「同じ成分なのに、なぜ名前が違うの?」
「どちらの方が痩せる?保険は使える?」
マンジャロとゼップバウンドは、どちらも体重減少作用がある注射薬として注目されています。実は、この2つの薬の有効成分は、どちらもチルゼパチド(tirzepatide)です。しかし、日本では承認されている病気や、保険診療で使用できる条件が異なります。さらに、2026年5月にはゼップバウンドの承認内容が変更され、肥満症の適応が一部拡大するとともに、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療にも使用できるようになりました。
この記事では、マンジャロとゼップバウンドの違いについて、最新の添付文書や臨床研究をもとに、医師がわかりやすく解説します。
※この記事は2026年10月時点の日本国内の承認情報・診療制度に基づいています。
マンジャロとゼップバウンドの違い【比較表】
最初に結論をお伝えすると、マンジャロとゼップバウンドの最大の違いは、薬の成分ではなく「どの病気の治療薬として承認されているか」という点です。
| 比較項目 | マンジャロ | ゼップバウンド |
|---|---|---|
| 有効成分 | チルゼパチド | チルゼパチド |
| 薬の種類 | GIP/GLP-1受容体作動薬 | GIP/GLP-1受容体作動薬 |
| 日本での承認適応 | 2型糖尿病 | 肥満症、中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群 |
| 投与方法 | 週1回の皮下注射 | 週1回の皮下注射 |
| 開始用量 | 2.5mg/週 | 2.5mg/週 |
| 通常の維持用量 | 5mg/週 | 肥満症:10mg/週、睡眠時無呼吸症候群:15mg/週 |
| 最大用量 | 15mg/週 | 15mg/週 |
| 体重減少作用 | あり | あり |
| 保険適用 | 2型糖尿病の保険診療で使用可能 | 定められた患者・施設などの条件を満たす場合 |
同じ成分でも、治療対象によって投与量や必要な検査、保険適用条件が異なります。

マンジャロとゼップバウンドはなぜ同じ成分なのに名前が違う?
マンジャロは2型糖尿病の治療薬
マンジャロは、血糖値を下げることを目的として開発された薬です。日本では2型糖尿病の治療薬として承認されています。血糖を改善する作用に加えて食欲を抑える作用もあるため、治療中に体重が減少することがあります。ただし、日本ではマンジャロそのものに「肥満症」の適応はありません。そのため、糖尿病のない方に対して、単に体重を減らす目的で使用することは承認された適応ではありません。
ゼップバウンドは肥満症や睡眠時無呼吸症候群の治療薬
一方、ゼップバウンドは同じチルゼパチドを有効成分としながら、肥満症の治療薬として開発・承認された製剤です。日本では2025年4月から販売され、2026年5月には適応が変更されました。現在の承認適応は、次の2つです。
- 一定の条件を満たす肥満症
- BMIが27以上の中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群
つまり、マンジャロは糖尿病治療、ゼップバウンドは肥満症・睡眠時無呼吸症候群の治療というように、承認された使用目的が異なるのです。なお、ゼップバウンドの適応があることと、健康保険を使用できることは必ずしも同じではありません。この点は後ほど詳しく説明します。
マンジャロとゼップバウンドの作用メカニズムは?
どちらの薬も、GIPとGLP-1という2種類のホルモンの受容体に作用する薬です。GIPとGLP-1は、食事をとった後に腸から分泌される「インクレチン」と呼ばれるホルモンです。チルゼパチドは、これらのホルモンの働きを利用して、血糖や食欲を調整します。
① 血糖値を改善する
血糖値が高いときに膵臓からのインスリン分泌を促進し、血糖値を下げる方向に働きます。また、血糖値を上昇させるグルカゴンの分泌にも作用します。血糖値に応じて作用するため、単独使用では低血糖を起こしにくいという特徴があります。ただし、他の糖尿病薬と併用する場合には注意が必要です。
② 食欲を抑える
脳の食欲調節に関わる経路に作用し、空腹感や食事の摂取量を減らす方向に働きます。食欲が自然に低下することで、食事量が減少し、体重減少につながります。
③ 胃から食べ物が排出される速度を遅くする
胃の内容物が腸へ移動する速度を遅くする作用があります。これにより満腹感が続きやすくなりますが、同時に吐き気や胃もたれなどの副作用にも関係します。これらの作用はマンジャロとゼップバウンドに共通しています。
マンジャロとゼップバウンドはどっちが痩せる?
多くの方が気になるのは、どちらの方が体重減少効果が高いのかという点でしょう。結論として、同じ有効成分を同じ用量で投与する場合、薬の名前だけで体重減少効果に大きな差が生じるとは考えられません。ただし、日本で承認された標準的な投与量は異なるため、実際の体重変化は使用量や患者さんの状態によって変わります。
臨床試験では約15~21%の体重減少が報告
2022年に医学誌「New England Journal of Medicine」に発表されたSURMOUNT-1試験では、糖尿病のない肥満または過体重の成人2,539人を対象に、チルゼパチドの体重減少効果が検討されました。72週間の治療による平均体重変化率は、以下のとおりでした。
| 投与群 | 72週間後の平均体重変化率 |
|---|---|
| チルゼパチド5mg | −15.0% |
| チルゼパチド10mg | −19.5% |
| チルゼパチド15mg | −20.9% |
| プラセボ | −3.1% |
例えば、体重100kgの方が20%減量した場合、80kgになる計算です。ただし、この数値は臨床試験に参加した集団の平均結果であり、すべての方が20%痩せるという意味ではありません。また、試験参加者の平均体重は約105kgであり、日本人を含む個々の患者さんにそのまま当てはまるとは限りません。実際の減量効果には、用量、食事、運動、年齢、糖尿病の有無などが影響します。
ゼップバウンドは睡眠時無呼吸症候群にも効果がある?
2026年の重要な変更点として、ゼップバウンドは日本でも中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA・SAS)に対して承認されました。ただし、BMIが27以上の患者さんに限られます。
睡眠時無呼吸症候群が改善する理由
肥満は閉塞性睡眠時無呼吸症候群の重要な危険因子です。首の周囲や舌、上気道周囲の脂肪が増加することなどにより、睡眠中に気道が閉塞しやすくなります。チルゼパチドによって体重が減少すると、気道の閉塞が起こりにくくなり、睡眠中の無呼吸・低呼吸が改善することが期待できます。
臨床試験で無呼吸の回数が減少
2024年に発表されたSURMOUNT-OSA試験では、肥満を伴う中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者さんを対象に、チルゼパチドの効果が検討されました。52週間後、睡眠1時間あたりの無呼吸・低呼吸回数を表すAHIは、チルゼパチド群で平均約25~29回/時間減少しました。プラセボ群での減少は約5回/時間であり、チルゼパチドによる有意な改善が認められました。ただし、ゼップバウンドはCPAPなどの標準治療を必ずしも置き換えるものではありません。治療中も睡眠検査などで効果を評価し、CPAPなどを継続する必要があるか判断します。
ゼップバウンドは保険適用になる?
ゼップバウンドは健康保険で使用できる場合がありますが、単にBMIが高いだけでは保険適用にはなりません。肥満症と睡眠時無呼吸症候群では、保険診療で使用する際の条件が異なります。
肥満症で保険適用となる条件
肥満症に対する保険診療では、原則として高血圧・脂質異常症・2型糖尿病のいずれかがあり、さらに以下のいずれかを満たす必要があります。
- BMIが27以上で、肥満に関連する健康障害が2つ以上ある
- BMIが35以上である
また、最適使用推進ガイドラインでは、原則として以下のような条件も求められます。
- 適切な食事療法・運動療法を6か月以上実施しても効果が不十分
- この期間に2か月に1回以上、管理栄養士による栄養指導を受けている
- 合併している高血圧・脂質異常症・2型糖尿病に対して、適切な薬物治療が行われている
- 定められた要件を満たす医療機関で治療を受ける
そのため、すべてのクリニックで保険診療として処方できるわけではありません。
2026年の改訂で「耐糖能異常」も適応に追加
2026年5月の承認変更では、肥満症の対象となる基礎疾患に、2型糖尿病以外の耐糖能異常などが追加されました。ただし、ここには重要な注意点があります。
承認上の適応は拡大しましたが、肥満症としての保険給付は、高血圧・脂質異常症・2型糖尿病のいずれかを有する場合に限られています。
つまり、耐糖能異常だけを理由にゼップバウンドを保険診療で使用できるわけではありません。承認適応と保険適用の条件は、分けて考える必要があります。
睡眠時無呼吸症候群での保険適用条件
中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群に対する治療では、BMIが27以上であることが承認上の条件です。保険診療での使用にあたっては、睡眠検査による診断に加えて、原則として事前の食事療法・運動療法による減量、管理栄養士による栄養指導、医療機関の施設要件なども求められます。ガイドラインでは原則BMI30以上の患者さんが想定され、BMI27以上30未満では投与の必要性を慎重に判断します。
マンジャロとゼップバウンドの値段は違う?
マンジャロとゼップバウンドは同じ成分ですが、薬価は同じではありません。2026年10月時点の薬価を例に、1キット(1週間分)の価格を比較します。
| 薬剤・規格 | 薬価(1キット) | 4週間分の薬価 |
|---|---|---|
| マンジャロ2.5mg | 1,443円 | 5,772円 |
| ゼップバウンド2.5mg | 3,067円 | 12,268円 |
| マンジャロ5mg | 2,886円 | 11,544円 |
| ゼップバウンド5mg | 5,797円 | 23,188円 |
※薬価は公定価格であり、実際の窓口負担額とは異なります。診察料、検査料、調剤関連費用などは含みません。薬価は改定される場合があります。
例えば、ゼップバウンド5mgを4週間使用する場合、薬剤費の薬価は23,188円です。健康保険の3割負担で使用できる場合、薬剤費部分の自己負担は単純計算で約6,956円となります。ただし、実際に保険適用となるかどうかは、患者さんの病気や治療条件によって判断されます。一方、マンジャロを自由診療で使用する場合、価格は医療機関ごとに設定されるため、公定薬価とは異なります。同じ目的でどちらでも安い方を自由に選べるというわけではなく、承認された治療目的に合わせて薬剤を選択することが重要です。
マンジャロとゼップバウンドの副作用は同じ?
両剤は同じ有効成分を含むため、副作用の種類も基本的に共通しています。
よくみられる副作用
- 吐き気・嘔吐
- 下痢
- 便秘
- 腹痛・胃もたれ
- 食欲低下
- 注射した部分の赤みやかゆみ
特に治療開始時や増量時には、吐き気などの消化器症状が起こりやすくなります。副作用がつらい場合には、無理に増量せず、投与量の調整や増量時期の延期を検討します。
注意が必要な重大な副作用
頻度は高くありませんが、次のような副作用にも注意が必要です。
- 急性膵炎
- 胆嚢炎・胆管炎などの胆道系疾患
- 重いアレルギー反応
- イレウス(腸閉塞)
- 嘔吐や下痢による脱水、急性腎障害
- 低血糖(特に一部の糖尿病薬との併用時)
特に持続する強い腹痛、繰り返す嘔吐、著しい腹部膨満、呼吸困難などがある場合は、速やかに医療機関を受診してください。
妊娠中や妊娠を希望する方は注意
チルゼパチドは妊娠中の使用が認められていません。また、胃の内容物排出を遅くすることで、経口避妊薬の効果に影響する可能性があります。妊娠を希望する方や経口避妊薬を使用している方は、必ず処方医に相談してください。
マンジャロとゼップバウンドは併用できる?
マンジャロとゼップバウンドを併用することはできません。どちらもチルゼパチドを含むため、併用すると同じ成分を重複投与することになります。過量投与によって、吐き気や嘔吐、脱水、低血糖などの危険性が高まるおそれがあります。また、他のGLP-1受容体作動薬などとの併用も避ける必要があります。糖尿病や肥満症など複数の病気がある場合でも、自己判断で薬を追加したり、切り替えたりしないでください。
ゼップバウンドはいつまで使う?やめるとリバウンドする?
ゼップバウンドは、使用を続ければ必ず永久に体重が減り続ける薬ではありません。また、投与を中止すると、食欲が戻り体重が増加する可能性があります。
投与中止後に体重が増加した研究
2024年に発表されたSURMOUNT-4試験では、チルゼパチドによる治療後に薬を中止した群で、体重の再増加がみられました。36週間の治療で平均約20.9%の体重減少を達成した参加者を対象に、その後52週間の経過を調べたところ、薬を中止した群では平均14.0%の体重増加が認められました。一方、薬を継続した群では、さらに平均5.5%の体重減少がみられました。このことから、減量後も長期的な体重管理が重要であることがわかります。なお、日本の最適使用推進ガイドラインでは、肥満症に対するゼップバウンドの投与は最大72週間、睡眠時無呼吸症候群では最大52週間とされています。薬の中止後も、食事療法や運動療法を継続し、体重や合併症を管理していく必要があります。
よくある質問(FAQ)
Q1. マンジャロとゼップバウンドは全く同じ薬ですか?
有効成分はどちらもチルゼパチドで、基本的な作用は共通しています。ただし、日本で承認された適応疾患や標準的な投与量、保険診療で使用する条件は異なります。
Q2. マンジャロよりゼップバウンドの方が痩せますか?
同じ成分であるため、同じ用量を使用した場合に薬の名前だけで体重減少効果が大きく異なるとは考えられません。ただし、承認された用量設定や患者さんの状態によって実際の効果は変わります。
Q3. 糖尿病がなくてもマンジャロを使用できますか?
日本でマンジャロの承認適応は2型糖尿病です。糖尿病のない方が減量目的で使用することは適応外使用となります。肥満症の薬物治療が必要な場合は、適応と安全性を評価したうえで、承認された治療方法を検討します。
Q4. BMIが27以上ならゼップバウンドを保険で処方できますか?
いいえ。肥満症の場合、BMI以外にも合併症や事前の食事・運動療法、医療機関の条件などがあります。また、睡眠時無呼吸症候群でも診断や治療に関する条件があります。
Q5. ゼップバウンドを使用すれば食事制限や運動は不要ですか?
いいえ。薬物治療中も適切な食事療法と運動療法を継続することが必要です。筋肉量の低下を防ぐためにも、栄養バランスや身体活動を意識した治療が重要です。
Q6. ゼップバウンドだけで睡眠時無呼吸症候群は治りますか?
体重減少に伴う改善は期待できますが、すべての患者さんで無呼吸が解消するわけではありません。CPAPなどが必要な場合もあるため、睡眠検査で効果を確認しながら治療を継続します。
まとめ|マンジャロとゼップバウンドは目的によって使い分ける薬
マンジャロとゼップバウンドは、どちらもチルゼパチドを有効成分とする注射薬です。重要なポイントをまとめます。
- マンジャロは2型糖尿病の治療薬
- ゼップバウンドは肥満症・中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療薬
- 成分が同じため、基本的な作用や副作用は共通している
- 体重減少効果は薬剤名よりも、用量や患者さんの状態に影響される
- ゼップバウンドの保険診療には、患者と医療機関の条件がある
- マンジャロとゼップバウンドは併用できない
- 薬物治療だけでなく、食事療法や運動療法が重要
大切なのは「どちらがより痩せるか」ということだけではなく、どの病気に対して、何を目標に治療するかという点です。糖尿病や肥満症、睡眠時無呼吸症候群は、いずれも継続的な管理が重要な病気です。薬の効果と副作用を理解し、自分に合った治療方法を医師と相談して決めていきましょう。
参考文献・公的資料
- PMDA:マンジャロ皮下注 電子添付文書(2026年9月改訂)
- PMDA:ゼップバウンド皮下注 電子添付文書(2026年9月改訂)
- 厚生労働省:ゼップバウンドの使用にあたっての留意事項(2026年5月18日)
- 厚生労働省:閉塞性睡眠時無呼吸症候群に対するチルゼパチドの最適使用推進ガイドライン関連通知
- Jastreboff AM, et al. Tirzepatide Once Weekly for the Treatment of Obesity. N Engl J Med. 2022;387:205-216.
- Malhotra A, et al. Tirzepatide for the Treatment of Obstructive Sleep Apnea and Obesity. N Engl J Med. 2024.
- Aronne LJ, et al. Continued Treatment With Tirzepatide for Maintenance of Weight Reduction in Adults With Obesity. JAMA. 2024;331:38-48.
- Jastreboff AM, et al. Tirzepatide for Obesity Treatment and Diabetes Prevention. N Engl J Med. 2025;392:958-971.
【免責事項】この記事は一般的な医療情報の提供を目的としたものであり、個別の診断や治療を代替するものではありません。薬剤の使用や変更については、必ず担当医にご相談ください。
