercise-Induced Bronchoconstriction:EIB)と呼ばれます。ただし、喘息やEIBがあるからといって、スポーツを諦める必要はありません。最新の喘息管理では、適切な吸入治療を行い、運動前の対策と発作時の対応を準備すれば、多くの方が安全に運動・競技を続けられると考えられています。
この記事のポイント
- 喘息があっても、コントロールが良ければスポーツは可能です。
- 運動中・運動後の咳や息苦しさは、運動不足ではなくEIBのサインかもしれません。
- 喘息治療の基本は、気道の炎症を抑える吸入ステロイド薬を含む治療です。
- アスリートは、薬の使用前にドーピング規制とTUE申請の要否を確認する必要があります。
- 市民ランナーや部活動レベルでも、大会によってはアンチ・ドーピング規則が関係することがあります。
2.運動誘発性喘息・EIBとは?|「運動すると苦しい」の原因
運動誘発性気管支収縮(EIB)とは、運動中または運動後に気道が一時的に狭くなり、咳、喘鳴、息切れ、胸の苦しさなどが出る状態です。運動時は呼吸数が増え、口呼吸になりやすくなります。その結果、冷たい空気や乾燥した空気、花粉、大気汚染、プールの塩素刺激などが気道に入りやすくなり、気道が収縮しやすくなります。
EIBが起こりやすい場面
- 寒い日や乾燥した日の屋外運動
- 長距離走、サッカー、バスケットボールなど持久的な運動
- スキー、スケート、クロスカントリーなど冷気を吸いやすい競技
- プール競技など、塩素刺激を受けやすい環境
- 花粉、黄砂、PM2.5、大気汚染が多い日の運動
- 風邪をひいた後、睡眠不足、疲労が強いとき
特にアスリートは、心肺機能が高いため、軽い喘息症状を「追い込み不足」「体力低下」「メンタルの問題」と誤解してしまうことがあります。しかし、繰り返す運動後の咳や息苦しさは、きちんと評価すべきサインです。
3.喘息・EIBでよくみられる症状
喘息やEIBでは、以下のような症状がみられます。
- 運動中または運動後に咳が出る
- 走った後にゼーゼー、ヒューヒューする
- 胸が締めつけられる感じがする
- 息が吸いにくい、または吐きにくい
- 運動後しばらく咳が続く
- 夜間や早朝に咳で目が覚める
- 風邪の後に咳だけが長引く
- 寒い場所、花粉の時期、ほこりっぽい場所で悪化する
EIBの症状は、運動開始直後よりも、運動開始から数分後、または運動終了後5〜15分程度で目立つことがあります。「運動中は何とか走れるが、終わった後に咳き込む」というパターンも典型的です。
早めに受診した方がよいサイン
- 運動後の咳が毎回のように出る
- 息苦しさで練習や試合のパフォーマンスが落ちている
- 夜間や早朝の咳がある
- 発作止めの吸入薬を頻回に使っている
- 吸入薬を使っても改善が乏しい
- 胸痛、失神、動悸を伴う
4.喘息・EIBの診断|アスリートでは「客観的な検査」が重要
喘息やEIBの診断では、症状の聞き取りだけでなく、肺機能検査などを組み合わせて評価します。特に競技者では、TUE申請が必要になる可能性もあるため、検査結果を含めた客観的な記録が重要です。
問診で確認すること
- 咳、喘鳴、息苦しさ、胸の圧迫感の有無
- 症状が出るタイミング:運動中、運動後、夜間、早朝など
- 悪化しやすい環境:寒冷、乾燥、花粉、ほこり、プール、感染後など
- 競技種目、練習量、試合日程
- 吸入薬や内服薬の使用歴
- アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、アトピー性皮膚炎の有無
- 家族歴、喫煙・受動喫煙、電子タバコへの曝露
主な検査
| 検査 | わかること |
|---|---|
| スパイロメトリー | 気道が狭くなっていないか、1秒量(FEV1)などを評価します。 |
| 気管支拡張薬反応性検査 | 吸入薬の前後で肺機能が改善するかを確認します。 |
| 呼気一酸化窒素(FeNO) | 好酸球性の気道炎症の参考になります。 |
| ピークフロー測定 | 日内変動や練習前後の変化を自宅・現場で確認できます。 |
| 運動負荷試験 | 運動後にFEV1が低下するかを確認し、EIBを評価します。 |
| EVH試験・マンニトール負荷など | トップアスリートなどで、EIBをより専門的に評価する場合があります。 |
一般的に、運動負荷後にFEV1が一定以上低下する場合、EIBが疑われます。安静時の肺機能が正常でも、運動時だけ症状が出ることがあるため、「普段の検査が正常だから喘息ではない」とは言い切れません。
似た症状を起こす別の病気にも注意
アスリートの息苦しさは、すべて喘息とは限りません。以下のような病気や状態との鑑別も大切です。
- 運動誘発性喉頭閉塞(EILO)・声帯機能異常
- 貧血、鉄欠乏
- 不整脈、心疾患
- 過換気症候群、不安・パニック
- 副鼻腔炎、後鼻漏、アレルギー性鼻炎
- 感染後咳嗽
- オーバートレーニング、睡眠不足、REDs(相対的エネルギー不足)
5.喘息治療の基本|「発作止めだけ」ではなく炎症を抑える
喘息治療で最も大切なのは、気道の炎症を抑えることです。近年の国際的な喘息管理では、喘息を発作止めの短時間作用性β2刺激薬(SABA)だけで管理することは推奨されていません。症状が少なくても気道炎症が存在することがあり、SABAへの依存は増悪リスクにつながるためです。
主な治療薬
| 薬の種類 | 役割 | スポーツ時のポイント |
|---|---|---|
| 吸入ステロイド薬(ICS) | 気道炎症を抑える基本治療薬です。 | 症状がない日も継続することが重要です。 |
| ICS/LABA配合薬 | 炎症を抑えながら気道を広げます。 | 治療段階に応じて使用します。ホルモテロール配合薬は発作時にも使う治療戦略があります。 |
| SABA | 発作時や運動前に気道を広げます。 | 必要時に使用しますが、頻回使用はコントロール不良のサインです。 |
| ロイコトリエン受容体拮抗薬 | アレルギー性鼻炎やEIBを伴う場合に使うことがあります。 | 単独で十分でない場合もあり、医師と治療方針を確認します。 |
| 生物学的製剤 | 重症喘息で検討されます。 | 専門医で適応を判断します。 |
運動前の吸入について
EIBがある方では、医師の指示のもとで、運動前に発作予防の吸入薬を使用することがあります。従来は運動前のSABA吸入がよく用いられてきましたが、喘息全体の管理としては、普段からICSを含む治療で気道炎症をコントロールしておくことが重要です。また、ICS-ホルモテロールを発作時・運動前にも使用する治療戦略が選択されることもあります。ただし、使用できる薬剤、年齢、保険適用、用量、競技規則との関係は個別に確認が必要です。
6.自宅・練習現場でできる喘息対策
喘息やEIBの管理では、薬だけでなく、日々のセルフケアも重要です。
運動前にできること
- 十分なウォームアップを行う
- 寒い日はマスクやネックウォーマーで吸い込む空気を温める
- 花粉、黄砂、PM2.5が多い日は練習場所や時間を調整する
- 体調不良、睡眠不足、風邪の後は練習強度を下げる
- 医師から指示された吸入薬を正しいタイミングで使用する
- 発作時の吸入薬を持参する
運動中に気をつけること
- 咳、喘鳴、胸苦しさが出たら無理に続けない
- 症状が出たときの中止基準を、本人・家族・指導者で共有する
- 発作時の吸入薬の場所をチーム内で共有する
- 急な悪化時に救急受診できる体制を確認しておく
日常生活でできること
- 吸入薬を自己判断で中断しない
- 吸入手技を定期的に確認する
- ピークフローや症状日誌をつける
- アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎も治療する
- 禁煙し、受動喫煙や電子タバコの煙を避ける
- 寝不足、過労、感染症を避ける
吸入薬が効きにくいときに確認したいこと
- 吸入のタイミングは合っているか
- 吸入手技に問題がないか
- 薬の残量があるか
- 練習環境が寒冷・乾燥・花粉・大気汚染に偏っていないか
- アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎が悪化していないか
- そもそも喘息以外の原因ではないか
7.競技復帰の目安|「咳が少しあるけど出場」は危険なことも
喘息発作後や症状悪化後に競技へ戻る場合は、段階的な復帰が大切です。特に大会前は焦りが出やすいですが、コントロール不良のまま出場すると、パフォーマンス低下だけでなく、重い発作につながることがあります。
競技復帰を考えやすい状態
- 日中の咳や息苦しさが落ち着いている
- 夜間・早朝の咳で起きていない
- 発作止めの吸入薬の使用回数が増えていない
- ピークフローが本人の良い値に近い
- 軽い運動から始めても症状が悪化しない
- 吸入薬の使い方と発作時対応を本人が理解している
復帰を延期した方がよい状態
- 安静時にも息苦しさがある
- 会話がつらい、横になれない
- 夜間の咳や喘鳴が続いている
- 発作止めを何度も使っている
- 風邪、発熱、強い倦怠感がある
- 吸入薬を使っても改善が乏しい
復帰は、軽いジョギング、短時間の練習、通常練習、試合形式、公式戦というように、段階的に進めます。症状が再燃する場合は、治療の見直しや検査が必要です。
8.アスリートと喘息薬|ドーピング規制に注意
競技者にとって、喘息薬は非常に重要なテーマです。喘息の治療薬の中には、アンチ・ドーピング規則上、使用量や投与経路に制限があるものがあります。特に注意が必要なのは、β2刺激薬と糖質コルチコイド(ステロイド)です。
2026年禁止表における主な喘息関連薬の考え方
| 薬剤・投与経路 | 競技上の扱い | 注意点 |
|---|---|---|
| 吸入ステロイド薬(ICS) | 通常、禁止されません | 承認用量・治療適応内で使用します。 |
| 吸入サルブタモール | 一定量までは許可 | 24時間最大1600μg、かつ8時間で600μgを超えない範囲。ただし国内承認用量にも注意が必要です。 |
| 吸入ホルモテロール | 一定量までは許可 | 24時間最大54μg、かつ12時間で36μgを超えない範囲。 |
| 吸入サルメテロール | 一定量までは許可 | 24時間最大200μg、かつ8時間で100μgを超えない範囲。 |
| 吸入ビランテロール | 一定量までは許可 | 24時間最大25μgまで。 |
| プロカテロール、ツロブテロールなど | 禁止対象となる可能性が高い | 日本でよく使われる薬でも、WADAの例外に含まれないβ2刺激薬はTUEが必要になる可能性があります。 |
| ホクナリンテープなどのβ2刺激薬貼付薬 | 要注意 | ツロブテロールはβ2刺激薬に該当します。競技者は必ず確認が必要です。 |
| ネブライザーによるβ2刺激薬吸入 | TUEが必要となる場合があります | JADAはネブライザー使用について注意喚起をしています。投与経路の確認が重要です。 |
| 経口・注射・坐薬の糖質コルチコイド | 競技会時は禁止 | 急性発作で必要な場合は、TUEまたは遡及的TUEが関係することがあります。 |
| 点鼻ステロイド、吸入ステロイド、外用ステロイドなど | 通常、禁止されません | 承認用量・治療適応内で使用することが前提です。 |
ここで重要なのは、「医師に処方された薬だから必ず大丈夫」とは限らないという点です。治療目的であっても、禁止物質が検出されれば、原則として競技者本人に責任が問われます。
9.TUE申請とは?|治療のために禁止物質が必要な場合の手続き
TUEとは、Therapeutic Use Exemptionの略で、日本語では治療使用特例と呼ばれます。病気やけがの治療のために禁止物質・禁止方法を使用せざるを得ない場合に、条件を満たせば使用が認められる制度です。
TUEが必要になりやすいケース
- WADAの例外に含まれないβ2刺激薬を使用する場合
- 吸入β2刺激薬を許容量を超えて使用する必要がある場合
- ネブライザーでβ2刺激薬を使用する場合
- 競技会時に経口・注射・坐薬のステロイドが必要な場合
- 重症喘息発作で緊急治療が必要になった場合
TUE申請に必要になりやすい医療情報
- 診断名だけでなく、診断に至った根拠
- 症状の経過、悪化因子、既往歴
- スパイロメトリーなどの肺機能検査結果
- 気管支拡張薬反応性、運動負荷試験、ピークフロー記録など
- FeNO、アレルギー検査など補助的な情報
- なぜその薬が必要なのか、代替薬では不十分な理由
- 処方内容、用量、使用期間
JADAでは、TUE申請は原則として治療前に行う手続きで、国内レベルアスリートでは原則として必要となる日の30日前までの申請が求められます。書類は最新の様式を使い、英語で記載する必要があります。

10.市民レベルからトップアスリートまで|競技レベル別の注意点
喘息薬とTUEの対応は、競技レベルや参加する大会によって異なります。
| 競技レベル | 主な注意点 |
|---|---|
| 健康づくり・市民レベルの運動 | 通常はTUE申請が問題になることは多くありません。ただし、市民マラソンやマスターズ大会でも規則が適用される大会では薬の確認が必要です。 |
| 部活動・地域大会 | 大会規則や競技団体のルールを確認しましょう。将来的に上位大会へ進む選手は、早めに薬の記録を整理しておくと安心です。 |
| 国スポ、全国大会、国内最高レベルの競技会 | 国内レベルアスリートに該当する場合、禁止物質を使用するにはJADAへの事前TUE申請が必要です。 |
| 国際大会・トップアスリート | 国際競技連盟(IF)や大会主催者のTUE規則を確認する必要があります。JADAで認められたTUEが国際大会でそのまま有効とは限りません。 |
自分がどのカテゴリーに当てはまるかわからない場合は、JADAのアスリート・カテゴリーチェッカーや、所属競技団体、チームドクター、スポーツファーマシストに確認しましょう。
11.薬を使う前に確認したいこと|Global DROとスポーツファーマシスト
競技者は、薬を使用する前に、以下を確認しておくと安心です。
- 薬の商品名だけでなく、成分名を確認する
- 投与経路を確認する:吸入、内服、貼付、注射、ネブライザーなど
- Global DROで検索し、検索結果をPDFなどで保存する
- スポーツファーマシストに相談する
- 大会前に使用薬リストを整理しておく
- サプリメント、漢方薬、市販薬にも注意する
特に、風邪薬、咳止め、貼付薬、漢方薬、サプリメントは見落としやすいポイントです。喘息治療と直接関係ない薬でも、競技規則上問題になることがあります。
12.喘息を持つアスリートが安全に競技を続けるためのチェックリスト
競技者向けチェックリスト
- 喘息・EIBの診断根拠を医療機関で確認している
- 吸入薬の使い方を定期的に確認している
- 症状がない日も必要な長期管理薬を継続している
- 運動前・発作時の吸入薬の使い方を理解している
- 発作時の対応を本人・家族・指導者で共有している
- 使用薬をGlobal DROやスポーツファーマシストで確認している
- TUEが必要な競技レベルか確認している
- 必要な場合、30日前を目安にTUE申請の準備をしている
- 検査結果や診療情報を保管している
13.まとめ|喘息は「競技を諦める病気」ではありません
喘息や運動誘発性喘息があると、「スポーツを続けてよいのか」「試合中に発作が出たらどうしよう」と不安になるかもしれません。しかし、喘息は適切に管理すれば、多くの方が運動や競技を続けることができます。大切なのは、症状を我慢することではなく、正確な診断、吸入ステロイド薬を含む適切な治療、運動前の対策、発作時の行動計画、そして競技者ではTUE・ドーピング規制への理解です。市民ランナー、部活動の選手、競技志向のアスリート、トップアスリートのいずれであっても、「喘息だから無理」と決めつける必要はありません。咳や息苦しさを繰り返す場合は、早めに医療機関で相談し、安全にスポーツを続けるための準備を整えましょう。
参考文献
- Global Initiative for Asthma(GINA):2026 GINA Strategy Report
- Global Initiative for Asthma(GINA):2025 Summary Guide for Asthma Management and Prevention
- 日本アレルギー学会:喘息予防・管理ガイドライン2024
- Minds:小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023
- American Thoracic Society:Exercise-induced Bronchoconstriction Clinical Practice Guideline
- NCBI Bookshelf:Exercise-Induced Bronchoconstriction
- World Anti-Doping Agency(WADA):The Prohibited List
- 日本アンチ・ドーピング機構(JADA):2026年禁止表国際基準 日本語版
- JADA:TUE申請手続きの流れ
- JADAクリーンスポーツ・アスリートサイト:禁止物質・方法の確認
- Global DRO:薬の禁止物質確認

